02-01

「平和だねぇ……」


「お客さん来ませんもんね」


「それを言わない。 大体うちの忙しい時間は朝と夕方って決まってんだよ」


「それでもでかいとこには勝てないですからね」


「まぁそりゃ小さい店だからね」


 仕事を辞めた後、親にも言えずに公園で煙草を吸っていたところだった。

 平日の真昼間から煙草を吸う20代だ。そりゃ誰にも相手もされないし見向きもされない。なんなら煙のせいで疎まれるくらいだ。

 そこでなぜか声をかけてきたのがこのヒトである。


「若いのがなんでこんなとこでタバコ吸ってんだ?」


 ぶっきらぼうな声でいきなり声をかけてきて若干面食らった。

 余り顔には出さずこちらも相応の態度だったと思う。


「別に。 やることもなくてただぼーっとしたかっただけですよ。 茶店に行く金もないし、今日は暖かいからきれいな空気で汚い空気出すのが気持ちいいんですよ」


「はー……、 若いくせに達観しているっつーか、 濁っているというか」


「ほっといて」


 加えていた煙草をポケット灰皿にしまってまじまじと顔を見た。

 若いと言うが目の前の人も十分若い気がする。


 隣にどしっと腰を掛けて持っていた缶コーヒーを飲みながらこちらにも開いていないコーヒーを差し出した。


「いるかい? どうせ捨てるもんだからいいよ」


 タバコを吸った後で口の中が気持ち悪かったので軽く礼を言って受け取る。

 ブラックの缶はほろ苦い味をしながら人工的な甘さを排除しているからかすっと喉を通った。


「私は黒澤 御影」

 この女はそう言った。


「あんたさ、 仕事してんの?」


「見りゃわかるでしょ。 なんもしてないですよ。 ぎりぎりある金でタバコ吸いながら体いじめてるだけですよ」


「それじゃあさ、私の仕事手伝ってくんない?」


 瞬間、思い出す。

 あの苦々しい日々。 全部嫌になってこの世から享受するいろいろなことを拒み続けた事。

 そういえば親はどうしているんだろう。 婆ちゃんのことは聞いたけどお互いのことは聞けていない。


「……対人じゃなければ」


「タイ人? あーー……、 まぁ、ないんじゃないの」


 ということで俺は騙された。

 そこは商店街にある小さな個人商店だった。

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