夜に漠然と浮かぶネオン


キャバクラの隅の長いソファの上、ゴージャスな女の人が十人くらい、となりにズラッと座っている。私は和楽器を両手に子供らしいおずおずとした手つきでもてあそんでいる。それで音が出ると、女の人達が笑ったり、嬉しそうにしたりする。人生で思い返せるいちばん昔の記憶がこれだ。


幼少の頃に歓楽街とちょっとだけ縁があって、地方都市の高級クラブやガールズバーなど妙に出入りしていた。中学生の時〇〇組の幹部と隣りの席に座ったり、詐欺師の方と旅行したり。小学生の時、酔ったまま夜のなかをだらだら歩きながら見た、雨の水たまりに映ったネオンなんかが何故か、子供時代の印象としてある。


歓楽街の住人というわけではない。ただ自己分析をしてみると、子供時代のノスタルジックな思い出の感覚が、夜の歓楽街の怠惰で鋭い雰囲気に、私の内にかたく絡み合っているのだ。人であることのスタートとエンドが同一地点にあるようなものだ。そのことを意識すると、夜に漠然と浮かぶネオンそのもののように、自分という人間が無根拠に思えてくる。




あの街には何の教訓も無い。何の教訓も無いということだけが有る。何の教訓も無い街がいつでも向こうに広がっていると思うと、そのことに慰められる感はないでもない。



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