名優列伝


好きな映画ランキングをちょっと前まで神経質につけていたが、最近はもう辞めた。好きな映画が増え過ぎてさすがにあぶれてきたというのもあるが、それと、映画は役者で観たいという気持ちになったというのがある。

好みの名優が出演してさえいれば、脚本その他がデタラメでもなんとか観通すことができるが、逆は無理だ。アニメ作品で声優ばかりフューチャーされるさまを通なオタクが憂慮したりすることがあるが、観てるこっちがただの人間でしかない以上、ある程度は無理もない話だと思う。

名優は人の愛し方のヒントを教えてくれる。




ファイルザ・バルクーー『ザ・クラフト』


ヒステリック系の演技というと、今の最先鋭はマーゴット・ロビーなんかがパッと思いつくけど、マーゴット・ロビーはいかにも金持ちが連れ歩く女という感じが邪魔してガッツリ好きになれない。『ザ・クラフト』のファイルザ・バルクはヴィランとして、どこまでも拡大していくヒステリーの衝動的でバカげた演技に迫力がある。同じヒス映画である『ベティブルー』の人の演技なんかと比べても、ファイルザ・バルクのパワーは別格に思える。この人は映画によってやる気にムラがあるけど、『ザ・クラフト』ではフルスロットルの怪演を楽しめる。ファイルザ・バルクは大衆映画をほとんど憎悪していて、ヒーロー映画どころかハリウッドでさえ出演しないと決めてるらしい。そういうところも徹底していてイイ。『ガス・フード・ロジング』という映画で賞を取っていて、観てみたいのだがその手段が今VHSしかない。VHS。そんなものはもう博物館にしかない。




デンゼル・ワシントンーー『イコライザー THE FINAL』


「自分は映画スターではなくただの役者だ」としきりにデンゼル・ワシントンは言うが、そのことの意味をイコライザーシリーズでは存分に堪能できる。さっき観直してみて良いシーンを見つけた。昔サッカー選手になりたかった、でも下手で、だから医者になったんだ、とある人物が言う。するとデンゼルが笑う。良いシーンだ。これがジョークとして通用する世界観。サッカー選手より医者の方が偉いに決まってるという世界観を、きちんと提示してくれる。日本のしょうもねぇ漫画とかだと、こんなセリフはおおよそ文字通り受け取られそうだ。夢を諦めた悔恨的な。しょうもねぇ話である。まぁ私としては「偉い」人なんてどこにも居ないと言いたいんだけども。




エドワード・ノートンーー『バードマン』



「ヒーロー映画をやるのなら、『ダークナイト』のヒース・レジャーのような役がいい」とエドワード・ノートンは言っていたらしいが、それならこの映画にはもう大満足だろう。エドワード・ノートンの役なんてまさにまさしく『ダークナイト』のヒース・レジャーである。エドワード・ノートンは脇役が似合う男で、画面の中心に踊り出ても、演技が死ぬと言うほどでは無いがそこまで惹きつけられない。しかし画面の周りで演技をしているといつでも主役を喰うほどの独特の存在感を漂わせてしまうという、困った役者なんである。どういう考え方をしてるんだろうか。フィルムになった時の観客の視線誘導なんかにまで気を配っているのかな。変態だな。




メリッサ・ブノワーー『スーパーガール』


スーパーマンというのは一人で世界全部を救ってしまうトンデモ男であるわけだが、スーパーガールはさらにそれが無力な女の子でなければならず、これは矛盾の権化のようなキャラクターである。女の子版スーパーマンというデタラメなキャラ設定を、メリッサ・ブノワは独力の演技力のみで縫合させやりきった感がある。あとデンゼル・ワシントンと並んで、二大良い笑顔名優でもある。





他にも、ギデオン・アドロンにジュディ・ディヴィスにライリー・ダンディ、田中哲司に夏川結衣と、好きな役者はたくさんいる。好きなモノが増えるというのは問答無用でイイことである。どんなモノであっても!

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