第3話成長する

ユグドラシル、改めユグじいに、鍛えられ、数十年経過した。

空の飛びかたや、この世界の歴史、龍としての力の使い方も教わった。


箱庭の中にいると、時の感覚があいまいになる。


それから、更に数百年。

ユグじいと暇潰しにバトルしたり、瞑想してみたり、新たな魔法を開発してみたりした。



いよいよ、やる事がなくなってきた。


「そろそろ、外の世界に、出てみたらどうかのぅ。」


ある時、ユグじぃに言われた。

確かに、そろそろ潮時かもな。


「外の世界に行ったら、美味しいものや面白い話を、持ってきてくれないかのぉ。わしは、ここから、世界を観測する事はできるが、動く事は出来ないのじゃ。わしが動けば、世界は崩壊するしのぉ。」


「わかった。俺もそろそろ、飽きてきたから、丁度良いよ。」


「では、これをあげよう。」


ユグじぃ、が差し出したのは、琥珀のネックレス。中にウロコの様なものが入っている。


「これは、わしから出た体液を数百年掛けて固めて、魔力を注入したものじゃ。

いわば、わしの垢を、固めたようなものじゃな。これを持っていれば、いつでもこの箱庭に転移出来る。お主のウロコも中に入れといたから、他人には使えぬよ。」


えっ、垢とかやだ。

それに、いつの間に俺のウロコを・・・

ちょっと引きながらも、ユグじぃから、ネックレスを受け取った。


「箱庭から出るのは、簡単じゃ。そこの階段を登ればいい。」


「ユグじぃ、階段なんて、ないぞ。ここは、探索しつくしたけど、そんな物一度も見たことがない。」


「ふぉ、ふぉ、まだまだじゃの。お主の目は節穴じゃ。ほれ、目に魔力を集約するのじゃ。この箱庭の境い目をよ~~く見てごらん。」


「!?あった・・・」


石で出来た、階段がある。

なんで、気づかなかったんだ?


「じゃろう。普通にあるのじゃ。箱庭は、来るのは難しいが、出るのは簡単じゃからのぅ。まぁ、ある程度強い魔力と、それを制御する力がなければ、いつまで立っても、階段は見えん。永遠にここからは出られない者も、中にはいるのじゃ・・・」


「何それ、怖いな。見えてよかった。

見えなかったら、どうするつもりだったんだ。」


「お前は、注意力が無いから、自力では見つけられなかったが、見ることは出来ると信じていたよ。」


「まったく・・・じゃあ、行ってくるぞ。」


軽く手を上げて、別れの挨拶をすると、

恐る恐る階段を上っていく。

長い階段だ。

どのくらい、上り続けただろうか。

ふと、明かりが差した。

急いで駆け登っていくと、そこは広大な森の中だった。


これから、何をしようか?

冒険の始まりに、わくわくする。




それから、更に数千年の時が流れた。

俺は、最初の500年は、ドラゴンの姿で過ごした。その間に、最強と吟われる黒龍や、赤龍、他にも、強いと噂のドラゴンや魔物に、片っ端からケンカを売り、戦った。

異世界らしい、楽しい日々だった。

たまに、ユグじぃに、会いに行ったりもして、充実していた。

しかし、次第に戦える相手もいなくなり、暇になった。


次の500年は、魔法の修練をしたり、無駄に早く飛ぶ方法を考えたり、海に潜って海底王国を見つけ、隠された謎を解いたりした。

それもそれで楽しかったが、やっぱり全てを極めてしまうと、途端につまらなくなった。


あまりに、つまらなかったので、とある帝国の守護龍になった。

人間に化けて、皇帝に会いに行ったり、願われれば、手助けして過ごした。

帝国には、大きな図書館があり、ありとあらゆる魔道書や、面白い物語があって、全て読み終わるまで、大分時間が掛かった。

本に熱中する、静かな時間は、今までになかったものだ。

これも、すごく楽しかった。

昔は、勉強嫌いだったが、異世界の本は、わくわくするものばかり。既に、1000年以上、この世界にいた俺でも知らない事だらけで、知識をえる喜びを感じた。

ユグじぃにも、色んな話を聞かせた。

面白そうに聞くユグじぃに、俺も嬉しくなった。


そのような日々が続き、100年程たった。

本を全て読み終わると、また暇になった。

皇帝に、暫く寝るとだけ伝え、俺は龍の姿に戻り、城の地下を借りて眠りにつくことにした。








・・・眠りにについて、どれくらい時が流れただろう。

ふあああ、とあくびをして、伸びをする。

暫くボケッとしていたが、シュルシュルと人の姿に変身した。


腰まで届く銀髪に、銀の瞳。

ずるずると長い神秘的な衣装。

ただの人間とは比べ物にならない、美人。

人に変身すると、自然にこの姿になる。

初めて、変身した時、俺も驚いた。



さて、現世は今どうなってるかな~~

また、楽しい事が起こってるといいけど。


封印されていた扉を開き、長い通路を通って、外に出た。


あまり、昔と変わっていないようだ。


暫く、トテトテ歩いていると、大勢の人が忙しそうに行き交っている廊下に出る。

どうやら、城の使用人達のようだ。

所々に飾られている、紋章入りの家具などを見るに、どうやら以前の帝国が、そのまま存続しているようだ。


しかし、この姿人目を引くな。

さっきから、めちゃくちゃ見られる。

というか、皆固まってしまって、衛兵を呼ばれないのは、良かった。

俺の人としての姿を知っているのは、当時の皇帝だけだから、絵姿くらいは、あるかもしれないけど。説明も面倒だ。


実は、寝ている間に、夢を見た。

それは懐かしい、過去の夢。

松山良平だった、平凡な日常の夢だった。


もう一度、人としての人生を生きてみたい、そう思った。

だから、今度は庶民に紛れて、暮らしてみようと思う。


軽くジャンプして、城壁を越えると、俺は走り出した。

自分の考えに、久しぶりにわくわくしてきた。

俺は、走りながら、変身魔法を使う。

今度は、意図的に自分の姿を変えていく。

この世界で一般的な、茶髪に茶色の瞳。

どことなく、良平に似ている東洋の顔つき。

最後に、異空間から指輪を取り出す。

これは、呪いの指輪。

装備すれば、たちまち能力が激減する。


それだけではなく、同じような効果のあるピアスや、ネックレスを装着する。


これだけじゃ、全然足りないが、後は自分自身に、能力減退の呪いを掛ける。


ようやく、普通の人間くらいの能力になった。

これでよしっ!


まずは、住むところと、仕事を探してみよう!

















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