第41話 川に潜む巨大生物
しばらく緩やかな空気が流れていたが、ウィニーが改まった様子で話し始める。
この場にいる全員が彼に注目した。
「ここから先は今までよりも危険になる。気を引き締めて進んでくれ」
「はい」
「もちろんっす」
「うん」
旅団の面々がウィニーに言葉を返す。
一方の俺はしっかりした返事ができなかった。
その理由は自分で分かっている。
「俺は足手まといじゃないかな?」
「そんなことはないが、気が進まないなら無理強いはしないからな。お前には後方支援を頼みたいし、サリオンとミレーナに同行した感じじゃ筋は悪くねえ。もしもの時はお前は必ず逃がしてやる。他の三人は自分の身は自分で守れるぐらい強いからな」
ウィニーは自分のことを評価してくれている。
元の世界に戻れない以上、行けるところまで彼らと同じ道を歩む覚悟だった。
「そうだね。危ない時はよろしく頼むよ」
「もちろんだ」
「あなたたちの話は済んだみたいね」
今度はエリーが話を始めようとしていた。
プライドが高く、怖そうな美少女という印象ではあるが、本物の王女だけにカリスマ性のようなものを感じる。
自然と彼女の話を聞かなければならないような雰囲気になっていた。
「ルチア、サリオン、ミレーナ、それにカイト。私たちのわがままに付き合ってくれてありがとう。このお礼は必ずさせてもらうわ。ウィニコットと二人で城を離れた時は心細かったけれど、あなたたちが一緒にいてくれて、寂しい気持ちが薄らいだ」
エリーの目からは一筋の涙がこぼれている。
気丈な性格だったとしても王位を奪われただけでなく、故郷を追われたのは苦しかっただろう。
彼女の置かれた境遇を思うと胸が苦しくなる。
「また会えるんすから、しんみりするのはなしっすよ」
ルチアが明るい表情でエリーの手を取った。
「二人とも、風の森のエルフである私をこき使いすぎです。このお礼はワインを樽ごともらうぐらいはしないと割に合いません」
「お前ほどの酒好きのエルフは見たことないぜ」
「何とでも言ってください。何かを好きになるのに種族は関係ありません」
深紅の旅団は異なる種族が集まってできたものだが、連帯感みたいなものを感じる。
そうだからこそ、俺のことも受け入れてくれたのだろう。
「今生の別れってわけでもねえんだ。そろそろ行こうぜ」
「出発の前に、わざわざ霧の町ミスティアに来た理由を聞かせてもらいましょう」
「……お前、今までの依頼のことで根に持ってるな」
「そんなことはありません。あなたが説明を省きすぎなだけですよ。皆の意見も聞きますか?」
俺、ルチア、ミレーナは顔を見合わせて頷いた。
個人的にはウィニーは無茶ぶりをしがちな印象がある。
全てはエリーを王位へ返り咲かせるため――。
その目的のために一方的になっていたのかもしれない。
「さてと、話はここまでだ。説明はちゃんとするからついてこい」
ウィニーは一足先に宿屋の外に出ていった。
俺たちは彼を追うように歩き出した。
外に出ると再び濃い霧が目立つ。
詳しいことは分からないが、近くの川の湿気が関係しているのかもしれない。
ミスティアの町はこれまでに巡った場所の中では中規模だと思った。
民家の数はそれなりに多く、食堂のような店もいくつか見受けられる。
霧の影響で多湿なことが影響しているのか、木材を使用した建物が大半を占めるようだ。
足元の道には水はけをよくするためなのか、石材が敷きつめられている。
町の中を進むうちに民家の数が減り、いつの間にか外に出ていた。
さらに霧が濃くなっているため、町から出たことに気づかなかった。
そこから進んだ先に幅の広い川があり、豊富な水量が霧を多くしている一因のように見えた。
「ここからはあの船で対岸に渡る。流れは緩やかだが、霧で視界が悪いから注意してくれ」
全員で川岸へと足を運ぶ。
そこには船が一つだけ係留してあった。
「さあ、順番に乗ってくれ」
最初にルチアが乗船して、サリオンやミレーナも乗りこむ。
彼らに合わせて、俺も船に乗りこんだ。
ウィニーは周囲の状況を確認してから船に乗った。
船には数本のオールが設置してあり、大きな手こぎ船のようだ。
対岸までの距離は遠く見えるが、流れが緩やかなのでどうにかなるだろう。
係留していたロープが解かれて、ゆっくりと下流に流れていく。
船の前後にウィニーとサリオンが座り、オールを手にして水をかき始めた。
霧が濃い状況に変化はないものの、進路を阻まれることはなく、順調に対岸まで渡れそうだ。
船の上から覗くと水中を見通すことができて、緑色の水草が揺れている。
それから岸から離れると水深が深くなり、底が見えなくなった。
水の状態は悪くないはずだが、それに反して魚の数が少ない気がした。
ひとまず、水中観察をやめて顔を上げる。
船はちょうど川の中ほどまで到達した。
この調子なら、対岸まではそこまでかからないだろう。
――とそこで、船に何かが当たったような衝撃があった。
「おや、何かに乗り上げましたかね?」
サリオンが首を傾げながら、川の様子を確かめようとした。
すると、巨大な魚が水面から飛び出してきた。
「ふっ、危ないところでした」
彼は間一髪のところで後ろに身を引いて、大きな口に噛まれるのを回避した。
「サリオン、大丈夫か?」
「私は問題ないですが、このまま船を通すつもりはないようですよ」
同じ魚が体当たりをして、また船が揺れた。
この船よりも少し短いぐらいだったので、だいたい四メートル以上はある。
対岸に行くまでに船が沈められるか、誰かが引きずりこまれるかもしれない。
あとがき
お読み頂き、ありがとうございます。
今日の夜にあと二話更新予定です!
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