第4話 夢の中で母に会った日~ありがとう、お母さん~

「お母さんて偉大なのよ」


昨年、五月、脳梗塞を患ってからおよそ10年の長い老健施設での療養生活の末、母は苦しむことなく眠るように老衰で息を引き取った。


それから、もうじき、一年が近くなってきた。


母には老健へ入ってもらってはいたが、毎週の着替えの洗濯、病院の通院、定期的なプランのモニタリングで、出来る限りのことはしたからまったく後悔はない

まあ、出来ることならば、もう少し、生きてて欲しかった願いはあるが、なにより苦しまずに天国へ行けたことが母にはよかったように思う。


そんな、後悔を微塵も感じていない冷酷無比な星川の夢にめずらしく母が出て来た。夢だから脈絡はおかしいが、どんな夢か説明する。




どうやら、星川が老健から母を連れて通院する日のようだ。


老健からの通院、星川はケチだから、タクシー代をケチって、杖をつく母を歩かせる。まあ、ええ歳したおっさんが、老婆と手を繋いで歩くんだから、恥ずかしったらありゃしない。だが、ケチだから、老健から、駅まで20分近く歩いてもらった。


母は、脳梗塞と、膝の置換手術で、歩行にやや難があるのだが、何と言っても星川は非情な男、「ホンマに歩かれへんようになったら寿命は後3年になるから、無理してでも歩かなあかんでと」根拠が全くない理屈で母を騙してタクシー代を浮かせて、公共交通機関で実家まで帰る日のようである。




シーンが一気に巻き戻って、次は、星川が中学生の頃だ。


星川は、中学時代、県大会に出る強豪校に所属していた。


朝練、昼錬、授業後の練習、ナイター錬と、毎日、ユニフォームを泥だらけにして帰るのが21:00。


現在のご時世ですと、アカンやつです。


そんな時間に、帰ってくるのに、母は洗濯機を回すのです。


あれよ、今から30数年近く昔だから、乾燥までやっちゃうドラム式の全自動洗濯機なんてないよ。現代っ子は知らないだろうけど、洗うのと、脱水が別の二層式洗濯機だった。

まあ、タイマーがあって15分だか回したら、自動で洗濯はしてくれるけど、ススギの給水が自動じゃないから、忘れたら水が出っぱなしでえらいことになる。それでも、母は、中学時代の3年間、一度も水の出しっぱなしで、「水道代が高くついた」とぼやいたことはないから失敗してないのだろう。


そして、洗濯の間、星川は銭湯へ行く。時代ね、平成生まれの人は分からないだろうけど、昭和生まれのお家で家風呂がある家はお金持ちだけだったの。


風呂から帰ると、母は脱水を済ませ、洗濯物を干していた。夜干しね。


野球やってない人は、わからないと思うけど、野球の道具は高い。


グローブが当時、1万5000円ぐらい。スパイクが1万円くらい。練習用のユニフォームが上下で1万円くらい。後、ソックスとレガース(名前忘れた。ソックスの上にくるぶしを守る物)ベルト合わせて1万円。トータルで、3万5千円が初期費用で最低かかる。


グローブは、革製品だから結構丈夫で長持ちだが、他は、1年~半年で使い潰す消耗品。けっこう、お金がかかるスポーツなの。


で、星川ン家は、練習用ユニフォームは2着で着まわしていた。


だから、母は毎日洗濯してくれていた。




そこから、シーンが巻き戻る。今度は、星川食べ盛りの小学生だ。


40代の母は、台所に立ち、脂を敷き肉を焼き、醬油と砂糖の割り下ですき焼きの準備をしている。


星川家は、両親と3人の息子の五人家族。


親父は、バブルの土建屋だから職人集めとかこつけて夜の町へ遊びに行く、長男は僕と15違うからデート。中の兄は10歳違うから彼女とデート。僕以外の家の男たちは、今晩返ってくるかも怪しいものだ。


でも、母はちゃんと5人分の晩御飯を用意するのね。



現代だったら、みんあスマホ持ってるから連絡しろで、調整利くけど、当時は、家電話。外出先では、公衆電話と10円玉もってないと連絡すらとれない。だから、当時は、晩御飯を食べるか食べないかなんて連絡しないのが常だった。


僕は、食いしん坊だから、味付けする母の横に立って肉をつまみ食い。母も、親父や兄達が帰ってくるかわからないから、好きなだけ食わせてくれる。すき焼きの甘辛の割り下で食べる肉がいかに美味しいか忘れられない……。




と、いうところで目が覚めた。


最近、前回も話した人生の先輩のアドバイスで、旬の野菜で自炊することが増えた。


スーパーで野菜と肉を買い出しに行って、切って、炒めて料理する。


まあ、買い出しの時間は置いといて、料理の時間を単純に計算すると、およそ30分かかる。


そのとき、母の夢とつながった。


「ウチの母は、毎日、朝ごはんも作ってくれてたっけなあ」


そう、おそらく母は、僕のために毎日1時間は料理を作ってくれてたことになる。


1年だと365時間だ。


「この意味わかる?」


大学卒業までの22歳まで母に食事を作ってもらっていたとすると、365×22。どんぶり勘定だけど、お母さんって、人生の丸ッと1年家族のために食事を作ってくれているんだ。


料理だけで1年。掃除、洗濯、育児、その他もろもろ考えるともっと、もっと、お母さんは僕のために時間を使ってくれていたんだなぁと……。




そう、思うとアタシ冷酷無比なのに涙が出ちゃって、久しぶりに、実家へ行って仏壇に桜餅を供えて線香を立てて来た。


「あれかもね、ウチの母は僕のことまだ心配してくれてるのかもなあ」


母は偉大だ。ありがとうおかあさん。


なんて、センチメンタルなこと思っちゃった。


ちゃんちゃん♡




それでは、

レビューポイント☆3つ

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おねがいします。


たぶん、また来週に。

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