第18話『違いのわかるアンモナイト』

 2024年3月20日 選曲ベートーベン


 昔、「サントリー角瓶」のCMに”違いのわかる男”シリーズがあった。

(現在もあるかは存じ上げない)


 記憶にある出演者は、田村正和、西郷輝彦、中井貴一……など、その時代の旬な役者を起用していた。

(あかん、現在は令和や、昭和の名優の名前出すと、演じた役を見たことない人もかなり多いから説明いるような気がするが、端折ります♡)


 出演者の選考基準は、


 1知性と教養

 2自信と余裕

 3洗練された感性

 4社会的な成功

 5唯一無二な存在感


 を、基準に選ばれたそうだ。



 そして、2024年ココにもう一人その基準に適う”違いのわかる男”がいる。


 そう、わたくし、ホシカワさんだ。


 1知性と教養 日々ネット掲示板を隙あらば覗き知性を身に付け、黄色いサングラスをかけて社会の本質を見抜く眼力を持つ。

 2自信と余裕 しっかり赤信号は守り、例え車は来なくても信号無視する人があれば「ちょっと、みんな赤信号守ってるのに、それは社会人としてどうなの!」と注意する。

 3洗練された感性 服はドジャースのオオタニさんのユニフォーム。聞く音楽は虎舞竜の「ロード」。食事は「すき家」の牛丼を喰らう。

 4社会的な成功 仕事は高等遊民。プライベートは友だちと一切交友せず、時間を惜しんでゲーム三昧。

 5唯一無二な存在感 エターナル中年ドリーマー☆


「私は貝になりたい……」


 しかし、ホシカワさんは貝は貝でもアンモナイトだ。もはや、化石です。時間が止まってしまった歴史の一部です。

(つか、前フリ長くなった)



 今月、私の町に、数年前から出店ラッシュを重ねる「バーガーキング」が、ついに、やってきた。


 大都市大阪に近い中核都市1番の駅前3分圏内だ。すでに、ライバルのマクドナルドもいれば、ドトールコーヒー、中堅どころのカフェチェーンもいる激戦区だ。


「バーガーキング行って来たんです」


 若くて美人の女性から口コミを聞いた。


「ドュフフ~、バーガーキングですと。マクドナルドとの違いは何でございまするか」と、鼻の下を伸ばしながら尋ねた。


「大きさと、ジューシーさです。ホシカワさんも行ってみてください」


 ス~グ行くよねー、帰りに寄るよねー、財布の中身気にしないよねー。


 と、早速、来店。


 看板は、赤と黄色と白で、赤は食欲を刺激し、黄色で注目を集め、白は清潔感を表している。


 しかも、通勤で毎日前を通るから、出店の経緯を見ていた。記憶では、担当者が出店前の内覧後すぐに始まった工事で、一番最初に取り付けたのが看板だ。


 工期が、およそ2か月ぐらいだ。朝、通勤前に見て、帰りには看板が取りついていた。それと、立て看板があり「3月OPEN」の掲示がされていた。


「すごいな、バーガーキング。工事期間まで客の期待感を煽る戦略なのね」


 と、期待を膨らませていた。



 実際に、店舗へ入ると、内装はレトロアメリカンだ。映画に例えると、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の世界観に近い。

(この例え、もう説明が要りそうね)


 注文するレジは、右から有人レジ、QRコードの貼られた子供の背丈ほどの高さに立て看板を挟んで、2基の無人レジ(コンビニとかで見るタイプ)、その隣1/3ぐらいのスペースで店員がハンバーガーを提供している。


 ハンバーガーの提供を待つお客さんは、皆、QRコードの貼られた立て看板を見ながらスマホを触っている。


 よく見ると、割引クーポンを配布しているようだ。丁寧に、Wi-Fiのパスワードも添付され、フリーWi-Fiの環境まである。


 電子決済は、電子マネー(楽天Edy、Suica、d払いなど)が使えて、モバイル決済(PayPay、楽天Payなど)は使えないようだ。


 メニュー表は「ワッパー……?」


 はて、ワッパーとはなんじゃらほい?


 調べると、英語で「とてつもなく大きい」という意味だ。


「へー、どんなでっけーヤツがくるんだろう。オラわくわくすっぞ!」



 皆さん、まずマクドナルドのビックマックを想像して、それを、基準としてワッパーと比べて下さい。


 値段 670円。490円のビックマックより200円お高い。

 ココで、クーポンだ。200円引きのクーポンらしい。だが、今は使えない。次回の来店で使えるようだ。


 そう、これを使うと、ライバルのビックマックと同じ値段で食べられる。いわゆる、撒き餌。200円引きクーポンのお得感でリピートさせる戦略だ。


 見た目は、トマトの輪切りが存在感を示し、果汁が染み出しソースと絡みジューシーで今にもこぼれ落ちそうだ。




 しかし、大事なのは味だ。


 何を隠そう私は食通だ。「食戟のソーマ」も「孤高のグルメ」も「美味しんぼ」もかなり見た。だから、味にうるさい。


 例えるなら、ラーメンチェーンでも、幸楽苑、餃子の王将、日高屋。味は醤油や味噌どんな味も食べなれている。


 必ず何か違いがあるから、同じラーメンチェーンでも屋号が違うのだ。


 私は、よだれを飲み込み、ワッパーを噛み締めた。


「ぬぬぬっ!」


 なんとも、この「違いのわかる男」のホシカワさんが言葉が出なかった。


 それでも、一言感想を述べるなら「大きさとジューシーさです」




 これでは、「違いがわかる男」ではなく、ただ鼻の下を伸ばしただけの国会議員だ。(あいや、失言。今のなし)


「違いがわかる男」だと思ったのは錯覚だった。


 ただの「何もわからない・何もしない」生きた化石のアンモナイトだった。


 まったく、四流だから、何にもわかりゃーしねーぜ。



〈了〉







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