第2話 死人使い(中編)
「その辺にしときなよ。魔術師」
そう言って詰め襟学生服姿の少年が空から降ってきた。両手はスラックスのポケットに入れたまま、クルリと弧を描き一回転。バランス崩さず綺麗に着地する。
「シロ」
「はいにゃ」
そう返事して少年の影から音も気配も感じさせず飛びだした猫耳の少女シロは、白目むく男を軽々と抱え一目散に逃げていく。
「貴様、超人だな。その無意識に溢れだすおびただしい魔力量、一体何者だ」
龍人の問いかけに学帽を深く被る少年の瞳に映るは、銀河。
「うーん。この世界ではお互い初めてだから覚えてないか。俺は赤星進太郎さ」
「この世界? まぁいい僕の邪魔するなら排除するだけだ」
返り血を浴びた死体が、主を守るため動き出す。
「落ち着きなよ。俺は敵じゃないし味方でもないよ。やりすぎない限りね。ここはバランスが悪いけど、それでも他の並行世界よりは崩れてない」
「興味深い。崩れたらどうなる赤星」
「もっと進化するよ。人類は戦う兵器として進化する。本来俺や君はそれを見届けコントロールする存在さ。神や悪魔って呼ばれる上位者ってやつだね。図らずも君は今それをしようとしている。だから俺は敵味方どちらでもないのさ」
今のところはねと、進太郎はつけ加える。
ガチャガチャ。金属音とモワッとした不快な汗の臭いが二人を囲む。
拳銃を構えた複数の警察官と野次馬が取り囲んでいた。
「おっと?」
進太郎はそう言っておどけ、オモチャの拳銃を突きつける幼子を見る父の様に微笑み、対して龍人の表情は毛の無い猿がと醜く歪む。
*
「お前達何やってるんだ! 相手は凶器も持っていないんだぞ」
神威宗一郎がその輪の中へ飛び込み、少し遅れて羅我とリリスが駆けつける。
「はぁ? 余所から来た神威さんにわかる様に説明しますかねぇぇ」
潰れたヒキガエルに似た巨漢の警察官が、神威を見てゲフゲフと笑う。
「こいつらどう見ても化け物だぁぁ。鬼や妖怪と呼ばれる怪異の仲間よぉぉ」
「おいっ!」
リリスが眉をつり上げヒキガエルのスネを蹴る。
「このガ……キ?」
リリスのユサユサと揺れる乳房に目が釘付けになり、下品な笑みを浮かべた。
「ゲフフ。そうか貴様は超人は人間が進化した者だと民衆をたぶらかす【真紅の果実】の信者だなぁぁ。身体検査だぁぁ」
「リリスさん!」
発情し勃起するヒキガエルを止めようと神威は手を伸ばす。だがそれよりも早く動きだしたのは、羅我であった。
「オラァッッ!」
電光石火。羅我の膝蹴りが金玉を潰す。
「ひぎぃぃぃぃ!」
口から泡が吹き、股間を押さえ悶え苦しむヒキガエルの肛門にトドメの一撃。
みぢみぢ。捻じこまれた爪先から鳴る断裂音。
それを聞いた男達全員の股間が、ひゅんと縮こまった。
「なんじゃ旦那様、儂の邪魔して。必殺リリスちゃんキックを放ちたかったのじゃが」
「ったく。察しろよ。そしたらお前の体の一部が、コイツに触れるじゃねぇかよ」
「かっかっかっ。もう可愛いのう。我が愛しき旦那様は」
「羅我さん! 来ます!」
はだけた着物そのままに半裸姿の女性がゆっくりと近づいてくる。
「魔王様の邪魔はさせませんわ」
警察官達は神威から、神威は羅我からの指示を待っている。
「俺が行く。街を泣かす者は許せねぇ」
「俺達じゃろ」
「だな。相棒」
「なら僕達は集まってきた人達を避難させます」
それぞれの役割分担が決まった。
「逃がさないわ、あなた達は皆、大地に眠る地の龍への生贄となる」
半裸女性の肉体が歪みだす。カチカチカチ。体内で歯車とクランクが動き出した。
「――からくり変化」
魔王と呼ばれた男の唱える呪言によって女性は異形なる怪人へと姿を変える。
髪は逆立ち。つり上がる目と口角。手首を中心に肘が裂けて鎌が飛びだした。
「カマキリ?」
神威は初めて見る超人の異能に目を奪われる。
「そうだ。僕の異能力と、西洋から取り入れたからくり儀術のハイブリッド。死者にからくりを組み込み作り上げた、からくり怪人だ」
「龍人、どういうつもりだ。からくりを怪人にするだと」
「やぁ、次期当主。いい考えだろう。死体ならその辺にゴロゴロといくらでも転がっている」
龍人と羅我に呼ばれた魔王は彼に気づくと険しい表情は和らぎ、家族に見せる表情で笑顔を見せた。
「邪法に手を染めやがって!」
「龍人? まさか狂月さんと知り合いですか」
「あなた邪魔よ。魔王様とご友人の会話を邪魔しちゃ駄目」
「ひっ!?」
鎌が振り下ろされる。
――キンッ!
火花を散らし鳴り響く金属音。
「り、リリスさん?」
鎌の攻撃から神威を守ったのはリリスであった。背中に生えた悪魔の翼を丸め弾いたのだ。
「儂は、生きたからくり人形(人造生命体)じゃ。怖いか宗一郎」
「いいえ!」
神威の体を覆う翼は温かい。
「かかっ」
リリスは口角をつり上げ笑みを見せる。
「お主、もう少し女慣れするといいのう」
「い、いやこれはその不可抗力で」
神威は慌てて帽子で股間を隠す。
「儂を人として見てくれて、ありがとうよ。野次馬達の避難を頼むのじゃ」
「はい!」
「神威、お前あとでマジびんたな」
「ひどい狂月さん」
「へへっ冗談だ。半分はな」
「は、半分。うううっ覚悟します。では僕は行きます」
*
「いじめ過ぎじゃぞ、旦那様」
「アイツ面白いな。長い付き合いになりそうだぜ。行くぜリリス」
「イエス・マイロードじゃ」
「魔装ッッ! ルシファー!」
あとがき
盟友ムネミツさんの作品「デーモンブリード」から進太郎をリイマジ。
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