第24話『初恋』【選曲】ジッタリン・ジン「プレゼント」

 先月、5月16日、私、星川は47歳になりました。


 本日のテーマは、『愛だの恋だの幸せだの』の話。


 それでは、誰も興味ないでしょうが、私の初恋から振り返って参りましょう。


 それは、保育園の頃です。女優さんに例えると、裕木奈江(ご存じない人は調べてね)さんのような、穏やかで優し気で綺麗な娘でした。名前は確か、夏樹ちゃんと言ったかな


 お互い好き同志でしたが、小学校が別でして、そのまま終了……。


 いや、違うか、小学一年生の頃、一度、忘れられなくて会いに行きました。子供なので淡い恋にも満たないもので、保育園で一緒だった友達と

 、昔を懐かしんで遊んで、夏樹ちゃんのお母さんがみんなに、チョコレートをくれてバイバイでした。



 次は、小学生。夏樹ちゃんとの思い出もそこそこに、今度は、クラスのマドンナ悦美ちゃんのことが好きになります。悦美ちゃんはタレントに例えると、新垣結衣さんみたいなタイプでした。小学一年生から、中学高校と同じで付き合いはしませんでしたが、すごく、思い出深い女性です。


 小学校の時、同じ町内に住んでいまして子供会も一緒で家も近所、通学は私はだらしないので、一緒ということはなかったのですが、帰りは、いつも頑張れば話しかけれる微妙な距離感で帰っていました。


 学校の遠足などでプラネタリウムに行きました。偶然、隣の席で、手はつながなかったけれど、お互いの膝下が偶然引っ付いて、そのまま離れることなく、星座を眺めてたのはいい思い出です。


 噂どまりなのですが、大好きな悦美ちゃんが、バレンタインチョコを私に渡そうとしていてくれていたらしい。ですが、私は不幸にも、インフルエンザで3日休んで流れてしまいます。



 中学になり、悦美ちゃんは美少女なので、学校のマドンナになります。クラスも変わってしまって話す機会もすっかりなくなりました。噂では、学年2位の男子と付き合っているとか。私は、当時、大好きだった真ん中の兄の影響で、野球部に入り、丸坊主で練習に明け暮れ、恋愛とは無縁になりました。


 それでも、野球部と、サッカー部と、バスケ部は持てるじゃないですか、悦美ちゃんじゃないけれど、別のかわいいバトミントン部の女子が、バレンタインチョコレートをくれました。私、優柔不断なんです。この子も自分にはもったいない程かわいい。とりあえず、付き合ってみてもよさそうなもんですが、そうはしなかった。


「好きな子がいるんだ」


 と、お断りしました。


 ですが、私、だらしない。悦美ちゃんに告白すらしていない。



 そして、高校生になる。野球は県大会にでるほど厳しかったので、シンドイ部活は懲り懲りと、水泳部に入ります。ここで、部活のマネージャーの智恵ちゃんとお付き合いすることになります。智恵ちゃんは、タレントに例えると、小島瑠璃子さんのような活発でありつつ頭もいい感じの子でした。


 付き合って、一年、高校の中庭で個人トレーニングしていると、悦美ちゃんが現われます。


「亮くん、たくましくなったね」


「おお、悦美ちゃんも変わらずかわいいよ」


「……ほんとに?」


「うん、小学1年生から中3までずーっと好きだった」


 すると、悦美ちゃんが、背中で腕を組んで、恥ずかしそうに、


「亮くん、私と付き合えへん?」


 願ってもない申し出です。小学校から中学、高校とおよそ10年以上好きだったマドンナからの告白です。


「うん……」


 と、そこに、マネージャーの彼女智恵ちゃんが、ポカリスエットを持って現れます。


 綺麗な悦美ちゃんと二人きりの彼氏、智恵ちゃんは気がいいのか気に賭ける様子もなく、私に並んで、


「こちらは?」


「うん、小学校からの幼馴染み、ちょっと、話があってな。今、懐かしい話してるから、後で行くからココは席をはずしといて」


「うん、わかった」


 智恵ちゃんは、素直に、マネージャーの仕事に戻ります。



 悦美ちゃんと二人気になった。


「亮くん、今の彼女?」


「うん、優しい子なんだ」


「ふ~ん、そうなんだ。私と比べてどう?」


 意地の悪い質問である。


「智ちゃんには智ちゃんのエエところがあるし、悦ちゃんには、また別のエエところがある」


 悦ちゃんは、振り返って尋ねた。


「彼女と別れて、私と付き合わない?」


「……」


 人生の大半を好きだった子だ嬉しくないはずがない。フリーならば迷うことなくOKだ。


 しかし、僕は断った。


「悦美ちゃんのことは、大好きだけど、今の彼女は大事な女なんだ。ごめん、今は彼女を捨てたりできない」


 悦ちゃんは、そんな、中途半端な僕の答えに、一瞬淋しそうな表情を浮かべたが、満面の笑顔でこう言った。


「そんな人だから私ずーっと亮くんが好きだった。亮くん、そういうところ鈍感だからまったく私の気持ち気づいてなかったでしょ」


「俺も、ずーっと好きだった。俺は馬鹿だから言ってくれなきゃわかんないよ」


 悦ちゃんは、とても嬉しそうな笑顔でこう言った。


「一番好きな人が亮くんでよかった。ありがとう」


 そう言って、悦ちゃんは、「バイバイ!」と笑顔で手を振って背中を見せて帰って行った。


 それから、数日後に、理由は分からないが高校を辞めてしまったらしい。



 当時は、スマホもましてや携帯電話がない時代。次に再開するのは、20歳の成人式だった。



〈了〉


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