第25話 『薫香のカナピウム』/上田早夕里(ネタバレ注意)

「ワトソン君、今日は何じゃ?」

「セン、今日は久々に三杉レイ(Ray)さんが小説を一冊読んだので、書きたいそうです」

「ほう、珍しいの。いつも中途半端な本読みするくせに…… で何を読んだと言うんじゃ?」

「上田早夕里先生の『薫香のカナピウム』/2015年ですね」

「面白いのか?」

「風雅メーターでは★★二つでしたね」

「まずまずじゃな。ところで上田早夕里先生というお方はどんな方じゃ?」

「それはレイに書いてもらうとして、注意が一つあるそうです。この25話はあくまでも作家としての小説の書き方についての考察をしているそうですので、いわゆる感想とは違うそうです」

「では読む価値は?」

「エッセイとしてはあまりなさそうですが、作家という意味では少しあるかも……」

「わかった。どうせ脱線するだろうが、始めてくれ」


「……ところで、今日は推し作品は無いのか?」

「無いらしいです」

「アカンだろ~。 それから測定とかやってたよな?」

「アホらしくて止めたそうです」

「リアルタイムは?」

「パリゴリンが2日後からあるので、そこでやるそうです」

「それ、怪獣か? せんべいか?」

「オリンピックですね」

「ふーん」

「……」


 💦😊✨🦊🤣😓💞😭🎉🐶😉👍-作家視点での考察と単なる深堀り


『薫香のカナピウム』/上田早夕里


 上田 早夕里(うえだ さゆり、1964年 10月26日)は、日本の小説家、SF作家。兵庫県神戸市出身。姫路市在住。神戸海星女子学院大学卒業。宇宙作家クラブ、日本推理作家協会会員。日本SF作家クラブ会員。『華竜の宮』や『深紅の碑文』などの《オーシャンクロニクル》シリーズは、特に読者からの支持を集めている。


 2003年、テラフォーミングされた火星を舞台として奇妙な事件に巻き込まれた治安管理担当官の活躍を描いたSFサスペンス小説『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し小説家デビュー。その後はパティシエを主人公に据えた《洋菓子》シリーズなど、SF以外のジャンルも執筆、幅広い活動を行っている。


 2010年に発表した『華竜の宮』は、『SFが読みたい! 2011年版』のベストSF2010投票において国内篇第1位となり、2011年には第10回センス・オブ・ジェンダー賞大賞、第32回日本SF大賞を受賞する。2016年に発表した短編集『夢みる葦笛』では、『SFが読みたい! 2017年版』のベストSF2016投票において、再度、国内篇第1位を獲得。

 レビュー: https://bookmeter.com/books/9170849?page=2

 著者のHP: https://www.ueda222.com/plus/


 では始めます。


●第一章 林冠の少女たち

 後にSF色に急激に変わっていく本作ですが、第一章の時点では完全なファンタジーです。やられました。

 吊り床の中で目を覚ますヒロイン愛琉アイルと熱帯雨林の描写が続きます。パトリと呼ぶ家長や世話役、モールという飼いならした小動物(愛琉のモールの名は『ぶち』)が登場します。

 愛琉達が暮らすのは樹上30~40mの場所です。愛琉達は身長が1mほどしかないと思われ、みな女性です。

 そして本作で重要な位置を占める『巡りの者』へのあこがれが綴られます。『巡りの者』は愛琉たちにとって婚姻相手ですが、後で卵(!)を産むのが女性である筈の愛琉側ではなく、巡りの者であることが語られます。!!どう言うこと?

