第29話 『一番蝉が飛ぶ音楽堂のエンタメ魂!』

 一番蝉が、晴天の大阪音楽堂をヒョンと飛んだ。


 今日は、お笑い芸人を目指している友人の願いで、『FRUITS ZIPPER×気志團』の対バンに行って来た。


 いやさ、オイラ、ライブ苦手なの。だってさ、ノリがめっちゃ悪い人間だから。基本、舞台でも、音楽LIVEでも、お笑い劇場でも、死んだ魚の目をして見ている。


 LIVEって、自分の推しであったり、好きな人が立ってるわけさ。客席から、推しへ、それぞれの愛を送るわけ。


 FRUITS ZIPPERで言うところの「NEW KAWAII」をステージから放つと、それを受け取ったファンが、ペンライトを振ってトキメキを返す。


 ステージと、客席が、混然一体となってボルテージが頂点へ達する瞬間を、醒めた目で見てるのが星川です。


 一番、アカン客。自覚してるから、出来るだけ行きたくない。行っても、客席下手の隅っこで見る。




 いや、わかんのよLIVEの間だけ、日常を忘れる瞬間の大切さは。


 でもさ、自己弁護になるけど、師匠が悪いのよ。


 18歳の頃……。


 寄席に、授業の一環で、落語を落語をクラス全員で見に行った。


 その時の落語家さんは、現在は、関西では結構な”はなし家”になっている。


 そんな腕のある人の一席を、最前列に陣取って、真顔で見てた。


 周りは、みんな笑ってるのよ。


 おいら、昔からどーかしてるんだろうね。笑わない。愛想笑いしない感じ悪い人なの。



「お! お前、作り手側の人間か!」


 と、師匠は、面白がって拾ってくれた。


 あ! そうか、作り手側、純粋に楽しむお客さん側も説明いるなあ。


 師匠から見て、「作り手側」は演者の裏、作り手の目。「純粋に楽しむお客さん側」は、純粋に楽しむお客さんの目。


 この二つの目の目は、誰にでも備わって入るんだけど、オイラは、疲れていない時は、師匠の言う「作り手側」の目が強い。




 話は、今日の『FRUITS ZIPPER×気志團』の対バン。


 まだ、神奈川でも演るそうだから、あまり、詳しいネタバレは控える。


 そうだな、舞台でも、音楽、出囃子でも、そうだけど、色んな歌流すじゃん。


 お客さんの多くは、この歌知ってる、知らない、好き、嫌いの感覚で聞き流していると思う。


 今日行った、友人も、そんな感じだった。


「おや?」


 ある曲から、意味のなかった選曲から、意味を持ちうる選曲になった。


 これが、落語で言うところの枕。フリ、布石、まあ、好きなように考えて。



 そして、本番。


 ・FRUITS ZIPPER


 ・気志團


 ・気志團、ミックス。


 ・お客さんをノセる掴みのトーク。


 ・ワンナイトカーニバル


 そして……。



 ホンマは、もっと、詳しくあるねんけど、昨今では、これくらいでもネタバレ扱いになるようだ。


(ホンマ、ウチの師匠がアカンねん。「ええか、筋立てがわかてても、それ以上に、面白いの書かなあかんぞ!」そんな風に教えられた)


 で、今日の感想。


「めーーーーーーっちゃ、おもろかった!」


 いや、推しだから、お愛想で言ってんじゃなくてホンマに面白かった。


 気志團さんが、ホンマ、よかった。一言でいうなら、「エンタメロックバンド!」


 しっかりした演奏技術があって、ヤンキーのキャラクターが乗っかって、さらに、笑いが取れる。


 まさに、「エンタメロックバンド!」


 FRUITS ZIPPERもたしかによかった。気志團はもっとよかった。


 最高の対バンだった。



 一つ、FRUITS ZIPPERに課題がある。二回目はコスだけじゃなく、キャラもいるような気がする。気がする。


 ね! こーだから、LIVE行きたくないの。


「でも、日暮れの音楽堂を、一番蝉はキラキラと気持ちよく飛んでたなあ」


 大人の本気はおもしろい。


〈了〉



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