第43話 地下通路

 ウィニーを先頭にして順番に地下通路の入り口をくぐっていく。

 自分の番が来る前に、しばらく表示していなかったステータスを開いてみる。


 名前:吉永海斗

 スキル名:転ばぬ先の魔眼

 能力:所有者の危機を予知する

 状態:大魔法使いリゼットによる封印――魔王の影響の無力化


 ゴブリンの時以降は危機的状況に陥ることはなかったので、魔眼が発動することはなかった。

 先ほどの鳴動は死の危険ほとではないにしろ、この先は気をつけろというメッセージなのかもしれない。

 敵の本拠地に少数で乗りこむのだから、用心するに越したことはないだろう。


「地下は暗いから、これを使って」


 先に入るところだったミレーナが振り返り、古城の見回りで使った魔道具を差し出した。

 野外は明るいので目立たないが、淡い光を発している。

 

「ありがとう」


 ミレーナから魔道具を受け取り、彼女が中に入ってから地下通路に進んだ。

 

「カイト、扉を閉めてくれ」


「分かった」


 中から扉を閉じると外から入る明かりがゼロになった。 

 魔道具がなければ、足元さえもおぼつかないような暗闇だろう。

 ウィニーを先頭に前へ前へと進んでいくため、遅れないように歩きだす。


 地下通路は湿気が多く、こもったような空気とカビ臭さが気になった。

 ところどころにクモの巣があり、普段は誰も通っていないことが分かる。

 

 監視されていないことを考えると、この場所の存在はフリッツ公爵側に知られていない可能性が高い。

 ウィニーが同じことを言った時は半信半疑だったが、出入り口が見つけられなければ警戒しようがないのは理解できる。

 それでも、彼を裏切る者がいれば露見していた可能性もあるのだが、そうなっていないことを踏まえたらウィニーへの信頼は厚いことが想像できた。


 地下通路は上下の間隔があるため、そこまで狭さは感じない。

 ただ、四方を岩壁に囲まれていることで圧迫感がある。

 皆が一様に口を閉じており、魔道具の明るさを頼りに歩を進める。


「――折り返しをすぎたから、出口までもう少しだ」


 どこまでも続くような錯覚に陥りかけたところで、ウィニーの声が聞こえた。 

 ようやく半分以上進めたということのようだ。


 ひたすらに歩いていると、色んなことが頭をよぎる。

 元の世界のこと、転移魔法陣で飛ばされた六人、魔王に吸収された二人、そして内川のこと。

 この状況が危険であると分かっているが、皆と比べればマシな状況だと思う。

 頼れる仲間がいることほど心強いことは他にないだろう。


 やがて先頭のウィニーの足が止まり、全体の動きも止まった。

 彼が行き止まりの壁に何かすると、重そうな岩壁が横にずれて開いた。


「……ここから先は城内だ。もう一度確認するが、覚悟はいいな?」


 ほぼ同時にウィニー以外の首が縦に動いた。

 俺も同じタイミングで頷いた。


「よしっ、慎重に頼むぜ」


 ウィニーが前に進んで、後ろから他の面々が続く。

 壁が動いた先には階段が延びており、どこかに通じているようだ。 

 一段ずつ足を運びながら、緊張が増していることに気づく。

 魔眼の変化にも意識的にならなければならない。


 階段の先は天井になっていたが、ウィニーがふたを持ち上げるような動きをして、その先から光が差しこんだ。

 彼が先に外に出て、皆が順番に続いていく。

 自分が最後に出ると、そこは倉庫のような部屋だった。


「普段は使われない部屋だ。おれについてくれている内通者に頼んで、フリッツを味方する連中が入らないようにしてある」


 ウィニーは手短に説明すると、部屋の片隅にまとめられた木箱に手を伸ばした。

 彼はその箱を開いて、中身を一つずつ取り出して床に置いた。


「これは城内の兵士と同じ装備だ。これで変装して、目立たないようにする」


 鎖かたびらに肩当てや胸当て。

 入念な準備を示すように足元を固めるブーツまである。


 ルチアは薄着なので上から着れそうだが、ミレーナはどうするのだろう。

 そんな疑問が浮かんだところで、装備の一つをミレーナが手に取ろうとした。


「おおっと、ちょっと待て。ミレーナはそのままの服装でいい。高位の魔法使いのお前が城の近くでおれを捕まえて、フリッツまで連行するのを装う」


「分かった」


「それからルチアは耳が目立つから、これをかぶってくれ」


 ウィニーはルチアに兜を差し出した。

 彼女はそれを受け取り、素直に頭の上に乗せた。

  

 それから着替えが済んだところで、サリオンがウィニーにたずねる。


「私の耳は目立ちませんか?」

 

「マルネの兵士にはエルフもいるから、そこまで怪しまれないだろ」


「なるほど、分かりました」


 準備が整ったところで、サリオンがウィニーを後ろで縄で縛った。


「わざと緩くしてあります。何かあれば、自力でほどけます」


「早速、城の廊下に出る。おどおどすると怪しまれる。堂々としてくれよ」  

 

 ウィニーをサリオンが連行するようなかたちで進み、ルチアが扉を開いた。


 外に出ると周りの景色が一変した。

 磨き上げられた鏡のよう廊下と荘厳さを感じさせる雰囲気。

 壁や天井は凝った装飾が施されており、ガスパール王国の城とは異なる意匠だった。


「こっちだ。案内する」


 ウィニーが行き先を告げて、俺たちは城内を歩き始めた。

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