第九話 美玲のダンジョン配信回(前編)

 ダンジョン配信者事務所、”星下の誓い”に所属する第二級探索者、青梨美玲は、今日もソロでダンジョンに潜り、配信活動に勤しんでいた。

 15歳以上が利用出来る、ダンジョン系専用の動画サイト――DanTubeを開いた美玲は、魔導ドローンの電源を入れ、配信を始める。


「え〜っと。みんな〜! ”星下の誓い”所属の第二級探索者、青梨美玲だよ〜! 今日は第30階層から第35階層の探索をしていくよ!」


 長杖を持つ美玲は、目の前を飛ぶ魔導ドローンの前で、笑みを振りまいた。


 ”待ってました!”

 ”待ってました!!”

 ”今日も頑張れ!美玲ちゃん!”

 ”気をつけてね”

 ”頑張るぇ〜”

 ”いつも応援してます!【¥3000】”

 ”待ってたぜ!この時をよぉ!”

 ”テンション糞たけぇ奴いるww”

 ”ああ、もやしうめぇ【¥10000】”


 すると、コメントがだらだらと下に流れていく。

 同接数も、あっという間に1000人を超えた。

 チャンネル登録者数50万人を超える彼女の配信を楽しみにしている人は、結構多いのだ。


「ありがと〜! それじゃあ、行くね!」


 そうして、美玲は第30階層の探索を始めた。


「こういう道幅が狭い所は、大量発生が起きた時に活用してみるといいよ。勿論、無理に探して通る必要は無いからね。【魔力よ、いかづちとなれ。いかづちよ、一直線に穿ち抜け――《雷槍サンダーランス》】!」


 美玲は、自身の経験則に基づいた攻略法を話しながら、順調に魔物を撃破していく。

 そして、素材――特に、魔物の心臓たる魔石を取り出し、若干の空間拡張機能が付いたリュックサックの中に入れる。

 これが、ダンジョン配信者の在り方。

 国にとって、重要な資源である魔物の素材を取りに行く人――すなわち、探索者に興味を持って貰えれば、探索者志望の人を増やすことに繋がり、結果として国が潤う……という訳だ。

 それに、高レベルの人――特にレベル100を上回る人は、単騎で一般的な国の旅団を壊滅出来る故に、国防という意味でも重要だ。


 ”かっけえ!!”

 ”いいよ〜!美玲ちゃん!”

 ”奥からも来てるよ〜!”

 ”言わんでも気づくやろ”

 ”マジレスすな。あと頑張れ~!”

 ”俺の学費から出しました。ご査収ください【¥11111】”

 ”なんかやべえ奴いるww”

 ”草”


「よし。それじゃあ、次の階層行くよ〜」


 そうして、美玲は順調に進んで行った。

 だが、それは当然の事で、美玲のレベルは72。

 ソロでも第50階層まで探索できる彼女が、苦戦する道理は無い。


「……っと。第33階層に到着っと」


 そして、2時間程で折り返しを迎えた。

 この調子なら、あと1時間と少しで、第35階層に到着する事だろう。

 だが、”予定通りに行かないのが当たり前だと思え”と言われるのがダンジョンなのだ。


「はあっ!……っと。これで全部かな」


 長杖を槍のように振るい、襲いかかってきた魔物の群れを殲滅した美玲は、小さく息を付くと、当たりを見回す。


「……あれ? こんな所に道なんてあったかな?」


 そこでふと、美玲は岩陰に隠れるようにしてあったやや細めの道を見つけた。

 どうやら、美玲が知らない間にダンジョンの内部構造が若干変化したのだろう。

 そして、こういう所の先には、武器や回復薬が入った宝箱が配置されている可能性が結構高い。

 その事をしっかり知識として持っている美玲は、わくわくしながらその先に足を踏み入れた。


 ”宝箱ガチャくるか?”

 ”この辺だと1等は《希少級レア・クラス》の武器か”

 ”でも、美玲ちゃん《秘宝級アーティファクト・クラス》の長杖持ってるからなぁ……”

 ”《希少級レア・クラス》っていくらで売れるんだろ?”

 ”《希少級レア・クラス》って言ってもピンキリだからなぁ……”

 ”運が良ければ200万やぞ!”

 ”爆死☆爆死☆爆死☆”

 ”おい、爆死願ってる不届き者いるぞww”

 ”そもそも宝箱があるかすら分からんのに、この騒ぎようよ”

 ”うるせぇ!出ろぉ!”


 コメント欄も騒がしくなる中、美玲が進んだ先にあったのは――


「あ〜何も無かった……」


 ただの行き止まりだった。

 美玲はがっくしと残念そうに肩を落とす。

 残念だけど、戻ろう――そう思った時だった。


 ゴウ!


「なっ!?」


 真下で、光り輝く白色の魔法陣。

 そして、次の瞬間――魔導ドローンと地上との通信が切れた。


 ”なんだ!?”

 ”配信切れた!?”

 ”いや、通信出来無くなった感じっぽい”

 ”魔力妨害系の攻撃喰らったんか!?”

 ”なんか地面光ったぞ!?”

 ”分からん”

 ”何があった!?”

 ”美玲ちゃん大丈夫!?”

 ”生きてるよな?”

 ”頼む生きててくれ!”


 ――――――

 ――――――

 ――――――


 ガタッ!


「……けて」

「まあ、さっき言った通りだよ。それに、時間が経ったお陰で、昔ほど酷くないし」


 ”繋がった!”

 ”繋がったぞ!”

 ”良かった!!!”

 ”映像は見えねぇ”

 ”映像は?”

 ”無事なんか?無事だよな?”

 ”てか、男の声しない?”

 ”助けが来たんかな?”

 ”無事か!?”

 ”どうなんだ!?”


「そうか。では、妾たちは邪魔せぬようにここを離れておるとしよう」


 タッ タッ タッ


 ”何人か居るのか?”

 ”普通にパーティ組んでる探索者に助けられた系かな”

 ”助けられた……のか?”

 ”身ぐるみ剥がす系のクソ野郎じゃない事を祈る”

 ”無事祈願【¥10000】”


「な~んかこっち来た時から魔力の流れを感じるなぁ……発信機か?」


 ガサッ――


 ”おお?”

 ”見えねぇw”

 ”手で塞がれてるな、これ”

 ”てか、発信機て”

 ”魔導ドローン知らんのか?”

 ”配信興味無い系か?”

 ”何となくまともそう……?

 ”あ、また戻された”


「さて、これで治るだろ」


 ”あ、治療してくれてる!”

 ”音的に治癒薬かけてくれてる?”

 ”良かった〜!良心的な人で”


「ふぅ。こんなもんか」


 ”終わったっぽい”

 ”怪我ってどの程度なんだろ?”

 ”てか、頼むからドローン出してくれ”

 ”美玲ちゃんの無事を確認したい!”

 ”てか、今思ったんだけど、ドローンの羽根部分壊れてね?”

 ”んん!?”

 ”あ、確かにさっきちらっと欠片見えたな”


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