第9話 一滴の後悔

 平和が先生として学校生活を始め、一週間ほど経った。

 ネオンの他に、アイナ、レイナとも仲良くなった。

 他にも先生はいるが、ネオンと最初に会ったので、必然的にネオンの友達、アイナとレイナと関わるようになっていた。


「ねぇヘイワちゃん、ちょっと動物の世話しに行きたいんだけど...付き合ってくれない?」

「いいよアイナ。」


 実はこの世界の動物はほとんど絶滅寸前だ。

 絶滅を免れているのは、別の世界から持ってきた動物と、この世界の動物を人間が保護しているから。

 アイナは先生の中で一番動物の世話をしている。


「今日は猫ちゃんのお世話から始めようかなぁ...!!今日は生徒くんが暴れまわっていたから、落ち着いた可愛い動物を見て癒やされたいぃ...」

「良いと思うよ。私も猫好き。」

「おぉ〜ヘイワちゃん、猫派なんだぁ!!」

「うん。」

「でも私、犬派なんだよねぇ...ごめんねぇ...」

「...そう」

「あ、猫じゃらしもつぅ?」

「うん」

「即答だねぇ(笑)はいどぉぞぉ!!」


 アイナは生徒からも人気があるけど、生徒と仲が良すぎるあまりあまり授業が進まない。動物のこととなるともうその1時限分の授業は無くなるくらいだ。

 私もそれを見てしっかりしたいと思ったが、私も私で教えるのは得意だけど、生徒と仲良くなれないので、この二人で一緒に話せば、なにかわかるかもとよく一緒にいる。


「動物ってさぁ、可愛いでしょ?カッコいいのもいるからぁ、男子にも女子にも人気なんだぁ。だから、意外な一面を教えてあげると皆喜んで聞き入ってくれるのぉ!それが嬉しくて嬉しくて、ついつい語っちゃうんだぁ...えへへ、これが悪い癖ってのは解ってるんだけどねぇ...」


 楽しそうに彼女は話す。いつも同じようにゆっくり話してくれるから、私は聞きやすい。


「わかる、授業でも同じだよ。皆、得意教科とかは聞き入ってくれるし、苦手教科だとしてもすごいこと、面白いことを教えたりすると、楽しく授業を聞いてくれるんだよね。」

「え、わかるぅ?やっぱり私達、似た者同士なのかなぁ...」

「だね。私も似た思考の人と喋ってる感覚がするような気もあるし。」

「え、ヘイワちゃんもぉ!?私もそんな感覚ぅー!!」


 二人で猫の世話をしながらそんな話をする。今は猫じゃらしで猫と遊んでいるところだ。

 そんな時、アイナは少し低い声で言った。


「...ねぇ、もし大切な人と会えなくなったら、どう思う?」

「え...」

「私はね、ネット中毒者なの。でも、ネットがテラニウムのせいで...消えた。そのせいで、いつもゲームで遊んでいた人と遊べなくなっちゃった。」

「そうなの...?」


 アイナの瞳は、揺れている。

 ...もしかして、ずっと辛い感情を持ってたのかな。


「うん。あいつは、あの人は...私より強かった。私の名前...ネットでの名前を呼んでくれるときはいつも嬉しかった。そして、あの人対戦する時、越えようとする時、手が震えて、狙いが定まらなくなる。あの人は気付いていないだろうけど...」


 こう言っている彼女は、まるで...人をずっと、ずっとずっと待ち続けている目だった。


「アイナは...アイナは、ネットでの名前はなんだったの?」

「...る、...いやぁ、言うのはやめるねぇ...。」

「なんで?」

「ネオンやレイナに言わないでほしいし...まぁヘイワのことだろうから頑張ってくれるだろうけど...でも、口を滑られると嫌なんだぁ...」

「あ、そうなのね。じゃあ聞かないでおく。」


(ルアなんて名前、私には不釣り合いだったんだ。

 ...あの人、今何しているんだろうなぁ。

 なんだかんだ楽しかったな...)


「アイナ、餌こぼれてる。」

「あっ...わわぁっ!?ご、ごめんねぇ...」

「まぁ、ミスは誰にでもあるから気にしないで。」

「ヘイワちゃんありがとぉ〜...ごめんねぇ...こんな話した挙げ句ミスまで...」

「だから、大丈夫だよ。」

「うん...ありがとぉ...」


 アイナの瞳は、どこか遠くを見すぎているようで。

 実は近くに見たいものがあっただなんて、本人も、平和も知らない。

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