第45話 王位奪還の決着

「まだ分からないみたいだな。兵士の数が少ない頃合いを見計らって、都合よくおれが戻ってくることの意味が」


 ウィニーは自信ありげに不敵な笑みを浮かべた。

 フリッツは苦々しい表情を見せたが、それでも強気の姿勢を崩さない。


「この身に何かあれば、ヴィルヘルムの命はないと言ったのだ。まだ強がりを言う気か」


「やれやれ、論より証拠をってか」


 ウィニーは頭をかいて、俺たちが入ってきた扉の方を向いた。

 閉じられた扉が開くと、兵士に付き添われて一人の男性がやってきた。

 少しやつれて髪の毛も乱れがちだが、風格のある顔立ち。

 それが誰であるかは一目瞭然だった。


「おい、そこの兵士! 幽閉したヴィルヘルムを連れ出すとは何ごとだ!」


「お言葉ですが公爵殿。私が仕えるのはこの方のみ」


 兵士の明確な意思表示を前にフリッツは言葉を返せない様子だった。

 ここまで連れてきた兵は一歩引いて、ヴィルヘルム王だけがこちらに歩いてきた。


「ウィニコット、エリシアは無事なのか?」


「陛下、もちろんですぜ」


「やはり、そなたに任せて正解だったか」 


 王様に公爵、それに兵長。

 そんな面々が対話する中で普通の高校生に割って入る余地はない。

 まるで物語の一幕のような場面を、観客のように見守るだけだった。

 そして、血の通った人間である彼らのやりとりは続く。


「これでもまだ諦めないのか?」


「くそっ、ウィニコットと縁の深い兵士は除隊させたが、十分ではなかったか」


「そっちの一番強い手駒がルヴィンって時点で積んでたな。兵士の何割かを寝返らせたところまではよかったが、ヴィルヘルム陛下への忠誠心を越えられるわけない」


 フリッツは床に手を突いてうなだれた。

 これにて勝負あったようだ。


「フリッツよ、そなたの野望は看過できぬ。処刑は見逃してやるが、流刑は覚悟しておくのだな」


「……ぐっ」


 フリッツはこれ以上の抵抗は見せず、うなだれたまま動かなかった。

 

 それから少しして、他の兵士が部屋にやってきた。

 いずれもウィニーの仲間のようで、フリッツを拘束して連行した。

 ルヴィンもフリッツと一緒にどこかへ連れていかれた。


 しばらく王の間がざわついていたが、状況が落ちついたところでヴィルヘルム王が玉座に歩いていった。

 まるで、ソファーにでも腰かけるように気軽な感じで座った。


「皆、集まってくれぬか。あっ、ひざまづいたりせんでいいから」


 威厳のある佇まいだったが、意外とフランクな一面があるようだ。

 ウィニーが先頭に立って、俺を含めた旅団の面々はその後ろで横並びになる。


「ウィニコット、そなたを手助けしてくれた仲間たちの名を教えてくれ」


「へい、もちろん! 風の森のエルフ、サリオン。獣人族のルチア。優れた魔法使いのミレーナ。あと、イチハ族風の見た目のカイトです」


「カイトくんはもうちょっとマシな紹介をしてあげてもよいだろう」


 幽閉されていたとは思えないほど、ヴィルヘルム王は愉快そうに笑った。


「エリシア王女はミスティアに隠れてるんで、兵団のクラウスと合流して連れてきます」


「では早速、ウィニコットはエリシアを迎えてに向かってもらおう」


「はっ、失礼します」


 ウィニーが足早に王の間を後にした。

 彼が不在となっても、他の兵士二人が王様の脇を固めている。


「さて、そなたたちに礼を贈ろう。ほしいものがあれば率直に申すといい」


 ヴィルヘルム王は解放されたことがうれしかったようで、ずっと上機嫌だ。

 にこにこした笑顔を浮かべて、サリオンを指名した。


「風の森が周辺国の伐採で困っています。マルネ王国の力添えで解消をお願いできればと」


「風の森に面した国はいくつかあるわな。この後で詳しいことを聞かせてもらえるか?」


「はい、もちろんです」


 その後にルチアとミレーナが声をかけられたが、二人とも無欲のようでささやかな報酬を頼んだだけだった。


「さて、カイト。そなたは何を望む?」


「俺は行方知れずの友人を探すのを手伝ってほしいです。今回の作戦の途中で離れ離れになってしまって……」


 言葉を崩して話しているが、王様の御前であることに変わりはない。

 作戦のせいではぐれたという印象を与えては無礼な発言になりかねない。

 ヴィルヘルム王に伝える途中で言葉を濁した。


「遠慮はいらぬ。ガスパール領内を捜索することはできぬが、マルネ領内であれば草の根かき分けてでも探すように手配しよう」


「ホントですか! ありがとうございます」


「取るに足らぬことだ。そなたらがおらねば、余がこうして玉座に戻ることはなかった」


 ヴィルヘルム王は感慨深げに言った。

 威厳がありながらも偉ぶらない。この人こそが王にふさわしいと思った。




 翌朝、マルネ王国の王都にある宿屋で目を覚ました。

 窓から朝日が差しこみ、小鳥のさえずりが耳に届く。

 ベッドから起き上がり窓の外を眺めれば、行き交う人々の姿を見ることができた。 


 ヴィルヘルム王が直に手配してくれたため、この宿は王都で最高級らしい。

 部屋に洗面台が設置してあり、顔を洗うための水がめが用意されている。

 俺は身支度を整えてから部屋を出た。

 

 すぐに食事を取る気分にならず、宿を出て街を歩き始めた。

 こちらもガスパール王国と建築様式はそこまで違いがないようで、木組みの家が大半だった。

 その一方で通行人は人族の割合が多く、エルフなどの他種族はそこまで多くない。

 二つの王都の違いが分かると楽しくなり、そのまま街中を歩いていった。



 あとがき

 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

 いよいよ次話が最終話です!

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