 また、これがはるか未来の話であることも説明から明らかになります。

『巨人』と呼ぶ、神のような種族がいることから、それが本来の未来の人類であることは容易に想像できます。

 熱帯雨林の世界が丹念な描写として書かれている第一章では、愛琉がちょっとしたトラブルに巻き込まれますが、基本的に世界感の説明と伏線の仕込みであり、すでにSF的要素が散りばめられている事は第二章以降で気がつきました。

 視点と時間をゆっくり動かす描写は、読み慣れていても書くのは難しいという事に気がつきました。自分の作品ではこのような書き方ができていないのです。

 もう一つ設定がかなり細かいところまで作り込まれていて、おそらく私の10倍以上のボリュームの設定を作り込まれてから執筆されています。プロとはこういうものなのだなと思いました。まあ、今の私にはできませんね(笑)


●第二章 巡りを合わせる


 愛琉アイルの相手となる巡りの者は鷹風(性別?)という人だが、カイの一族のオーキッド(男)というライバルが現れ、色々なタイプの民族が出てきます。さらにギエン(疑猿)という生物が現れます。最後に巨人が宇宙ステーションに住んでいることが示されます。


 *** 追記 ***


 第二章のストーリーは愛琉から見た巡りの者の描写から進みます。それからモールである『ぶち』の描写、そして愛琉自身について。推測ですが著者はインドネシアで取材か旅行、もしくは行かないとしても丹念に調べて、この未来の雨林のイメージを細かく設定されたのだと思いますが、その次にこれらの登場人物の設定を固めていったのだと思います。

 

 この時点では愛琉から見た鷹風は力強い、少し怖い存在として描かれていますので、私は完璧に男だと思っていました。後の方で子供を孕むのは鷹風の方だとの発言を聞いたときにはたまげましたよ。


 読み終わってから感じたのですが、愛琉達も巡りの者も、どうやら未来の人類である巨人(文庫版ではラクササに変更?)に遺伝子操作された種なのではないかと思います。このラクササ(巨人)、最後には暴挙に出ます……


 ファンタジーっぽくって好印象なのはp36以降の描写で、なんともエキゾチックな森の中で愛琉たちが着替えたり、シャワー代わりのスコールを浴びて体を洗ったり、巡りの者に想いを馳せるところです。まあ男性作家には書けませんね。


 その後も出会いパーティではないですが、誰がどの巡りの者とカップリングするかなど恋愛カテゴリーのような話が続きます。しかしまもなくギエンという怖い猿型生物が登場し、アクションシーンに移ります。


 このあたりは読者を飽きさせない工夫が施されており、冗長なところはほとんどありません。これがプロかなと思います。


 やがて鷹風とオーキッドが相対し、対決する絆?が結ばれます。いつか決闘しなければならないという、おもしろい縛りです。オーキッドはカイの一族と呼ばれる集団の一人で、『男』です。しかしこの集団、やはりラクササに設定された、働き蜂で、敵の来襲に真っ先に飛び出し、森を守る習性を刷り込まれた者なのです。

 『男』の設定としてありがちですね(笑)。


●第三章 パレの日々

●第四章 巨人と会う

●第五章 新しい森


第三章以降、次々とSF要素が降ってきて、完全なSF作品に変貌を遂げます。

非常に興味深い作品なのですが、要素がこれでもかというほど詰め込まれたために、逆にこの315ページでは書ききれないほどの熱量を帯びてしまいました。


 最後の方の山場では、愛琉たちが、危機が迫る森に留まるか、外の世界に逃げるか、はたまた宇宙ステーションの『巨人』の元で暮らすか、選択を迫られます。

 また、鷹風とオーキッドが対決します。この二つが選ばれたドラマなのですが、もう少し盛り上がるといいのにと思ったのは、アニメ観すぎの私だからでしょう。


 宮崎駿のような人が、これをアニメとして映像化したら面白いだろうなとは思いました。SF度とか、映像化した時の美しさなどは感じましたが、ドラマが少し弱いのかとも感じました。(素人が偉そうですが)


 密度というか濃度と読みやすさ、これは見習わなければなりません。

また、上田さんの別の作品も読みたくなりました。


 さて、来月はぴゅうさんに感想を聞かれた『ニューロマンサー』を読み切らねばなりませんね。あと結音さん紹介の小坂さんの『生きてさえいれば』、さらには図書館から借りっぱなしの『ラウィーニア』など4冊、息子君の本棚から失敬した伊藤計劃『ハーモニー』と宮部みゆき『レベル7』……


 以上


(2024.7.24)

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