第十話 美玲のダンジョン配信回(後編)

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「えっと……ここは……?」


 ”目覚めた!!!”

 ”うをおおおおお!!!”

 ”良かった!!!”

 ”無事だああ!!!”

 ”マジでドキドキしたな……”


「ここは……どこですか?」

「俺の拠点だ。転がってたから、ここまで連れて来て、治療した」


 ”ああ、拠点建てる系の人なんだ”

 ”まあ、安全確保した場所以外で寝かすのはあれだからな”

 ”てか、男の人めっちゃ距離感じる喋り方やな”

 ”さっきと喋り方が全然違くて草”


「次は、俺の番だ。何故、あそこに転がっていたんだ?」

「……ダンジョン第33階層で探索をしていた時……小道に入って……そしたら、地面に魔法陣が現れて……そして、気が付けば別の場所に、転移していて……そ、そして何かに襲われて、それからは……多分、気絶してしまったんだと思います」


 ”転移!?”

 ”転移なんてされるん?”

 ”聞いたことねぇ”

 ”てか、めっちゃ声震えてるやん”

 ”何に襲われたんだよ……(震え)”

 ”調べてみたけど、転移の罠は載ってなかった”

 ”知らん場所転移させられたら、ワイ絶対死ぬ”


「分かった。それで、身体に異常は無いか?」

「えっと……はい。全然大丈夫です」

「なら、良かった。この後、君を上まで連れて行く。助けた手前、その日の内に死なれるのは寝覚めが悪い」


 ”普通に流しやがった”

 ”男の人……何もんだ?”

 ”あ、送ってくれるんや”

 ”男の人、声硬いってか、なんか距離を感じる話し方だな”

 ”あ、優しい”

 ”なんか言い方が完全にツンデレのそれだww”

 ”男のツンデレとか需要あるん?”


「あ、ありがとうございます。……あ、すみません。名乗っていませんでした。私の名前は青梨美玲あおなしみれい。”星下の誓い”所属のダンジョン配信者で、第二級探索者です」

「そうか。俺は川品大翔だ」


 ”かわしなたいがかぁ……知らんな”

 ”誰だ?”

 ”てか、美玲ちゃんに比べて自己紹介が簡素過ぎるやろ”

 ”もうちょい何か無いんかな?”

 ”検索しても、分からんわ”

 ”顔どんなんだろ?”


「配信ってことは……さっきのあの機械って、カメラなのか?」

「さ、撮影ドローン、拾ってくれたんですか?」

「ああ……この中にある」

「ありがとうございます!」


ガサッ――


「あ〜羽が壊れてる……あ、こっちは壊れてない。みんな〜! 聞こえる〜?」


 ”おお!!”

 ”おお!!”

 ”良かった!”

 ”美玲ちゃん!!”

 ”聞こえてるよ!”

 ”聞こえてる〜”


「……あれ? 俺の顔、映ってねぇよな?」

「私を助けてくれた大翔さんの顔って、映ったの〜?」


 ”見えんかった〜”

 ”見たかったな”

 ”見たいけど……言い方的に顔出しNGっぽいな”

 ”美玲ちゃん!ちょっとドローン動かしてくれ!”

 ”見てぇww”

 ”でも、拒否ってる中、無理に見せたら盗撮やからな”

 ”美玲ちゃん!警察に捕まるから無理に見せなくていいよ”

 ”気になるな”

 ”でも、一応聞いてみて”

 ”そうそう。一応一応”

 ”見せてくれ〜!ちょっとだけ!先っちょだけだからww”

 ”見たいな”

 ”見てえな”

 ”でも、美玲ちゃん助けるくらい強いなら、そこそこ有名なんじゃね?”

 ”何者だろうか……”

 ”第二級以上って、案外居るからな……”

 ”たいがって言われても分からんなあ”


「あの……大翔さん。顔を写してもよろしいでしょうか?」

「断る。厄介な事になりそうだから」


 ”即答ww”

 ”めっちゃ嫌がるじゃん”

 ”拒絶の感情がひしひしと伝わる”

 ”【¥10000】”

 ”無言赤スパすなw”

 ”これで、どうか!【¥12345】”

 ”無謀って言葉、知ってるか?”

 ”無理だろww”


「それじゃ、落ち着いてきた事だし、さっさと上へ送るか。荷物は全部リュックサックに閉まってくれ」

「分かりました」

「取りあえず【静かにしててくれ】」


 ”んん!?”

 ”聞こえなくなった!?”

 ”音切れた!?”

 ”音だけ切れた感じだな”

 ”壊れたんか?”

 ”おい、ここでかよ-!!!”

 ”画面は見えないし、音も聞こえない……でも心配だから見る!”

