第31話『ナイスシニア』

 昼下がり、予定があって急遽、バンド仲間に連絡を取り、大阪へ出た。



 早朝7時、一度、喫茶店へ行き、習慣の執筆を済ませ、10時には帰宅した。


 ブリュン!


 なんだか、鼻水が垂れる。


 体温計を計ったら、36.5分。熱はない。無問題もーまんたい


 時間があるから、新作の資料に目を通そうと机へ向かうのだが、なんだか眠たくて集中力がないので、畳の上に横になる。


 ゴロン。


 ゴロン。


 ゴロ、ゴロリ。


 普段は、睡眠導入剤が無ければ眠れないほどの不眠症マンなのだが、今日は眠りに落ちた。




 12時を回っただろうか、スッキリ目が覚めて、ホエイプロテインと、強壮剤をキメた。


 元気がムラムラ湧いてきた。


 ヨシ! 机に向かうぞ‼


 いや、向わない。間違った方向に元気を見せて、ほんの一時、Hな動画を楽しんだ。


 おわり。。。





 終わるか―――――――!


 終わってたまるか!


 堕落しとる場合じゃない。家に居たら堕落してしまう。


「亮司、オレは木曜と、土曜日スタジオ借りて練習している」


 と、友人の言葉が思い出された。


 ”今日、もしかして、スタジオ借りてる?”


 行きあたりばったりのLINEを送った。


 返事を諦めかけた14時ごろ返信が来た。


 ”16時にスタジオ借りてるで”


 ”速攻で参ります!”


 僕の町から、友人の区までは、およそ1時間。そこから、スタジオまで30分かかる。


 スマホと、Bluetoothイヤホン、をポケットに入れ、前回用意した歌詞カードを、カバンに突っ込んで、いつも家から歩きの所を、自転車を走らせた。


 駅前で、自転車ニヤミス。


「ホンマすいません」


 相手様も、若く、話の分かる人で、互いに謝って先を急ぐ。


 駅前の市営駐輪場は、シルバーセンターのおじいさんが務めている。到着したのは14:30。なぜだか、窓口は、14時代は閉まっている。


 しかたなく、割高なコインパーキングへ止めて、改札を潜る。


 私の阪神電車は、上手く乗れると、大阪梅田までは、途中に一駅「野田」で停車。わずか20分足らずで到着する。


 いつもは、谷町線に乗り換えて、友人の町まで行くのだが、今回は、大阪でシティバスに乗った。


 シティーバスは、電車でまかなえないエリアを丁寧にカバーする。


 これを使えば、区民ホールまで直通だ。


 ただし、問題がある。電車より時間がかかるし、大阪シティバスは乗り慣れず行き先に自信がない。


 だが、それでも、新しい道を行くのです。



 バスの車内は、埋まっていた。


 朝からの風邪気味だ。一応、総合感冒薬を飲んでごまかしてはいるが、くしゃみが出た。


 クシュン!


 前の席の、頭を丸坊主に借り上げたポロシャツ姿の身形のしっかりしたシニアが、吐き捨てるように舌打ちした。


「マスクしろよ」


 確かに、その通りだ。私が悪い。だが、オジサン神経質すぎないか。と、多少の不満を憶えた。


(私は、今でこそ、物書きの端くれだが、元は、丸坊主で金髪の職人だった。気性の荒い職人も使って働いていた。ふとすると、気合が前面に出て、「おっさん、口の聞き方気をつけろ!」と、表へ連れ出して、絞めるぐらいの気性の荒さを秘めている)


 しかし、オジサンは、スッと、ゴールドの総合感冒薬を差しだして、「使うか」と気遣いを見せてくれた。


 不器用な嫌われるタイプのシニアが、その気遣いで、違って見えた。


 このオジサンは、不器用なだけで根は気のいい人なのだ。ガラッと目の前の坊主頭が変わって見えた。


「いいえ、お気持ちだけで感謝です。すでに、薬は飲みました。マスクをつけて居なくてすみませんでした」


 と、言うと、オジサンは、「体に気をつけろと」人情深い台詞で締める。


 ひとは、第一印象だけでは、分からないものだなぁと勉強になった。


 でも、おじさんの降車駅は、偶然か、縁があるのか、同じ駅だった。


 こんな、風に、めぐり合わせ、縁のような出会いはつきもので、僕は、直観を比較的大事にしている。



 スタジオでは、普段はやらない若者迎合のcrispyNuts「のびしろ」。


以降、ティックトックで更新されるであろう、「ひとりごつ」と、友人のリクエストでスピッツの「楓」を収録した。



 帰りのバスに、揺られていると、他のバンドメンバーが、「バイクのスーパーカブが、廃番になる」と知らせが来た。


 公開はしないが、思い付きで、一人でバイクを走らせる男を1番の歌詞で書いた。メンバーの反応がいい。


続いて、二番で恋人ができる。


サビには、メンバーが、目的地が要るんじゃないかとアドバイス。


「そりゃ、二人が居れば、僕から、僕らに価値観が変わるでしょう。『公園のベンチで、一人ビールを煽り、流星を見送りバトンを渡した』と絞めた」


 そして、最後は、一人のバイクに後ろに愛する人が、新しい家族ができて、スーパーカブは僕らの物になったと締めくくった。



 まあ、このオリジナルの歌詞が、面白いかどうかは置いといて、友人は褒めてくれた。


 ……これなら、行けるかもと、現在、頭を捻って、作曲してくれている。


 はたして、形になるのかしらん?



 思い付きの大阪への強行軍。為になった。みんな、がんばろうね。俺はしっかり、精進するよ。


 〈了〉

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