母と海老の天ぷら



母親から怒られたことは、一度だけある。一緒に行った天ぷら屋、そこの海老の天ぷらは衣がぶよぶよしていて湿気った風味のまずい天ぷらだったけど、まぁ全部食べた。店を出て帰りながら母が、怒った感じで、

「不味かったんでしょ? なんで全部食べたの?」

と言った。

私は、好き嫌いを"しなかった"ことによって怒られたのである。嫌いなものを「嫌い」と、自分の価値判断でもって毅然と言えなかった態度を叱られたのだ。


現在の私はと言えば、お酒はワインしか飲まないし、映画館へ行ってもつまらないと途中で出る。ハワイへ行ったときも海なんか好きじゃなくて、ホテルに閉じこもっていた。


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