たまゆら

01-01

 人生は平等だと誰かが言った。

 なんて詐欺師だ! と思う。


 それを考えたのは確か2年から3年、ひょっとしたらもっと前かもしれない。


 なんてことの無い人間だったと思う。

 好きなものは音楽と読書でアウトドアとは一切関係のないような典型的な文系少年だと思う。

 気になれば美術館も行くし人に勧められればドラマもアニメも見ていた。

 中には心を動かされたような(気がするだけ)作品もあった。

 友人も多くも少なくもない目立つわけでも目立たないわけでもないどっちつかずの人間。 それが俺だ。


 本題に入る。


 昔、彼女がいた。

 今では容姿すら声すらも思い出せないけれど事実だけは残っている。

 俺自身、口が達者なわけでもなく、年上だった彼女は出会って数ヶ月で別の地域の大学に住むようになった。

 後はご想像の通り。 後悔後に立たずというが俺たちの関係は次第にいびつになった。

 電話での内容はとてもじゃないがいいものでもなく向こうが言うことを受け流して電話を切るというほんとにこれは付き合っているのかと言えるのか、という状況だ。

 それから数カ月して向こうでのSNSを見た俺は別れを切り出す。

 涙ながらに話す俺とおそらく泣いているであろう向こうのペルソナを思い浮かべながら冷めた自分もいた。

 それからは抜け殻のように過ごしていたがいつしか痛みは忘れてかさぶたが取れたかのような気分でいた。


 そこから彼女を作るような気持にもならなく、大学に入ってもそういうことは起こらなかった。

 たまに近づいてくる人もいたけれど彼女たちは俺の無害さを薬局の前に置いてあるカエルの人形みたいに自分の話したいことを話したかったようだ。

 実際、自我を出すと自然と消えていく。


 とりわけエピソードもないけれど、ただ無感情でいることと考える力が無くなることを同一にとらえ独自の哲学を知らぬ間に構築していくうちに外圧や俺にとって厄介なことが淀みとなって知らぬ間に言葉に意味を持たせるのが怖くなって休める場所を探し始めた。

 そういうわけである意味、俺のバイタリティはなくなり自分では死んだ人間と称すようになる。

 他人には言わないが言葉を隠すのがうまくなった。


 1つ1つの水滴は気にはならないが波になると怖くなる。

 その波はたくさんの水滴の集まりだとしても。

 それが言葉だ。

 俺にできることは、沈黙するだけ。

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