第50話 『自分ストライキと友情』2024年10月5日(土)

 メンタルの病気を患ってから、時折訪れる「自分ストライキ」。それは、まるで突然訪れる嵐のように、僕の心と体を無力にする。


 寝起きから、だるい、疲れた、何もやりたくないのである。


「そんなことは誰にでもある。大人は、皆、それでも仕事をし、家事をし、子育てをするもんだ」


 と正論を言われたらそれまでだけど僕は無理をしない。だって、メンタルの病気で病院送りになったことがあるからだ。



 今日が、そんな日だった。


 土曜日は、決まって7時に馴染みの喫茶店へ行って、週刊連載の『カケルと左近』の心身転生の歴史物を書くのが習慣だ。7時から10時ぐらいまで、下手すりゃ12時過ぎまで書く。(いつも行く喫茶チェーン店の古株の店員さんより、店の利用年は長い。だって、開店した日からの常連だから)一応、500円ほどの朝食とアイスコーヒーのセットを頼む。Wi-Fiも使えてありがたい店だ。


 そんな儲けの少ない客なのに、店員さんは皆さん温かく利用させて下さる大好きな店なのだが、今日は起きられなかった。布団から起き上がって身支度を整え、店まで歩いて行くのがやけにしんどく感じて、12時過ぎまで二度寝してしまった。


 十分な睡眠とバランスの取れた食事、毎日のウォーキング。体調は万全のはずなのに、今日は起き上がれなかった。


「このまま、死んでしまいたい……」


 普段そんなことを考えない。だが、だらしなく横たわる自分に、そんなボンヤリとした自己嫌悪が湧いて、動けなかった。



 土曜日は、2000字ほどの原稿2本と、夕方16時から、尼崎から大阪へ出てバンドの練習もある。


 今日は13時半までゴロゴロしていて、担当のボーカルの3曲の歌詞カードすら段取りしていない。


 しかし、コロナや骨折などのどうしようもない病気でもないのに、友人の信用を失いかねないドタキャンをするのは僕の信念に反する。


 重い体をどっこらしょと起き上がって、パソコンを開き3本の歌詞カードを作り、髭を剃り、衣服を整え、何とか家を出た。



 さすがに、駅まで歩いて行く気力はないので自転車で行った。電車で大阪へ出て、そこから市バスで30分。


 バスの中で赤ペンを持って歌詞カードのブレスや区切り、母音や伸ばす、切るをチェックし、目的地のスタジオに着いた。


 通常は、僕は、早めに行って、目的地の周辺を歩いたり、併設している図書館で本を読んだりするのだが、今日は、15分前着。コンビニで飲み物などを買っているとジャストタイム。友人が到着しスタジオへ入った。


「今日は、家出る寸前までドタキャンしようと思ってた」


 と、友人に正直に今日の意欲の無さを伝えると、「そういう日もあってええやん。オレは、そんなん気にせえへんで」


 この友人が居るから、現在、僕が呑気にこの記事を書いていられるのだ。




 メンタルの病気で、病院送りになった時、仕事で大穴を開け戻る場所を失った。そりゃ理由も告げず3か月も音信不通の新人を、誰が快く仕事を新たに振ってくれるはずもない。先方からの着信はかなりあったが、僕が、無視していたことになっているのだ。無礼を働いたのはこっちだ。病気なんて関係ない。


 仕事を失い、不安定なメンタルでは普通の仕事も怪しい。しかも、メンタルの病院は高い。貯金はみるみる減って行き、将来の投資と三菱UFJやトヨタ自動車、堅い株を持っていたのだがそれも売る羽目になり、生活費すらピンチになった時に、友人がたまたま仕事が休みで電話をくれた。


「今、生活費も困ってどうしようもないねん。このままだと、師匠から受け継いだ本さえ差し押さえ食らうかも」と、事情を話すと、「オレに任せとけ!」とスグに、飛んで来てくれた。


 友人を出迎えると、彼は笑顔で「まずは、飯食おう!」と駅前のトンカツ屋に連れて行ってくれた。「遠慮なく、好きなん食え!」その言葉に、僕の心は温かさで満たされ、涙が溢れそうになった。


 ただのトンカツだ。特別腕の良い板前の料理ではない。友人の気持ちが嬉しくて、数年前の親父の葬式でも泣かなかった冷酷無比の僕が涙した。その時のトンカツの味を超える味にはまだ出会ったことがない。


 食い終わると、友人はテーブルに封筒を差し出した。


「少ないけど10万ある。返さんでエエから好きに使え!」


 さらに、僕の懸念していた師匠から引き継いだ本を一時的に、大きな段ボール10箱。友人は無条件で自腹を切って、預かってくれた。1箱3000円で3万円を彼は文句一つ言わず払って預かってくれた。


 友人の支えがあったからこそ、僕は再び立ち上がることができた。彼の優しさと友情に感謝しながら、今日も僕は前を向いて歩いている。彼の存在が、僕にとってのガッツの源泉だ。



 そんな友人とのバンド活動、メンタルの病気の可能性があっても意欲がないごときで、ドタキャンは出来ない。それは、自分の仁義に反する。


 なんとかこうにか、スタジオに入り、正直に友人に「意欲が無くてドタキャンしかけた」と話すと。


 友人は、真面目な顔して「そこが、お前のエエとこやけど、アカンとこやぞ」と注意された。


 友人が言うには、


「体調が悪くてドタキャンするぐらいで、オレとお前の関係は壊れない。お前の病気も了解しとる。細かいことは気にすんな」


 と、高らかに笑った。


 本当に、この友人には頭が上がらない。



 そして、バンド練習。


 ・チャゲ&飛鳥「Love song」

 ・マクロス7より「突撃ラブハート」

 ・チョー・キュウメイ「貴女の恋人になりたい」


 を、収録。


「リズムが違う。サウンドをよく聞け! 入りがおかしい!」


 めっちゃ歌のダメ出しを受けて帰って来た。


 だが、行きの意欲の無さがウソのように、帰宅後、現在23時、意欲的にこの記事を書いている。


 親友がいるかいないかで、無味乾燥な人生に活力が生まれるから不思議だ。


「今日も、サンキュー!」



〈了〉





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