第39話 兵士を撃退する
俺とウィニーが二人の町の人に近づくと、彼らは緊張した面持ちだった。
二人は農夫のようで畑作業の合間にここにいるようだ。
とそこで、片方の男性がおもむろに口を開く。
「もう少ししたら兵が来る頃合いです」
「おう、そうか。カイトは二人を手伝うようにな。おれは見つからないように隠れる」
「分かった」
ウィニーはその体格から想像できないような軽い身のこなしで通用門の死角に身を潜めた。
途中から目で追いきれずにどこにいるのか分からなくなった。
「お前さんはウィニコットさんの仲間なんだね?」
「はい、そんな感じです」
ウィニーには慣れもあってタメ口で話せるが、相手が年長者で初対面とあれば敬語になる。
町の人は若者と中年男性という組み合わせだった。
どちらも話しやすそうな人と分かって安心した。
「この作物を見てよ。これだけ育てるのにどれだけ時間と手間暇がかかるか。ウィニコット様がいなければ、こんなことが続いたんだよ」
中年の方の男性が運ぶ予定と思われる作物を指した。
木製のカゴがいくつも並び、中にはトマトや豆類などの野菜で満たされている。
この国の税の仕組みは分からないが、不当に徴収されるのなら不満も無理からぬところだ。
三人で立ち話をしていると外壁の外側で鐘のような音が鳴った。
それが響いた直後、二人は通用門へと足早に近づいた。
彼らが鎖を引くと跳ね橋が下りて、外側からこちらへ渡れるようになった。
向こう側には馬に乗った兵士が二人いて、片方は荷馬車がつながっている。
「無礼な態度を取りでもすれば暴力を振るわれる。注意するようにね」
「……はい」
町の人の言葉に緊張を覚えつつ、成り行きを見守る。
兵士のうちの一人が馬を下りて、こちらに歩いてきた。
「今回の上納品はそれか?」
「はい、そうです」
町の人が質問に答えると、兵士は横柄な態度で荷台に積みこむように言った。
それを合図に町の二人は野菜の収められたカゴを運び始めた。
彼らに遅れないように運搬を手助けしなければならない。
用意されたうちの一つを持ち上げて、荷馬車へと向かう。
重さ自体は大したことはないものの、跳ね橋がでこぼこして歩きにくい上に左右にはお堀のように川が流れている。
地面あるいは川に落とさないように注意しながら、一つ目を運び終えた。
俺が運ぶ間に町の人たちは次から次へと運んでいる。
根本的に体力が違うのだと思った。
「もたもたしてないで、さっさと運ぶんだ」
兵士のうちの一人が嘲笑交じりで声を上げた。
いい気はしないものの、今はやるしかない。
こんなかたちで作物が奪われるのは理不尽だと思った。
その後は町の人たちに手伝ってもらいながら、作物を積み終えた。
荷馬車の荷台にはびっしりとカゴが乗っている。
無事に上納品を手に入れたことで、兵士二人の気が緩んでいるように見えた。
くつろいだ様子で馬車の傍らで談笑している。
――この隙をウィニーが見逃すはずがない。
素人の俺が合図をするまでもなく、物陰に身を潜めていたウィニーが出てきた。
一対二という状況が数的不利にはならず、抵抗させる間を与えずに制圧した。
あっという間に兵士二人は捕縛された。
「ど、どうして、ウィニコット殿がここに?」
「そんなことはどうでもいい。アストラルは独立を保障されてただろ? フリッツの方針か?」
「は、はい、そうで――」
「アホ、いくら彼でもこんなことしてタダで済むわけない。素直に従うなって」
「いや、本気なら殺されてもおかしくないよな。情けをかけられたってことじゃないか」
「うっ、それはそうだけど、フリッツ陛下の方が兵力は上だし……」
二人の反応には差があり、仲間割れのような状態になっている。
ウィニーはそこへ割って入り、諭すように話を始めた。
「まあ、お前らもフリッツに逆らうわけにもいかないもんな。心配しなくても命は取らねえ」
「よ、よかった」
「……助かった」
兵士たちがホッとしたような様子を見せると、ウィニーは口角を釣り上げてニヤリと笑った。
「それはそれとして、お前らはマルネ王国の兵としてふさわしくない振る舞いだったな。アストラルの町民に横柄な態度を取りやがって」
「は、反省してます」
「そんなバカな、自分は悪くない」
雲行きが怪しいことに気づいたのか、二人は往生際が悪い。
態度をコロリと変えて、責任はないと主張している。
「普段は使われないはずだが、町の中に牢屋がある。お前らはそこで反省しろよ」
「ひぃっ」
「そんなひどい」
ウィニーはニコニコしたまま、捕縛した二人をどこかに連れていった。
とりあえず剣での斬り合いにならなかったことはよかった。
牢屋に収容するだけならば、誰かの血が流れるよりも穏やかな解決だろう。
「兵士はいつもあんな感じですか?」
「大抵は横柄なもんだからイヤになるよ。フリッツ様がこの国を治めるようになったのは失敗だよ。こんなことは大っぴらに言えるもんじゃないけどね」
片方の町の人がうんざりした様子で言った。
エリーの父親のヴィルヘルム陛下が圧政を敷くことはなかったようだが、フリッツ公爵が王になってからはそうでもないようだ。
王位奪還を強行するような人物なので、領民を苦しめたとしてもおかしくはない。
あとがき
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
本作を気に入って頂けたようでしたら、★で評価を頂けたらうれしく思います。
引き続きお楽しみ頂けるように更新を続けていきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます