第三話 長い長い探索の始まり

 真っ暗な、化け物が産み出される洞窟に落ちてから――今日で5日目。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 俺は自身を襲う猛烈な飢餓感に耐えながら、洞窟の中を彷徨っていた。


「「「ブフォオオオオ!!!!」」」


「ああ……」


 そんな中、無情にも現れたのは、体長3メートル程の人形の化け物。ただし、頭部は何故か豚顔だ。

 そんな化け物――オークの群れを、俺は虚ろな目で一瞥すると、拳を振り上げ、殴りかかった。


「ぐっ、はあっ」


「ブフォオァ!!」


「はああっ!」


「ブフォオオオオ!!」


「はっ!」


「ブフォオ!」


 オークが持つ木の棍棒に何度も身体を掠らせ、時にはほぼモロに喰らいながらも、何とか頭部を破壊して、殺した。


「はぁ、はぁ、はぁ……きちぃ……」


 肩で息をしながら、俺は意識を過去へと飛ばす。

 5日前、ここからの脱出を始めた俺は、殺戮と岩陰での分割睡眠を繰り返しながら、まる1日かけて、探索できる所全てを隈無く探索した。

 だが、見つけたのは妙に人工的な、へと続く石造りの階段だけだった。他は全て行きどまり。

 悩んだ末、俺は下へ行くことを決めた。

 一旦下へ行って、そこから上へと続く道を見つけよう、と。

 だが、見つけたのは下へと続く階段と――一回り大きくなった、黒い人形の醜悪な化け物――クリーチャーだけだった。

 そして、そこでもまた下へと向かい――探索して――今に至るという訳だ。


「……また、下へと、行かないと、行けないの、か……?」


 肩で息をしながら、俺は前方に見える下へと続く階段を見やった。


「ああ、腹が、何かを、何か……」


 レベルアップによる身体強化と、技能によってここまで耐えられたのだろうが……もうヤバい。

 ああ、意識が朦朧とする。

 何か、食えるものは?

 飲み物は?

 何か、何か、何か、何か――


「……あ、そうだ。こいつを喰らえばいいんだ」


 前方に斃れ伏すオークどもの死骸を見て、俺は天啓を受けたかのように、はっと目を見開いた。

 そして、幽鬼のようにふらりと近寄ると、その場に膝をついた。

 そして――血溜まりに口を付ける。


 ゴクリ、ゴクリ


 オークの血で、俺は喉を潤した。


「……まっず。だが、うめぇ」


 生き返った。

 オークの血は、不味い。

 だが、飲めない訳じゃない。

 俺は続けて、ガブガブと血を飲み続ける。


「……ぷはぁ。生き返る……!」


 実に5日ぶりの水分。

 俺の身体は、この血のお陰で一気に蘇った。


「よし。次は……」


 十分に喉を潤した俺は、次にオークの肉を手で鷲掴みにすると――引き千切った。

 そして、中にある食えそうな部分を口に放り込む。


 くちゃ、くちゃ、くちゃ、くちゃ


 オークの肉で、俺は腹を満たした。


「こっちも不味いが……いけるな」


 そう言って、俺は一心不乱に喰らい続ける

 そして――


「ああ……いいね」


 身体を支配する充足感に、俺は満足げに笑みを浮かべた。


「よし……取りあえず、今のステータスを確認するか」


 喉を潤し、腹を満たし――久々に余裕が生まれた俺は、3日ぶりにステータスを確認する。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

【名前】川品大翔

【種族】人間

【年齢】16歳

【レベル】18

【状態】飢餓

【身体能力】

・体力61/356

・魔力163/163

・筋力339

・防護347

・俊敏351

【技能】

・精神強化・苦痛耐性・魔力操作

・飢餓耐性・治癒速度上昇・暗視

【魔法】

・水属性・闇属性

・無属性・氷属性

・時空属性

【固有魔法】

・無し

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「結構強くなってたな……あ、今ライト使わなくても大丈夫なのって。《暗視》の技能があるからなのか……?」


 慣れて暗い場所でも見えるようになったから、《暗視》の技能が表示されたのか、それとも《暗視》の技能を手に入れたから、見えるようになったのかは、甚だ疑問だが……まあ、そういう細かい所は、もっと余裕がある時に考えよう。


「さてと。最大の問題も解決したし、これならいずれ地上に帰れるぞ――」


 ここで、俺は思ってしまった。


「……ここまで必死になって、上に戻る意味なんてあるのか?」


 その言葉を口にした途端、俺は唐突に今までの人生が脳裏に浮かんだ。

 普通のクズだった父の死によって始まった本当の地獄。

 そこから逃げようと、必死になり、誰かに助けを求め――

 結果、何もかもが無駄だった。

 そして、逃げることも、抗うことも、諦めてしまった。

 そんな、人生――


「……もう、嫌だ。戻りたくない!」


 俺は、今の感情を声に上げた。

 その声は洞窟中に響き渡り、反響していく。


「……上に行くぐらいなら、この洞窟を――いや、ダンジョンの奥へと行きたい。レベルを上げて、強くなりたい」


 ぎゅっと拳を握り締めて、決意を固めると、俺は下へと続く階段に向かった。


「……行こう」


 そう呟くと、俺は階段を降りて次の階層へ――第4階層へと向かうのであった。

 こうして、俺のダンジョン探索は始まった。


 そして、それから長い長い、過酷で厳しい探索を経て――


 気が付けば、300年の月日が経過していた。


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300年間で起こった出来事は、今後ちょくちょく出てくる感じになりますので、安心してください!

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