第8話 よみがえる記憶

そのことを意識してしまってから私は以前のようにピアノの練習に手がつかなくなってしまった。やっとピアノの練習がまともにできるようになったのはコンクールの2週間前だった。私はやっぱり今回は出るのを諦めようかと思ったけどそうはいかない。だから毎日必死に鍵盤の上に手を滑らせ毎日同じ旋律をなぞるようにピアノを引き続けた。そしてコンクール当日。そこには私の親戚はもちろん彼まで来てくれていた。彼の姿を見てどこか安心している私がいた。でもやっぱり本番が近づいてくると胸のドキドキは抑えきれない。そんな私を気にすることもなく時間は刻一刻と過ぎていった。

演奏番号18番 私はステージに立ち一礼をする。一斉に拍手が聞こえてくる。この感じはいつぶりだろう。そんなことを思いつつ私はピアノと向き合った。はじめの一音を奏でる。私が弾く曲は「ラ・カンパネラ」という難曲と呼ばれるものだ。ラ・カンパネラはイタリア語で鐘という意味を持ち、イタリア人であるパガニーニが鐘の響きを表した題名だ。それにこの曲は後半への曲の盛り上がりがすごい曲だ。でも私はここまでとても順調だ。でも…。それは一瞬にして消えていった。ホールに今までのきれいな音とは対象的に鍵盤に石でも落ちたかのような音が響いた。どうしよう、どうしよう。私はパニックだった。どんどん過呼吸になっていくのを感じる。息がしにくい…。ピアノが弾けなくなったあの日がフラッシュバックする。

ピピピッピピピッ私はその音で目を覚ました。ああ夢だったんだ。でもどこからが夢でどこまでが夢かなんて私にはわからなかった。

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