第8話 回線の結愛

 今は学校の下駄箱の前。

 私...平和は、ここから入って良いのか、職員室につながる扉から入るべきかを考えていた。


「どっちから入るべきなんだろう...下駄箱から入ったら生徒と間違われる可能性があるよね。でもいきなり職員室から入ったら...」


 そう下駄箱の前でつぶやきながらウロウロしていると、その下駄箱から青と紫のグラデーションの髪色で、澄んだ青の瞳の、明らかに異質な少年に声をかけられた。


「あ、もしかして平和さんでしょうか。」

「えっ、そうですけど...なんで名前を知って...」

「ミントから聞いたんです。新しい先生が来るって。申し遅れました。俺の名前は...”ネオン”です。よろしくお願いします。」

「よ、よろしくお願いします。私は菜乃 平和です。」


(よかった、優しそうな人だ。)


「前々から聞いていましたが、やはり漢字なんですね...ヘイワさんと呼んでもいいでしょうか?」

「別に良いですけど...名前を書く時は平和にしてください。」

「わかりました!...あと、敬語を外してもいいですか?敬語だとやりずらいので...。そちらも敬語を外していいですよ!」

「あ、わかった。」

「よろしく、ヘイワ!!」

「ネオンさんよろしく。」

「さん付けなんかい...」

「ところで、ここから入って良いの?」

「全然良いよ?」

「わかった。じゃあお邪魔するね。」

「まずどこから話すべきかなぁ...」

「ねぇ、ネオンさん。今何時?」


 明らかに外は暗いが、それはいつものことだ。雪雲に常に覆われているから、時間がわからない。あのミントに時計は持たされていないのだ。


「今〜?えっと...10時。子ども...いや俺等も子どもか。生徒達が寝ている時間なんだよ。」

「じゃあ、私が泊まる部屋までの道を案内してほしい。」

「おっけ、まず廊下。こっちはミントが育てている植物。ここは生徒がペンで悪戯描きした壁、でこっちが――――」

「いやそんな細かく説明しなくていいから。」

「あはは...あ、着替える?防寒服のままで暑苦しいでしょ。」

「着替えたい。普通の教師の服やフリーの服は持ってきてるし。」

「わかった、じゃあこっち側に寄ってからにしよう。」


 ネオンは、廊下を進んでいく。

 その間にも話をしていく。


「俺の同僚、面白いやつらが多くてさぁ?アイナとレイナって言って、俺の友達でもあるんだけど、アイナはめっちゃ天然でさ、飼っている猫にチョコクッキーを食べさせちゃったり、同じく飼っている兎が落ち着きがなかったら縛り上げて動けないようにして物理的に落ち着くようにしたり...」


(それは天然を超えて バ カ なんじゃないかなと思う。)


「レイナは実験系が好きなんだけど、アイナの飼ってる動物を被検体にして、別の動物同士で繁殖を試したり、音だけで物を動かそうとしたり、とにかく変なやつばっかりなんだよ。」


(いや、最後のは論理的に考えて無理じゃない?音って物動かせないはず...。)


「とにかく10回りくらい変なやつがいる。気を付けておいたほうがいいぞ。目を付けられるからな...。」

「ネオンは大丈夫なの?」

「まーな。だって俺は友達だし、防御系が強いからな!こんなのは耐えられるし。うん...。」


 だんだん自信なさげになってくるのを見ていると、もしかして耐えれなくなってきてるのでは、と思う。

 といっても自分が助けれるわけ無いので聞かぬふりをする。



 助けられるのになんで助けないんだろう。



「あ、ここが更衣室だよ。」

「じゃあ着替えるね。」

「いってらっしゃーい、僕はちょっと一服してくる。」

「いや未成年がタバコ吸わないで?」

「ははは、タバコじゃなくてゲームだから、気にすんな。」

「ゲームかい。」


 平和は更衣室の中に入っていった。

 ネオンはその間、ゲームをしていたが、相変わらず一向に進まない。

 ネオンがやっているのは―――――オンラインゲームだった。


「...やっぱり繋がらない。これも、これも、この場所も...。どこかに居てくれ、生存者よ...。」


 そしてネオンは誰にも聞こえないくらいの声で、



 悲鳴をあげた



「誰か――――...返事してよ...ッ!!」


 ネオンは、もう精神が崩壊する寸前だった。

 いつも諦めている、泣いている。

 更に言えば、ネオンは...ネット中毒者だった。

 誰かが居るから嬉しくて抜け出せなくなったネットの世界に今は、誰も...居ない。


「着替え、終わったよ。」


 そんな時に平和は更衣室から出てきた。

 まるで制服のような服装だが、それでもすぐ暖かくなる素材を使っているため、防寒性はバッチリだ。


「あっ...おぉ、似合ってると思うよ。」

「動き重視の服だけど?」

「あ、そうなんだ。」


 彼女平和は、思った。


(泣いていた?必死にごまかしているけど、涙の跡、付いている。)


「...ねぇ、その涙の跡どうしたの?なにか」

「聞かないで。」

「わ、わぁ...」


 自分が喋ってる時に遮られたので、困惑してしまう。

 ただ、最初の目的を思い出す。


「あ、私の部屋はどこ?」

「...あぁ、向こう側。ここから7つめのドア。」

「わかった。あと、ネオンさんの事は放っておいたほうが...」

「放っておいて。」

「わかった。」


 ネオンのような人はよく関わったことがある。

 私は放って置く。...だが、荷物を部屋に置いて来た後――――


 ネオンのところにまた来た。


「放っておいてって言ったでしょ。」

「いや、一緒にいるくらいならできるから。これでも私、色々な悩みがあって、私の友達も悩みがあって...。だから、そういうの解決できる手助けになると思う。」

「...これは、どうしようもない問題だから、ヘイワに片付けられるものじゃ」

「それでもきっと私ならできるかもしれない。」


 彼女平和は即答した。

 ネオンは――――動揺した。


「無理だよ...っ。これは...生存者が他にも居ないと駄目なんだ。」

「え、なんで?私がいるよ。」


 ネオンは心を揺さぶられる。

 あぁ、この自信がないけど、それでも人の為に尽くそうと頑張って、虚勢を張っている喋り方はあの子に似ている。


「...ネットだ。オンラインで人が居ない。」

「...だから私には出来ないって言ったのね。でも、大丈夫。生存者を見つけてあげるわ。他にもゲームを持ってる人が居るかも知れない。」


 まるで、この喋り方は――――ルアだ。

 俺のネッ友には、ルアという少女が居た。

 彼女はゲームで俺を越そうと頑張っていた...そんな毎日が楽しかった。

 他にもネッ友がいたが、俺は彼女のことが好きだったのかもしれない。


「......きっと出来ないよ。」


 俺は虚勢を張る。彼女平和は――――


「私ならできる。」


 と答えた。

 その姿に、ルアを重ねてしまいそうだ。

 こんな苦しい俺と――――不登校だった俺と仲良く話してくれて、沢山の人と関わらせてくれて、いつも追いかけて来てくれていた、ルア。

 俺は...


「ありがとう。」

「え?」

「俺も頑張ろうかな。」

「そう、頑張ろうね。」

「おぅ...!!」


 いつか、必ず―――――!!!ネットを、オンラインを、ルアを取り戻す!!

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