第4話 飛び立つ勇気

私の予想通りかれは今日も私のところへやってきた。今日はなにを言われるのだろうとか今日も放課後の練習につきあわされるのかななんて考えてたけれどちょっとした雑談で会話は終わった。会話が終わると彼はすぐに教室へと行ってしまった。あれなんでこんな事考えてるんだろう。別に面倒くさい用事が減っただけだしラッキーじゃんと自分にいう。でも放課後になると彼はやってきた。「ピアノ弾いてくれない?」私にあって一言目がそれだった。はぁ、大きなため息を付いてしまう。しまったと思いつつもまあやってしまったことはしょうがないと半ば諦めていたその時、彼は「天音さんてやっぱりあんまり音楽好きじゃないの?」痛いところをつかれてしまった。でもここで嫌いという訳にはいかない。なんせ私は天才ピアニストの娘なのだから。でも本当は吹奏楽部なんかじゃなくて陸上部に入りたかったしピアノもやめたかった。「全ては父のせいだ」 でもそんなことを思ってから私はすごく自分に怒りを覚えた。自分がなんの才能もないからって父にその責任を押し付けてしまった。私はそんなぐちゃぐちゃになった感情のせいで思わず涙を流してしまった。すると彼はあわてて「ごめんね僕なにかしたんなら謝るから泣かないで」ととても慌てだしたのでそれがおかしくて笑ってしまった。すると「笑った顔初めて見た」と言われた。そうか、私はずっと自分を自分で押し殺していたんだ。私が狭い鳥かごの中から飛び立つ勇気がなかっただけ。やっと私はそれに気づいた。無理に音楽を好きになる必要はないんだ。やっと私は音楽からピアノからみんなの視線から開放される。

私は思い切って家族に本当のことを告げた。でもみんなが彼のように優しいわけじゃない。「今までの時間を返せ」 「お前は誰の子だと思っている」 「自分に甘えるな」 私に飛んでくるたくさんの声。でもそれは全部私を苦しめる言葉だった。なんでみんなわかってくれないの。私はただ自分らしくいきたいだけ。誰にも振り回されず楽しくいきたい。でも私の声は喉に引っかかって声にならない。やっぱり私は音楽の道に行くしかないんだ。それ以外の道を行くことを許してくれるのはきっと彼だけ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る