第13話—レオとシルヴィアの一日デート?—前編

 カレン カークライドはここ数週間、充実した日々を送っていた。何もかもが新鮮に感じているからだ。最初のころこそ初めての都会に怯え、シルヴィアの後ろに隠れていたが、4日目にもなると段々慣れてきたようで、自らあちこちに出向くようになっていた。依頼も難なくこなしており、3週間ほどたったころにはレオ達と同じグレートソード級になっていた(もともと集落付近で倒していた魔物の剣のかけらももってきており冒険者ギルドに寄付したためランクが上がるのが早かったのだ)。

 とある朝、レオが修練場で剣の素振りを終えて戻っていると、カレンが依頼を受けようとしている姿が見えた。何やら難しい顔で依頼書を見ており、請けるかどうかを悩んでいるように見えた。

「おはよう、カレン。どうかした?」

 少し気になったので声をかけたレオだったが、心配は無用だった。

「あ、おはよー!この羊の収納の手伝いの依頼を請けようかなーって思ってさ。だけど一応私狼のリカントじゃん?向こう側に嫌な顔されないかなぁと思って請けるかどううか悩んでたの。」

 そんなことで悩んでいたのか。それなら大丈夫だろう。多分。少し自信がなくなったが、そのことを伝えるとカレンは礼をいって、依頼手続きを済ますと電光石火のごとく走り去っていった。

 その後レオは朝の身支度を整えると、いつもは着ない、少し上品質な服に着替えた。昨日のシーサーペント討伐依頼を終えたとき、シルヴィアにいっしょにお茶をしないかと誘われたのだ。願ってもないお誘いだったので承諾したはいいのだが、移動している最中に、

「浮かれているのは自分だけなのではないか?」という気持ちになり始め、急激に緊張してきた。やがて待ち合わせの時間に近くなり、もうそろそろかと思っていると、シルヴィアの姿が見えた。レオが声をかけようとした瞬間、彼は一瞬固まってしまった。

「ごめん・・・お待たせ!」

 今日シルヴィアが着てきた服は、この前彼女にあげた薄い紫色のワンピースだった。

**************************************

(変・・・じゃないよね?)

 シルヴィアは慣れない服を着るのに時間がかかってしまい全力疾走してここまできたのだ。それゆえに身だしなみが崩れていないか気になったのだが、特に向こうも気にするほどのくずれはなかったようなので安心した。

「それじゃあ、いこっか。」

 そういうと、シルヴィアおすすめのお店まで歩き始めた。しばらく他愛のない会話を続けていたが、シルヴィアは内心ふてくされていた。なにしろ服に関して何のコメントもないからだ。かわいい、とか、似合ってるくらいいってもいいんじゃないかと彼女は思っていた。といっても口に出す勇気はないので黙っているのだが。そんなことを考えていると目的地であるお店“淡いプリン亭”についた。いざ中に入ろうとすると見知った顔が見えた。クライドだった。向こうもこちらに気が付いたらしく、何やら慌てていたが、残念ながら彼が甘党だということは知ってしまった。

 近くの席に座ると、クライドが聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声でぼそぼそと、

「できればギルの奴には黙っといてくれ・・・」

っとつぶやいた。レオとシルヴィアは顔を見合わせて苦笑すると無言でうなずくのであった。

「お前らこそデートか?」

 クライドは悪意なく真顔で言い放ち、彼らは顔を真っ赤にしながら全力で否定した。

「ちっ違うよ!?」「違うから!?」

 そういうと、二人して少し落ち込んだ。レオはやっぱり舞い上がり過ぎていたな。もう少し慎重に動こう・・・と。シルヴィアはシルヴィアで、だったらいつか絶対振り向かせてやると逆にやるきに満ちていた。クライドはその様子を見て、こいつらおもろいな的な目線になっていた。

 それからようやくお茶会が始まった。このお店は庶民に愛されているだけでなく、スペルビア王国国王もお忍びで来るくらい有名なのだ。

 そんなわけで—

「うわっこのクッキーサクサクしてておいしい!」

「紅茶もすごくいい香りがする。どこの使っているんだろう・・・」

 本来の目的も忘れ、彼らは食べることに夢中になってしまっていた。もっともまだ成長期の部類に入る彼らは少量のお菓子で足りるわけがないわけで—

「・・・このあとどうしよう?」

 すぐ食べ終わってしまったのだ。もっと食べたいという気持ちもあるのだが、それこそお金がいくらあっても足りないのでお店を後にすることにした。

 お店を出ると、壮年の男女とすれ違った。軽く会釈されたので、レオ達も軽く返した。壮年男女が中に入ると、店の中が途端にあわただしくなった。その様子を見ながら女性のほうが、誰となく呟いた。

「わかったですねぇ・・・」

「付き合ってすぐか、その前か?彼らは」

「若い子を見ていると時々昔のあなたを思い出すわぁ」

 そういうと女性は、微笑ましそうに窓の外のレオ達を見つめた。男性も男性でうらやましそうに見つめながら誰となくひとりごちた。

「できれば私はもう一度あの頃に戻りたいよ。人の上に立つの王としての仕事は疲れるからね。」

 やがて菓子が運び込まれ、壮年の男女の小さなティータイムが始まるのだった。

第13話—レオとシルヴィアの1日デート?—前編 完

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