Chapter 4 光を当ててご覧
それが私の予想だった。ドリーさんは誰かに突き飛ばされでもしたかのように勢いよくダイヤル錠に駆け寄ると、金属が擦れる音を立てながら素早くそれを回していった。
これで合っていればいいのだけれど……。
神妙な面持ちの彼女を見つめていると変に緊張してきて、私はこぶしを握り締めた。一切の手汗が指の隙間からこぼれないほどに強く、強く。それだけがせめてものできることだった。
しばらくして、謝る必要なんてないのに彼女は「ごめんなさい」と口にした。
「はずれみたいです……」
うなだれたドリーさんが、唇を固く結んでいるのが見えた。
「じゃ、じゃあ
「……やってみます」
次々と彼女はアルファベットを目盛りに合わせていった。その必死さに対応したくて水色を表す言葉をいくつか考案してみるけれど、残念なことにすべてがヒットしない。
ダイヤル錠は鉄製で冷たいオーラを放っている。それはまるで、私たちがどれだけ歩み寄っても無意味だと告げているようだわ。
ドリーさんがこんなにも頑張っているのに……。
肩を落とす彼女の痛々しさと無力な自分のふがいなさで胸が締め付けられていた頃、ロッティが私の名前を呼んだ。
「アメリア。私をおんぶしてくれない?」
「へっ?」
突拍子もない頼みごとをされて、私自身ですら聞いたことがない間抜けな声を上げてしまった。彼女の胸のうちが一ミリも分からない。何を言いだしているの?
でも、じっと彼女を見つめ返していると──私の中で断る選択肢が不思議と無くなっていった。
いつもぼんやりした彼女がこうして私の顔をまっすぐ捉えるのには、何か意味がある気がする。
私はその場にしゃがんでロッティを背中に乗せ、そのまま立ち上がった。
頭の位置がドリーさんの身長を追い越した彼女は、天井に設置された照明のアームに手を伸ばした。そしてそれまで部屋全体を照らすように下を向いていた電球を、壁に対して直角に動かした。
ロッティはその作業をしながら悠々と語りだす。
「部屋に入ったときに、金庫のほかに照明を置いているのがすごく気になったんだよね。ここまで徹底して家具を排除するなら、別に照明も無くたってよくない? って。それで注意して観察してみたら、これはフレキシブルアームのタイプ──自在に向きを変えられる作りになっているじゃない。だから照明を動かして、何かを照らす必要があるんじゃないかと思ったの。で、壁には意味ありげに宝石が埋め込まれているでしょ。これに光を当ててみれば……ほら。宝石の真ん中でぼやーって浮かんでた白い線が、さらにくっきりしたのが分かる?」
確かに、もともと宝石の中央が白っぽく光ってはいたけれど、上から照らされたことでそれがより明確な一本の筋になった。
「ドリーさん。きっとこのシャトヤンシー効果が、金庫を開けるヒントとして用意されたものなんです」
「……ああ! そっか、瞳って……そういうことだったんですね……!」
盲点だったらしく、ドリーさんは右手で両目を覆った。でも私には何のことだかさっぱりだわ。
「ロッティ、シャトヤンシー効果って何?」
「宝石が光を反射して、その表面に白い線が浮かぶ特殊効果のことだよ。これを発揮するものはいくつか種類があるけれど、壁にあるこの宝石はたぶん、アクアマリン・キャッツアイじゃないかな。色や形からして」
「キャッツアイ? 面白い名前ね」
「うん。シャトヤンシー効果を生む宝石は、名前の最後にキャツアイがつくの。表面に現れた白い線が、猫の瞳を細めたみたいに見えるから」
猫の……瞳……?
はっ、と私は息を呑んだ。
「それを含めて考えたら、『最も美しく光り輝く瞳の色は何か?』っていう問いの真意が分かるでしょ。あれはつまり、『最も美しくシャトヤンシー効果を発揮する宝石の色は何か?』って聞いてたんだよ。じゃあそれが何かと言えば……」
ロッティはそこで言葉を止め、続きを託すようにドリーさんを見た。
その視線を受け止めた彼女はもう一度ダイヤル錠を手にとって、口を開く。
「……最も美しくシャトヤンシー効果を示す宝石は、クリソベリル・キャッツアイ。その人気色は、
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