第十三話 300年で何があったのか

「ん~……っと。じゃ、そろそろやるか」


 1時間程ゴロゴロした俺は、徐によっこらせと起き上がると、胡坐をかいて、パソコンの前に陣取った。

 そして、キーボードに手を添える。


「さて……色々と調べたいことがあるが、まずは歴史だな。ここ300年間で何があったのかは知っておきたい」


 見れば、このパソコンにも魔法が使われているようだ。

 魔力による電子操作――雷属性か。

 俺自身、雷属性に適性は無いが、だからと言って全く使えない訳では無いから、解るんだよね。

 まー俺でも微妙なやつしか使えんけど。


「えっと、日本の歴史……っと」


 まずは日本の歴史から。

 キーボードを叩き、空中ディスプレイに表示される検索結果。

 その中から、Wでおなじみの、一番無難そうなサイトをクリックする。

 そして、ぐる~と薄型マウスを使ってスクロールして、目的の時代があるところまで飛ばす。


「……ここかな」


 そうして現れた2024年の文字。

 俺はそこから、一言一句逃さないとばかりに、ゆっくりと最新のところまで見て行った。

 その結果――


「……ある意味あの時、地上に行かなくて良かったな」


 300年の歴史を前に、思わずそんな言葉を零してしまった。

 調べた結果、分かったことは多岐に渡るが……まず、どうやらあの日出現した大穴は、ここだけでなく世界中で出現したようだ。

 その数実に44か所。しかもその全てが、それなりに人間が居る街とか言う不運っぷり。

 日本では、静岡県浜松市以外にも、兵庫県神戸市に大穴が開いたらしい。

 そして、世界中の大穴から、黒い人型の醜悪な化け物――クリーチャーが出て来て、パニックに陥った。日本では自衛隊が派遣され、他国では軍等が派遣され――結果として、クリーチャー共、数日の内に殲滅出来たようだ。

 だが、その後すぐに大穴から上位種のデミクリーチャーが出始め、最終的には第100階層クラスの魔物が出て来たらしい。

 そこまで来ると、銃ではその皮膚を貫くことすら出来ず、戦車の砲撃を喰らわせても生きている始末。国によっては、核兵器まで使って街ごと吹き飛ばしたようだ。


「つまり、街が変わったのは、ここに核兵器が落とされたからなんだな」


 日本含む一部の国では、街を巻き込んだ爆撃をすることすら強い批判が起こり、そのせいで対処が遅れ、被害が拡大した。

 その結果、核兵器を使わないとどうしようも無い状況にまで陥ったのは、何と言えばいいのやら。

 しかも、そんな世紀末みたいな状況に陥ったら、当然の如く治安は悪化し、「これは神の裁きなんだ~!」的な感じのテロ行為も起こったりして、歴史を見て追うだけでも、「地獄やなぁ……」と思ってしまう程だった。


「まあ、流石は最新兵器と言うべきか、時間はかかったものの、何とか収まった。だが、この後がなぁ……」


 そう。ダンジョンが安定し始めたことで、数十年の歳月はかかったものの、魔物の地上進行は収まり、進出していた魔物もほぼ全滅した。

 だが、終わったら今度は復興ではなく、他国の粗を突くのが人間というものなのか。

 テロ行為等の責任云々で争いが起こり、戦争勃発。

 結果いくつもの国が分裂吸収崩壊し、最終的には全員敗者的な感じで幕を下ろした。


「長い事こんな事態なら、技術もそら進まんわ」


 貴重な研究資料等も紛失し、文明は相当な期間停滞してしまったようだ。

 皆、それどころじゃねぇ! 兵器だ兵器!って感じだ。

 お陰で天然資源もカツカツ。

 因みに人口は、全世界で100年間に4割も減る有様だった。

 とんでもねぇな。


「そんな時に、削れてむき出しとなったダンジョンに調査隊を派遣して――気づいたという訳か」


 今から160年ほど前を境に、各国は気づいた。

 ダンジョンに入ることで、レベルやステータスという今では当たり前となった概念を取得することが出来る……と。

 そして、魔物の心臓とも言える魔石が、エネルギー源となることを。


「俺は気づくの遅れたが、魔石って言わば魔力の――エネルギーの塊みたいなものだからね」


 今人間が手に入れられるレベルの魔石では、石油程エネルギー効率は良くないが――石油などの天然資源を手に入れられない国にとってはさぞかし魅力的だったことだろう。

 そして、レベルを上げれば、あっという間にオリンピック選手顔負けの身体能力を手に入れられると来た。

 結果、世界中でダンジョン探索が促進され、今では探索者という1つの職業になった……と言う訳だ。


「で、次はレベルや魔法、技能とかの探索者関連についてかな」


 そう言って、今度は探索者関連の事について、世界ではどのような認識になっているのか調べてみた。

 その結果、それらについては大方同じ認識であることが分かった。

 ただ、やはり俺1人では、知りえない事もあった。

 レベルアップの速度は人によって違い、俺の速度は結構速い方だという事。

 魔法に適性があるのは3人に1人で、適性数は平均3属性で最高9属性である事。

 世界中にある44か所のダンジョンの内部構造は、ほぼ同じである事。

 現在の最高到達点は第202階層である事。因みに、浜松のダンジョンは第200階層が最高到達点だった。

 こんな所だろうか。


「それにしても、魔法に対する理解は、俺と結構違うんだなぁ……でもこれだと、魔法を使感覚しか身につかんだろ」


 魔法について調べてみて思ったのだが、魔法は言霊で魔力に干渉することで引き起こされる現象とされており、魔力に影響を及ぼしやすい言葉を理論的に組み合わせることで創られた魔法が、主流となっているそうだ。

 基本的な魔法の詠唱を調べてみたのだが……確かにあれなら、魔力を上手く知覚できない人でも魔法が使える。そして、応用も容易い。


「もし、嘗ての俺がそれに気づいていれば、今もそのやり方でやっていただろうな……」


 だが、これではいずれ頭打ちする。

 魔法とは、魔力をより正確に知覚し、より繊細に操作する事から始まるのだから。

 魔法を使う感覚とか、後から自然と付いて来る。


「……でも、お陰で苦労したんだよなぁ……」


 教本がある中で、俺のやり方に辿り着く人は居ないと思う。だって、コツを掴むのに相当時間がかかるから。

 嘗ての苦難を思いながら、俺は意識を過去へと飛ばすのであった。

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