第33話 作戦会議

 最初のうちは和んだ様子だったが、時間が経過すると場の空気が変化したように感じた。

 ダニエラは自然な様子で席を外して、旅団の面々以外はクラウスだけが残っている。


「彼女を巻きこむわけにはいかないから、聞かずにいてくれて正解だ。それでクラウスはおれがマルネ王国にいた時に部下だった。今は簒奪者に反旗を翻すため、反乱軍の指揮を執ってもらっている」


「(簒奪者ってどういう意味だっけ)」


 難しい言葉が出てきて分からず、隣の席のサリオンに小声でたずねた。


「(王位を奪った者という意味です。今指しているのは彼らを追いやったフリッツ公爵でしょう)」


「(そっか、ありがとう)」


 サリオンの答えを聞いて、もう少し周辺の地理や歴史を学んだ方がいいと思った。

 ウィニーはかいつまんで話してくれることもあるが、忙しい時期が重なったことで体系的に教えるほどの時間はなかったのだ。


 ひそひそ話をするうちにウィニーとクラウスの話は進んでいる。

 今度はクラウスが主体で話そうとするところだ。


「公爵殿下……いやもはや国賊となった今は敬称は必要ない。皆さんがご存知の通り、あの者たちは国王陛下を幽閉し、エリシア様を王都から離れざるをえない状況に追いやった。陛下のお身体が無事なうちに作戦を成功せねばならない」


 クラウスは一本筋が通っていそうな性格だが、温厚な性格だと思った。

 しかし、王権について語り出すと、声に熱気を帯びていて迫力がある。


「おれたちよりも王都に近かったから、色々と思うところはあるだろう。だが、今は冷静になって、具体的な話をしようぜ」


「エリシア様の前だというのに失礼しました」


「私は気にしないわ。アルカベルクでの潜伏生活は大変だったと思うし、あなたたちに負担をかけてしまったと思っている」


「そこまで言ってくださりますか」


 クラウスはエリーの言葉に感激しているようだ。

 基本的に彼女は主張することは控えめで、主導的な役割にあるのはウィニーという印象が強い。

 エリーでは反攻を目指すリーダーとして若すぎることも関係してそうだ、


「じゃあ、おれが引き継ぐぜ」


 ウィニーは軽くせき払いをして話を続ける。


「フリッツの野郎は小心者で、王都や城の周りはがっちり固められている。それで王族と一部の衛兵しか知らない、地下通路を抜けて城内へ侵入する」


「幸いなことにフリッツに従う者たちは地下通路の存在は知っていても、どこからどこに通じているかは知りません。だからこそ、ウィニコットがエリシア様を連れ出すことができた」


「ああ、その通り。出入り口はふさいできたから、今でも気づかれていないはずだ」


 ウィニーとクラウス中心に話が続いており、旅団の面々が蚊帳の外になっている気がする。

 そんな中、サリオンがちょっといいですかと切り出した。


「部分的に聞いたり、薄々気づいたりしてましたが、少数精鋭を目的にした意味が分かりました」


「頭数が少ないと不安にさせちまうよな。地下通路を通るのに大所帯だと見つかりやすくなる。少ない人数で成功させるには、お前たちのように一騎当千な人材が必要だったんだ」


 確実に俺と内川は含まれていないと思うが、サリオンたちへの敬意に満ちた言葉だった。

 サリオンはウィニーの話に理解を示すような態度を見せつつ、続けて口を開く。


「ところで、その方針で進めるとして、カイトとジンタに同行させるつもりですか? カイトは徐々に芽が出始めたところですが、ジンタを危険な前線に連れ出すのは気の毒ですが」


 サリオンは批判というよりも、内川を哀れむような言い方だった。

 彼らが話しているところをほとんど見なかったが、サリオンなりに心配しているのだろう。


 ――しかし、ここで俺の目に予想外の状況が目に入った。

 内川はサリオンの言葉を受けて、複雑な表情を浮かべながらうつむいてしまった。

 おそらく、自分への否定的な言葉として捉えたのだろう。


 学校でも同じような場面を見たことがある。

 のらりくらりとしているように見えて、人一倍傷つきやすいところがあるのだ。

 この状況ではウィニーやサリオンの考えの方が合理的であり、戦いの素人である俺が意見するべきではない。

 友人である内川が傷ついたとしても、サリオンを責めようとは思わなかった。

  

「ルチアの意見も聞いてみたい。実際に鍛えてみてどうだった?」


「あははっ、あたしの意見っすか」


 ルチアはウィニーに話を振られて、困ったように愛想笑いを浮かべた。

 その様子で彼女が考えていることが手に取るように理解できた。  


「お前も分かってんだろ? この先は危険が伴う。もしもの時に守ってやれないことだってある」


 ウィニーの諭すような言葉を受けて、ルチアは観念したように肩を落とした。


「……ジンタは思ったよりも成長しなかったっす。もう少し粘りを見せたなら……」


「それで十分だ。ジンタはアルカベルクに残ってもらう、いいな?」


 ウィニーに視線を向けられるると、内川は弱々しく頷いた。


「サリオン、カイトは芽が伸びつつあるって言ったんだっけか?」


「はい、そうです」


「ルチアにジンタのことを話させちまった。お前からカイトのことを聞きたい」


 今度はサリオンが自分への評価を話す段になり、にわかに緊張感が高まった。

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