 ”生存報告を今日か明日、聞けることを祈るわ【¥9999】”


 ―――――

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 ―――――


「……起きてくれ。着いたぞ」

「んん……あれ? 私は……」


 ”音!”

 ”聞こえる!!”

 ”着いた!?”

 ”聞こえてる!”

 ”んん!?”

 ”着いたって……もしかして上に?”


「君があの後唐突に寝てしまったから、担いでダンジョンの外まで連れてきたんだ。分かった?」

「う、うん……え、そ、そうなの!? ご、ごめんなさいごめんなさい! 迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ございません!」


 ”待ってww”

 ”寝たってどゆこと?”

 ”唐突に寝る?”

 ”ちょっとどゆこと?”

 ”気を失ったって意味か?”

 ”唐突に限界を迎えた的な?”

 ”てか、美玲ちゃんの謝る声……良き”

 ”いつもの明るい感じもいいけど、デフォのこっちも好き”

 ”健気な感じで可愛いな”

 ”可愛い”

 ”可愛さと生還記念【¥10000】”


「いや、それは一切気にしてない。俺が勝手にやったことだ。だから、謝らないでくれ。頼むから」

「いえ……で、ですが、これは言わせてください。私を助けてくださり、ありがとうございます。お礼は、できる限りの事をしますので」


 ”あ、何か口調が柔らかくなった”

 ”ずっと硬かったたいがが、ここで……!”

 ”可愛さにやられたんかな”

 ”地味に必死さを感じる”

 ”俺が勝手にやったことだ……キリッ”


「分かった……ああ、なら1つ聞きたいことがあるのだが、この辺りに今からでも行けそうなネカフェ……ネットカフェってないか?」

「ネットカフェ……? ちょっと待ってください」


 ”ネカフェ!?”

 ”予想外過ぎやろ”

 ”お礼すると言われて、真っ先にネカフェの場所聞く奴いる?”

 ”ネカフェてw”

 ”何故そこでネカフェを聞く”

 ”てか、今からネカフェって……”

 ”ネカフェで夜を明かすってことか?”

 ”ホテルじゃねーのかよ”

 ”何故わざわざネカフェを……”

 ”下の方行く探索者やろ?”

 ”家ないのか?”


「えっと……ああ、ここが宜しいかと」

「なら、そこに3日程入れるだけの現金が欲しい。それを今回のお礼として受け取ろう」

「さ、流石に命を救って貰ったお礼が、それだけなのは少なすぎます! ですので……明日、そちらへお伺いして、お礼をお渡ししに行きます」


 ”んん!?”

 ”何でや!?”

 ”ネカフェ代がお礼て”

 ”予想外過ぎて草”

 ”もうちょっと何か無いんか”

 ”美玲ちゃんもちょっと引いてね?”

 ”命を助けてもらった対価がネカフェ3日分だと、文句言う奴出てきそうやからな”

 ”たいがくーん。美玲ちゃんのこと考えたげて!”

 ”てか、金に執着ねぇのか”


「ありがとう。俺は明日、適当にネカフェ周辺をウロウロしているから、そこに来てくれ。来てくれれば、気配で直ぐに気付くから」

「分かりました。夕方頃に、向かおうかと思います……あの、本日は本当に、ありがとうございました!」

「そこまで畏まらなくていいよ」


 タッ タッ タッ


 ”お、これで終わったんかな”

 ”去ってったっぽいな”

 ”何だかんだでいい奴やったな”

 ”無欲って感じ?”

 ”ちょっと雰囲気が怖かった気もするが”

 ”まあ、助かったから良し!”

 ”てか、こんなこと言ったら、絶対明日ダンジョン周辺のネカフェに行く奴いるやろ”

 ”てか、何で連絡先交換しないんだ?”

 ”連絡先交換は?”

 ”再会するの無理くね?”

 ”スマホ持ってない説”

 ”美玲ちゃん気づいてんのかな?”

 ”気づいてそうだけど”


 ガサガサ――


「えーっと。ご心配おかけしました。取りあえず、こうして無事、外に出ることが出来ました。詳しいことは次回の雑談配信で話しますので、今日はもう切ろうかと思います。おつみれ〜!」


 ”良かった〜”

 ”無事な顔見れて、良き”

 ”一件落着だな【¥3000】”

 ”良かった【¥4000】”

 ”おつおつ【¥3000】”

 ”ゆっくり休んでね〜”

 ”おつみれ~”

 ”おつみれ~”

 ”おつみれ~【¥2000】”

 ”おつみれ~【¥5000】”

 ”おつ~【¥3000】”

 ”美玲ちゃんお疲れ~”

 ”無事で何よりです”

 ”おつみれ~しっかり休んでね!”


 そうして、過去最高同接数の10万7000人を記録した配信は、プツリと切られるのであった。

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