第15話 探していた答え(フレッド視点)

三日間、無断で留守にしていたため、怒られることを覚悟でご主人様達の部屋に向かった。


 「どうぞ」という返事の後、ドアを開けると予想外であっただろう私の登場にお二人して一瞬固まる。それでも理解が追いついてくると、奥様は座っていた椅子から駆け足で向かってくる。


 殴られても良い、そんな覚悟をしていると予想外に奥様は私のことを抱きしめる。


「よかった。戻ってきてくれて、本当に良かった」


 そう言う奥様は涙声。私は予想外の行動に戸惑い固まってしまう。が、すぐに二人に謝ると「気にしなくて良い」「ただ無事で居てくれただけで良い」と許してくれた。


「フレッド、この三日間の間、一体どこに行っていたんだい?」


 そんな風に聞かれることは想像が付いていた。だから包み隠さず正直に話す。


「火事に遭った屋敷跡を見てきました。そして母上と父上の墓参りにも…」

「そうか」


 数年前に教えてもらっていた屋敷の場所は、すでに更地になっており、火事に遭った痕跡一つすら残されては居なかった。十年ぶりに来た地で周囲の風景を見ても、何も思い出すことは無かった。


 その後、町の小さな花屋で花束を作ってもらい、お墓に向かった。


 ここに来て、父上や母上に会えば何か答えがもらえるかも知れない。そんな風に思っていた。


 だがやはり、いくら二人の前で悩んでも、ほとんど記憶に残っていない二人は笑い返してくれることも、悩みに答えを与えてくれることもなかった。


 正直、他に行く場所なんてなく、結局そのまま迷いながらお屋敷まで帰ってきた。


 なんて言おう、なんて謝ろうと思案し玄関の扉を開けると目の前にアンリ様が座っていた。

 目の下には真っ黒なクマ、そして最近食事を取られていなかったのか体は幾分か細くなった彼女は、私を見た途端涙を浮かべた。


 そしてアンリ様の「フレッドが爵位を継いでこそ、出来ることだってあるでしょう?」と言う一言で、それまで迷っていた全ての答えを与えられたような衝撃が走った。


 三日間、あんなに悩んで答えが出なかったのに、こんな近くに答えがあったなんて…。


 一通りのことを話し終え、部屋を後にしようとすると「フレッド」とご主人様に呼ばれ振り返ると「おかえり」と微笑んでくれた。どこかくすぐったい気持ちになりながらも「ただいま帰りました」と返す。


 その足のまま、急いでアンリ様の部屋に向かうと、アンリ様はどこか緊張した面持ちで座っていた。


 それでも私の表情を読み取ったのか、すぐに笑顔を向けてくれる。


「私は爵位を継ぐ事にしました」

「そっか、良かった」

「昔から爵位は放棄すると言っていたので、手続きが大変になるのかと思っていたのですが、ご主人様が放棄せずに居てくれたようで、難しい手続きも無く穏便に済みそうです」

「お父様達はフレッドの事を大切に想っているから、信じていたんだよ。…でも、それより」


 そう言うとアンリ様は立ち上がり、目の前まで歩いてくる。


 一体何を言われるのだろう。やっぱり怒っていたのだろうか。


「フレッドは爵位を継ぐんでしょ?つまり私の執事じゃ無くなる。そうだよね?」

「はい、そうなってしまいますね」

「だからこれからは私とフレッドの間には主従関係なんて無くなる。だからさ、フレッドが私に無理矢理敬語で話す必要も無くなるって事だよね」

「別に無理矢理、こうして敬語を使っているわけではありませんよ」

「でもこれで、フレッドが敬語を使っていなくても誰にも文句言われないよ」

「そうですね。ですが、私もこうして話すことに慣れていますし」

「そっか、そうだよね。でもいつか敬語を使わないで話せるようになったら良いね」

「えぇ、考えておきます」

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