第四話 300年の月日が流れ――

 ここは、ダンジョン第600階層。

 草木があり、海があり、結晶型の疑似太陽がある。

 そして、果てしない程に広大。

 そんな、“人間が居ない地球“と表現したくなるような場所にある広大な平原に、俺は300年前と姿で佇んでいた。


「誕生日を迎えてから、27日後……つまり今日が丁度、ダンジョンに入ってから300年ということか」


 自身のステータスを眺めながら、俺は感慨深い思いになる。


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【名前】川品大翔

【種族】人間

【年齢】316歳

【レベル】1024

【状態】健康(不老)

【身体能力】

・体力15580/15580

・魔力16920/16920

・筋力13830

・防護16760

・俊敏15310

【技能】

・精神強化・苦痛耐性・魔力操作

・飢餓耐性・悪食・治癒速度上昇

・暗視・気配感知・殺戮

・気配隠蔽・短縮睡眠・視力強化

・思考速度上昇・聴力強化・殺気感知

・真理観測

【魔法】

・水属性・闇属性

・無属性・氷属性

・時空属性

【固有魔法】

・《幻想世界ファンタジア

・《拒絶領域レジェクトフィールド

・《屍山血河デストブラッド

・《常闘不堕ファイトルヒール

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 どれもこれも、あの頃とは比較にすらならない程の成長度合いだ。


「ま、一番の成長はやっぱり、外見が若返ってかつ不老になった事だよねぇ……」


 そう言って、俺は「不老」の2文字に目をやる。

 そう。今の俺は、不老だ。

 つまり、老衰で死ぬことは絶対に無いって訳。

 お陰で、316歳になった今でもピンピンしている。

 そんな今俺を生かしてくれている大切な不老体質……それは、第599階層で不死鳥フェニックスと戦い、そいつの生き血をがぶ飲みした事で手に入れたのだ。

 しかも、その副作用なのかは分からないが、外見がダンジョンに入った時と同じ――即ち、16歳にまで若返ったお陰で、動きやすくなったというのも結構大きい。

 飲む血の量が足りなかったのか、それとも人間である俺では不可能なのか、不老不死にはなれなかったが……まあ、そこまで望むのは贅沢過ぎるし、絶対的な不死は存在しないと思っているから、それに関しては特に気にしていない。


「……さて、感傷に浸るのもこれくらいにして、そろそろ家に帰るか」


 そう言って、俺は遠くに小さく見える家へと向かって、のんびりと歩き始めた。


 そうして10分程歩き、辿り着いたのは、石レンガの壁と木製の三角屋根で造られた、素朴な一軒家だった。

 きちんとガラス製の窓があり、陽光を中へと差し込んでくれている。

 そして、そんな家を守るかのように展開されている、半透明のドーム。

 これは《拒絶領域レジェクトフィールド》という俺の固有魔法によるもので、俺が拒んだあらゆる存在の侵入を防ぐ効果を持っている。

 固有魔法とは、端的に言えば自身の想いを形にする魔法だ。強力な反面、中々手にすることは出来ない。

 俺はそんな固有魔法の結界をすり抜けると、ドアノブに手を掛けた。そして、ガチャリとドアを開け、中に入る。


「オカエリナサイ。マスター」


「ああ、ただいま。ロボさん」


 そんな俺を出迎えてくれたのは、小さくてずんぐりとした人形のロボット……ではなく、ゴーレムだ。

 150年前、第603階層で倒した魔物から偶然手に入った超希少アイテム――魔心核を媒体に、ダンジョン内に偶に転がっている宝箱から入手した装備を溶かし、加工して造ったボディに埋め込む事で生み出された――最初の仲間。

 名前はロボさんにした。

 我ながら良いセンスしてると思う……多分。


「ねぇ。アルフィアとルルムはいつ帰って来るか分かる?」


 靴を脱いで、家に上がった俺は、ベッドの淵に腰掛けると、他に2人居る仲間について聞いてみる。


「ソウデスネ。フタリトモ、ソロソロカエッテクルト、オモワレマス」


「ありがと……っと。噂をすれば、なんとやら……か」


 そう言って、俺は玄関の方に視線を向ける。

 直後、何者かが結界をすり抜ける感覚と同時に、玄関のドアが――


 バキッ!


 ……壊された。

 思いっきり開かれたことで、見事にドアが外れてしまっている。


「……お帰り。ルルム」


 俺は猛烈に眉間を揉みほぐしたくなりながらも、何かを悟ったような――そんな仏のような笑みを浮かべながらそう言った。


「ただいま! マスター〜〜!!」


 随分とダイナミックな帰宅をしてくれやがった、空色の髪と瞳を持つ、10歳ほどに見える少女――ルルムは、俺の姿を見るなりぱっと顔を輝かせると、胸元に跳びついて来た。


「ああ、お帰り。ただ、もう何度も言っているのだが……ドアは優しく開けろ。壊されると面倒なんだ」


 俺の胸元に顔を埋めるルルムの頭を優しく撫でながらも、ちゃんといつものように叱っておく。

 すると、ルルムはしゅんと小さく縮こまる。


「あう……ごめんなしゃい。マスター……」


 そう言った直後、ルルムの身体が、服が、ぐにゃりと変形し――空色の粘性生物、通称スライムになった。

 ルルムは第653階層で見つけた変わったスライムで、殺ろうとしたら服従されて……で、種族名見たらアルティメットスライムなんて言うやけに仰々しい名前で……そして、なんだかんだあってこうなった。


「はぁ……まあ、次からは気を付けてくれ」


 気分が落ち込むと、《擬態》が解けてしまうルルムの身体をもにゅもにゅしながら、俺は「我ながら甘いなぁ……」と息を吐く。

 すると、再び結界をすり抜ける感覚を覚えた。

 そして、視線の先に現れたのは、長い赤髪をたなびかせ、深紅の瞳を宿した妙齢の女性――アルフィアだった。黒いドレスのような服を身に纏い、頭には彼女がドラゴンである事を示す2本の角が生えている。


「あ〜やっぱりこうなっておったか」


「……分かってたなら止めてくれよ。アルフィア」


 ぶっ壊れたドアを見て、予感が的中したとばかりにため息を吐く《人化》した古代龍エンシェントドラゴンことアルフィアに、俺は無茶だと分かっていても、その言葉を言わずにはいられなかった。


「無茶を言うな、ご主人様よ。ルルムのすばしっこさは……あれじゃ。しゅーちのじじつって奴じゃろ?」


「だね」


 周知の事実と言いたいのであろうアルフィアに、俺は頷くことしかできなかった。


「もう、ドア付けなくて良いんじゃないかのう……」


 うん。それ、正直なとこ思ってた……と思わず口に出したくなりながらも、俺は本題に入る。


「休息も終えたし、これから総出で探索に行こう」


「わ、分かった! ルルム頑張る!」


「リョウカイシマシタ。マスター」


「うむ。了解したのじゃ、ご主人様よ」


 俺の呼びかけに、皆一斉に応えてくれる。

 本当に、いい仲間を持ったものだ。思わず笑みが零れてくる。


「……さあ、行くか。【座標を繋げ――《範囲空間転移エリア・ワープ》】」


 俺が開発した無数にある魔法の中でも、特に重宝している魔法の1つ――転移系魔法を使い、俺たちは今攻略している第892階層へと転移するのであった。

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