第7話 過去の私
そこから私は彼を余計に意識してしまうようになった。授業中に目で彼を追ったり、頭から彼のことが離れなくなったり。そんなこんなでまた部活の時間が来る。今まで苦痛だった時間がとてもしあわせな時間になっていく。私は彼に私のすべてを変えられてしまったのかもしれない。大嫌いだったピアノも好きになった。音楽すらも好きになっていった。だから私は今度ずっと勧められてきたピアノのコンクールに出ようと思う。私はそのためにピアノの練習を繰り返した。でも私がピアノを嫌っていた時間のほうが長いのは確かだ。でも私は…。だめだ。そんなこと考えている場合じゃない。私はやっとピアノを好きになれたんだから。今までの分を取り返さなきゃ。でもやっぱり私は昔のことを思い出してしまう。昔私はピアノが好きだった。今と同じように。でもそれがいつから変わってしまった。
今思うとそれはあの一件があったからだろう。
私はピアノのコンクールに出ては金賞や優秀賞、いろんな賞を取ってきた。でも私は音楽以外の楽しさをしてしまった。音楽以上の楽しみを知ってしまった。それからというもの私はピアノの練習をすることにあまり楽しさを感じなくなっていった。どんどん周りからの期待が苦痛になっていった。その時私は気づいてしまった。みんなは私という自分を見ているんじゃなくて、天才ピアニストの娘としてしか見ていないことに。それに気づいてから私はどんな人も憎らしく見えてきた。そしてそんな自分も嫌いになっていった。でもみんなはそんなことお構いなしに「次のコンクールはいつなの?」「最近少しピアノの練習手を抜いてるんじゃない?」いろいろなことを言ってくる。そんなこと自分が一番わかってるよ。でもみんな私の気持ちなんか理解してくれない。だから私は言葉じゃなくて行動でみんなに伝えればいいんだ。そんなばかみたいな結論にたどり着いてしまった。だから私はピアノのコンクールでメチャクチャな演奏をした。音は雑で、不協和音が響いて曲の原型とどめていないようだった。それでも私は演奏を止めなかった。みんなにこれでわかってもらえると思ったから。でも実際そんな甘くなかった。演奏が終わると「あなたはどういうつもりなの?」「お父様の品まで下がってしまうじゃない」たくさんの私に対する声が聞こえてきた。それを一瞬でさえぎる鈍い音が聞こえた。私は一瞬何が起きたのかわからなかった。気がつくと私の頬は真っ赤に腫れ上がっていた。それでも私は何も思わなかった。思えなかった。私は別に誰かのために演奏してるんじゃない。でも私に対するみんなの視線はどんどん痛々しいものとなっていった。
私は本当にコンクールに出れるかな…。
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