第2話『競馬はギャンブルじゃなくて戦略だ』
「競馬はギャンブルじゃなくて戦略だ」
友人というにはおこがましいが、よく世の中のことを教えてくれる人生の先輩がいる。
人生の先輩は、まずは競馬を教えてくれた。
競馬はギャンブルだから止めた方がいいのはわかっているが、人生の先輩の競馬は一味違うのだ。
競馬にはG1、G2、G3という馬主に入る賞金額の高いレースがある。
ボクは、2、30代のころ師匠とこのG1だけは二人それぞれ日刊スポーツを広げて1着から3着までを当てる3連単を買っていた。
買うのは600円だけ、自分の読みと勘を鍛える目的で買っていたのだ。
師匠は、新聞の隅々まで読んで、狙いすませて買い目を絞る。ボクは、なんとなく新聞を読んで買う。
勝率は、師匠より勘で買ってる僕の方が勝率がいいので不思議だった。
それが、好事て馬券を当てるより、競馬雑誌になにか書いた方が回収率はいいだろうと、「男の読みと女の勘」でどこだったかは忘れたが、ボクが初稿を書いて師匠に手直しをしてもらい馬券以外で小遣い稼ぎをしていたぐらいには、競馬をたしなむ。
と、言っても、競馬はギャンブルだとちゃんと認識しているので、ボクは最近、人生の先輩の隠していた実力を垣間見るまでやめていた。
人生の先輩は61歳、白髪で細身、ボクが175cmほどであるが見上げるから背が高い。バブルの前ぐらい。当時、人生の先輩が高校生の時にバイト先で『うどん屋』が儲かると友人から聞いて、高校を中退してすぐ『うどん屋』をはじめたほど目先と行動、思い切りがよい性格だ。
バブルのころの商売は、なにをやっても儲かる時代だった、儲けを遊びで使い果たして借金するような遊び人でなければ、必ず食っては行ける時代だった。
人生の先輩は、その頃に、相当儲けたのだろう。店をたたんだ現在でも、着るもの履くもの着ける物が、目立たないようにワンポイントのマークだけの製品を選んではいるが、すべて海外の高級ブランドだ。
それでいて、人生の先輩は、回りは庶民ばかりのボクのいるコミュニティーに参加して、一緒にテニスを楽しまれたりしている。
ボクは、どちらかと言うとおしゃべりに見えるが、極度の人見知りである。おしゃべりの仮面を被ったコミュ障だ。
だから、多数の人と話す時は、だいたい何の役にも立たない馬鹿話をしているのが常だが、ある時、他の人と競馬の話になって、若い頃、絶対王者のディープインパクトが走る2005年の有馬記念で、ディープを買わずに、ハーツクライという馬を勘で一万円買って17万ほどになったと言う話をしたらば、人生の先輩が興味をもって、
「星川くん、あのレース勝ったの?」
と、尋ねて来たから、
「はい、当時、日本へは期間限定の短期免許で来ていたルメール騎手の驚異的な勝ち方に注目していて、勝負しました」
と、言ったらば、
「星川くん、日頃話してる冗談だけじゃなくて、ホンマにおもろいね」
と、なぜか気に入られて、それからLINE交換して付き合いが出来た。
人生の先輩は、庶民的な値段でも美味い店を教えてくれる。フグとか、焼肉とか、マジで価格は安くてうまい店ばかり教えてくれる。
最近は、忙しくて生活に追われて、お付き合いできていないのだが、土日は決まって、競馬の予想を教えてくれる。
人生の先輩の買い方は師匠と似ているが、もう少し、ゆとりがある。
師匠は、1着から3着までを、着順が入れ替わってもいい買い方の3連単ボックスという買い方だったが、
人生の先輩の買い方は、1着に2頭、2着に4頭、3着に2頭の3連単フォーメーションという買い方だ。
(ボックスとか、フォーメーションの説明は割愛させていただく)
師匠と馬券を買っている間は気づかなかったのだが、この人生の先輩の買い方を見ている内に目から鱗が落ちた。
「あ、これ、物書きの見方と一緒だ」
脚本家の超大御所に橋本忍さんという方がいる。すでに亡くなられているが、世界の黒沢映画を支えた人物だ。
橋本忍さんは、漢を書かせたら右に出る者はいない。(たぶん……)
その橋本忍さんも、競馬ではなく競輪を嗜んでいた。
若い頃は、物書きはストレスたまるからギャンブルでパーッと発散してんのやろうと。師匠を見てもそう思っていたが、どうやら、そうではない。
橋本忍さんも、師匠も、人生の先輩も、ギャンブルなんかしていない。彼らは、戦をしているのだ。
戦とは大仰な表現であるが、競馬にも「孫氏の兵法」の基本知識が必要だ。
まず、東京、中山、阪神、京都、他に地方6ヶ所ある。
コースごとに、特徴がちがう。もちろん、天候も見ないといけない。騎手の腕、馬の状態、厩舎の調教、レース展開。読み取らなければならない要素は多数ある。その上で、彼らは、読み切って買うのだ。
で、今日、ボクも東京11Rデイリー杯クイーンカップを買った。
買い方は人生の先輩の買い方だ。
ボクの予想は、一着は横山武か川田。二着は横山武と、川田、ルメールと松山。三着は、ルメールか松山。
展開とか読みの理由と根拠は端折らせていただくが、1着は川田、2着はルメール、3着は横山和となり勝負に負けた。
横山兄弟の今日の力関係を間違えて負けた。
「うーん、まさか、横山武が逃げに出るとは思わなかった」
そんな、勝ちに行く大胆な騎乗ができるから横山武買っただけどね。結果、その弟、武のおかげか、お兄ちゃんの和が粘り込んで3着と相成った。
いやー、競馬奥が深いわ。
庶民が自分の頭を磨くには、ギャンブルだといって競馬を一概に拒否すべきではないと最近は思うようになった。
(まあ、本読んで行間がわかるように稽古すりゃいいのだが、『それを言っちゃぁおしまいだ』汗)
最近は、この人生の先輩にも稽古をつけてもらっている。ホンマ、世の中は人生の先輩、いや師匠ばっかりや。
〈了〉
このエッセーいいじゃんと思ったら、レビューポイント大盤振る舞いで★3つつけていただいてですな。Xなどでリツイートしていただいちゃったり~、いいね、ブックマークもしていただけるとうれしいな♡
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます