後編 双葉
意を決して告白した。
「二ノ宮さん、さ。もしよかったら、僕と付き合ってくれないかな。こ、恋人として。」
◇
入学してから、隣のクラスに遊びに行ったとき、窓辺ではかなく寂し気に外を眺める姿が初めて二ノ宮を知ったきっかけだった。なぜか目が離せずに、気になってしまったのを覚えている。
それからというもの遊びに行くのをいい都合に、二ノ宮がいないか目で追うようになった。
友人にも二ノ宮がどんなコか、訊くようになった。周りからは冷やかされるが、気になるものは気になる。
どうやらあまり積極的に誰かと一緒に行動するタイプでないことだけはわかった。それといつも笑顔だということ。
少し意外だった。
あの時、外を眺めてた寂しそうな姿が本当なんじゃないかと、心のどこかで思っていた。
「星壱さぁ、最近好きなヒトいないの?」
汐里がまた何度目かわからない質問を投げてきた。同じことを何度も訊いてきて正直うんざりしている。
一緒にいる嘉奈はまだ話が通じる気がするが、汐里とは分かり合えないような気すらしていた。
「…ん?…あー…気になってる子は…いるかなぁ。」
いつも適当に流していたが、うっかりスマホを弄りながらうわの空で応えてしまった。まぁいいかと、とにかく会話を終わらせたかった。
「え?!そうなの?それってどんなこ?うちの学校のコ??」
まずい。面倒なことになったかもしれない。
「えー・・うん、まぁ、そうかな。」
早く会話を終わらせたい一心で答えた。その時、二ノ宮と一緒にいることが多いことを思い出し、何の気なしに汐里に訊いてみた。
「そうだ、二ノ宮さんてさ、どんなこ?」
「普通の子だよ。」
一瞬凍り付いた汐里の表情からぽつりと一言だけ返ってきた。
その後、何度か二ノ宮に告白し、断られた話ばかりが星壱の耳に届いた。
学年はまばらで、どれも二ノ宮が知っているとも思えないような相手ばかりだった。
自分が二ノ宮に恋心を寄せているのか確信が持てているわけではない。しかし、二ノ宮が断っている事実にただ安堵していた。
◇
これまでのことが頭によぎりながら、目の前で立ち尽くす二ノ宮を眺める。
急なことで困らせてしまっただろう、悩ませてしまうだろうとわかっている。ただ、窓辺の席でまたあの日のように寂しそうに座っている彼女を見かけて、意図せず告白してしまったのだ。
まるで彼女の周りだけが時間がゆっくりと過ぎているようで、優しい目には寂しさや孤独が漂っていて、今にも壊れそうな彼女のそばに寄り添いたいと思ってつい。
「いいよ。佐久間くんだよね、よろしくお願いします。」
にこにこと微笑む二ノ宮から返ってきた。聞き間違いかとさえ思ったが、そうではないらしかった。
「ホントに?!いいの??よかったぁ、よろしくね!」
正直断られると思っていた。意外な答えに驚きを隠せなかったが、自分が二ノ宮の隣に居られる権利を貰ったように思えた。
その日はいろんな話をしながら一緒に帰った。
いつも遠くから見るしかなかった彼女に、人伝いでなく話を聞ける。こんなにうれしいことはなかった。
誕生日は4月2日生まれ。残念ながら過ぎてしまっているが今度プレゼントをあげようと思った。
身長は自分より低く、160cm前後くらいだろうか。
部活は今は特に入ってないらしい。勉強してるらしく、部活ばかりに時間を割いてる自分とは見てる世界が違うように感じ、愛おしかった。家族は3人家族で一人っ子だそうだ。
取り留めもない話をして途中で別れた。あっという間に終わってしまった帰路に寂しさを覚えながらも、また明日も会えると思うと心が躍った。
夕飯を食べ、寝支度を済ませる間も連絡先を交換したことが頭の中を圧迫していた。せっかくなら連絡したい。
そう思うが、何を書けばいいのやらいまいちわからずとにかく指先を画面に滑らせ、何度も読み返してから送った。
当たり障りのない内容になってしまって少し悔やんだが、今できるすべての文章だと自分に言い聞かせた。
しばらくして支度も明日の準備も終わるころ、通知音が鳴った。二ノ宮だ。
返信はないものだと思っていたので驚いた。
『連絡ありがとう。
こちらこそ、告白してくれてうれしかった。
帰りもたくさんお話してくれてありがとう、楽しかったよ。
また明日ね、おやすみなさい。』
スマホに映るたった4行の行間さえも愛しく感じて、一日の幸せを噛みしめながらその日は眠りについた。
◇
学校で二ノ宮と顔を合わせるとついつい笑顔になってしまう。隣のクラスに遊びに行ったときに目があえばつい手を振ってしまう。
迷惑だろうと勿論思うが、どうしてか、ついついしてしまうので仕方がない。
噂好きなトシゴロというのは、本当にどこから話が出ているのかわからない。星壱に彼女ができたことが瞬く間に知れ渡ったことも想像するに
汐里は噂を知ったのか少し距離をとられるようになった気がしている。面倒に思っていたので都合は良かったが、二ノ宮が何か言われてるんじゃないかと気がかりだった。
どうにも長い一日はようやく終わりを告げた。
クラスで同じ部活の仲間から、スタジオ練習に誘われたが今日はもともとそのつもりもなかったので断り教室を急いで飛び出す。
足早に向かうのは二ノ宮のクラス。まだホームルーム中で少し安堵した。
しばらく教室の外で二ノ宮を見習って家から引っ張り出してきた小説を読んでいた。慣れない読書はなかなかつかれるが新鮮で楽しいものだった。
ホームルームが終わり、クラスから学生がまばらに出てき始めたので小説を鞄にしまい、背伸びをしながら二ノ宮は教室を覗き込んだ。丁度彼女が立ち上がり、鞄を持ってこちらに向かってきているところに声をかける。
「おつかれ。…あの…委員会とかなかったら一緒に帰らない?」
気恥ずかしさでそわそわしてしまう自分が情けない。彼女はにこりと微笑んで一緒に帰ることになった。
帰り道では思いつくだけいろんな話をした。少しでも彼女の笑顔をみたくて、寂しさや孤独が和らいでほしくて。そのための話題だったらなんでもよかった。
自分の話をし続けてふと我に返り、二ノ宮の話を聞けてないことに焦った。
「二ノ宮さんは…はどうだった?」
漠然とした質問になってしまった。
「んー…普通だったよ!」
穏やかに笑いながら話すその姿に、なんだそれ、とついつられて笑ってしまった。
もしかしたら本当になんの変哲もない一日だったのかもしれない。自分が感じている二ノ宮の寂しそうな雰囲気や、孤独なんじゃないかという予想は全く外れているかもしれない。
それとも、まだ話す気になれないのかもしれない。
真実がどうあれ、少しずつ本当の二ノ宮の姿を見られる日が来ることを願った。
恋慕 コウゾウ @kohzoh_soshiki
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