Chapter 3 女神様を手がかりに
「ご相談というのは、店主から任された仕事のことです。いえ、仕事というよりクイズと言い表すべきでしょうか」
ドリーさんは私たちをお店の奥にある手すりがついた階段へ案内し、地下へ降りながら事情を語り始めた。
仕事じゃなくてクイズって、どういうこと?
私たちが疑問を抱いたのを察知したのか、彼女は説明を続ける。
「私は店主が倒れたあと、すぐに彼を二階の寝室へ運びました。しばらく彼は苦しそうに呼吸していたのですが、突然、地下室の金庫を開けてくれないかと頼んできたんです。話によると、あれには個人的な宝物が入っているから自分が生きているうちに開け方を伝えたいようで。そして彼は言いました。『最も美しく光り輝く瞳の色は何か? この問いに正解すれば金庫が開く』と。言い終えるとまた息を荒くしたので、それ以上のヒントは貰っていません」
そこでいったん話を区切って、彼女は地下室の扉の真鍮素材のハンドルに手を伸ばした。
それが開かれた先の室内を見て、私はかの有名な、神が人類を裁くさまを描いた絵画作品を思い出した。ここはあれを再現したような空間だわ。
だって、何百もの天使が雲の上でひしめき合う壮大な壁画で部屋全体が囲まれているんだもの。
家具の数は極端に少なくて、天井にあるフレキシブルアームの照明と、中央に置かれたダイヤル錠付きの金庫以外には何もない。けれどその内装は寂しさよりもむしろ、畏敬の念を生じさせた。
「店主の言葉の意味をずっと考えているのですが、私には見当もつかないんです。……もし私が店主のことをもっと理解していれば、すぐに分かるのかもしれませんね。私、店主とあまり打解けていないので……。……お二方は、何か気づくことはございませんか?」
私とロッティは金庫に近づいて、そのダイヤル錠に顔を寄せた。そこにはaからzまでのアルファベットが円を描くように並べられている。これを回して、最も美しく光り輝く瞳の色の綴りを目盛りに合わせていけば、ロックが解除されるわけね。
問題はそれが何色かってことだわ。やみくもに回していっても正解には辿り着けないでしょうから、明確な答えをはじき出すしかない。
手がかりはないものかと、私は部屋をぐるりと見まわした。この中で美しい瞳と言えば、入り口の正面の壁に描かれた女神らしき人物のそれじゃないかしら。根元に厚みのある羽根で周りの天使たちを包み込む彼女はひときわ目立っていて、その両目は濁りのない海を思わせるほど綺麗だった。
ふと、私はそこに引っかかりを感じた。隣からロッティの「真ん中が白く光ってる……」というつぶやきが聞こえる。彼女も私と同じ違和感を覚えたみたい。
「……ドリーさん、あの女神の瞳って宝石じゃないですか?」
「えっ?」
彼女は少し首をかしげてそれを注視した。一目見ただけじゃ分かりづらいけれど、女神の眼球部分の壁がくり抜かれていて、そこに水色の宝石がはめ込まれていたの。彼女は私に指摘されて初めてそれに気が付いたらしく、目を丸くした。
「壁画の中のほかの人物には、そんな工夫なんて施されていません。つまり最も美しく光り輝く瞳の色とは、唯一宝石を使って表現されているあの女神のものを指しているんじゃないでしょうか」
「……ということは、金庫が開く単語は……」
「
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