第27話

 えっちらおっちらと深い森の中を歩く。


 春先のおかげか、木々というか藪が成長しては生い茂るを通り越して、鬱蒼という言葉通り以上にうざったいと感じるレベルで増えており、獣道というものをわかりにくくしている。


 それらを避ける様に新たに作られている形跡はあるが、やはり生い茂る植物の生長速さによって、そこも怪しいレベルで遮ってもおり、こちらの歩く速度を阻んできている。



……こりゃぁ、ナタを持ってきた方がよかったかもしれんな



 そんなうっとおしい藪の中を棒切れと背負子しょいこを背負いながら歩み続け、いつもの中継地で湧き水を汲みつつ、道中の小休止定位置としている岩が鎮座する場所にて一息いれる。


 ただ、小休止の森林浴と洒落こもうにも、こういう時期は獲物を探してうろうろする獣も増え始めているものである。



 ……だからって休憩中に来るなよ



 春先の獲物として此方を睨み見てくる森の獣の代表格。

 いうなれば森林に生息するオオカミの群れ、とでもいうのだろうか。



……まぁた、お前さんたちかよ



 と、半ば呆れというか学習しないのか?という思惑にかられながらも棒切れを手にしようとしたら、唐突にオオカミたちは此方とは違う方向に何かを感じたのか、一瞬その顔を背けたと思えば、その向いた方向とは逆側にいっせいに走り出した。



 その行動に嫌な予感を感じ、つられる様に周囲を探ってみると……



 こちらにゆっくりと迫る気配から言えば"さもありなん"と思いつつ、こちらも余計な面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁願いたいので、気配を消しては、その場からそそくさと撤退する事にする。


 なにしろ、こちらに来てるのは冬眠空けであろう熊の親子である。



 ……そりゃぁ、オオカミ達も逃げるわなと。



 こういう動物の生態系も、似たり寄ったりになるんかね?と思いながらも、特大の面倒ごとになりそうなその場を、気づかれない様に風下に移動していった……





   *   *   *


「……おおぃ、やってきたぞ!」



 森深い場所にポツンと現れる広場に到着しては、そう声をあげる。

 そうすると、何時もの様に足元に光の矢が刺さっては円陣が広がり、何かしらの領域が生成されては、一つの人影(?)が降りてくるのを感じる。



「お元気でしたか?」

「……お陰様でな」

「それは、重畳ちょうじょう

「……んじゃ、始めるか」



 そんな言葉と共に、にっこりと笑顔を返してくる残念美人を他所に、簡易的に軽く挨拶を済ませては、折り畳みテーブルやら何やらと準備していく。



 その間、手持無沙汰でもあるためか、ソワソワとしている残念美人。

 まるで、プレゼントを待っている子供の様な、落ち着きの無さである。



「……もうちょっとおとなしくまっててくれ」

「待ちましたよ!冬の間ずーっと!!」

「……雪があるとココには来れんだろ、あきらめろ」

「それでもです!」

「……はぁ。なら、これでもつまんで待っててくれや」



 携帯コンロにて湯を沸かしながら、待ち時間用にと背負子から日持ち品の菓子類をテーブルに載せていく。


 その中には、あの昨年に問題が起きたバニラを使用した菓子類も含めてだ。


 あの事件の後、色々と試作しては金床尖り耳(と女史)に餌食(餌付け?)して、好評を得た物シリーズとでもいうべきか、乳製品がメインの代物でもある。



 だが、今回はさらに色々とを持って来ている。



 小麦粉(薄力)にタマゴに牛乳にバターに砂糖に、あとは携帯冷蔵には生クリームなどなどの日持ちしないもの、そして円形の鉄板に、T字型の器具とスクレーパーも準備していく。


 そうして、ボールに生地を作っては、円形の鉄板に薄く延ばして焼いていく。

 残念美人は、出された菓子類をほおばりながら、こちらの準備する姿を興味深げに見ては、



「今回は、大ごとな感じですね」

「……準備できるまでもう少し待っててくれや。あと、ここらで甘い果実があるなら手に入らないか?」

「それなら……これらはどうでしょう?」



 そういっては、指を空に向かって振りかざすと、数羽の白い鳥がそれぞれに果実の実の房を落としては去っていった。



……これは、サクランボか?あと、イチゴの様な実もあるな。

 


「甘味もありますが、酸味もあります。今の季節だと甘みが強いここらですかね」

「……なるほどな、旬ってやつか」



 試しにイチゴの様な物を口にすると、たしかに酸味もあるが、それ以上に甘みが出ていた。



……そもそも、まんまイチゴじゃねぇか。なら、使えるか



 というかイチゴそのものを切り分けて、生クリームやらをチョコレートソースやらを、先ほどの生地の中にくるむように包み上げる。


 もちろん、先ほどの果物も含めてだ。



 薄い生地で生クリームやチョコレートソース、そしてフルーツを来るんだ菓子、クレープの完成である。



 ここまで形もこだわって出来るようになる為に、材料を思い出しながらの試行錯誤での試作品の練習は、通いなれた喫茶店にて製作していた。


 そうしたら、尖り耳と女史に"甘い匂いがする"という意味不明な事で試作場に現れ、偶然にも店に来た受付嬢たちにも試作として提供されて(お腹の中に入って)いった……


 店のマスターはマスターで、女性陣に受ける新しいメニューと解った途端、ニヤニヤと嫌らしい笑いをしていたのはみなかった事にしておく。



 そうして、何度も試行錯誤と練習を繰り返しては、姿形も映えるまでに習熟した結晶の完成である。



「お、美味しそう……」

「……ほらよ、まずは一つめだ」



 ……この日のために準備したんだからな?味わって食え……って、えぇ



「ほひひいぃぃ、なんですかこれは!!他の菓子とは違いすぎます!」



 手渡した瞬間に口いっぱいに頬張っては、生クリームを頬っぺに付けている残念美人。


 いや、そりゃぁ初めて食ったならそうなるかもしれないけれど、もう少し取り繕うとかしないのかコイツは……、それじゃぁ、野生児ばりじゃねぇか。と思ったりはするが口にはしない。



 なにせ、今回のが残念美人なのだから。



「……とりあえず、まだまだ材料はあるからな、どんどん作っていくぞ」



 そう言っては、次々と作っては残念美人のお腹の中へと消えていった。


 作っても作っても、作るそばから消えていくという、なんというか、ブラックホールというものがあるならば、こういうものなんだろうかと思わなくもない。



 そうして格闘すること一時間ぐらいか?材料もなくなっては後片付けと、お茶を飲みながらくつろいでいる状況に落ち着いた。



「ふぅ、満足です」

「……そりゃぁ良かった」

「けれど、どうしたんですか?この様な事」



 思い当たる節といわれれば、たった一つの事しかなかろうに。



「……ひでぇ風邪ひいた時、世話になったみたいだからな、その礼だ」

「あら?気づいてました?」

「……あからさまな手がかり残して何言ってやがる」

「周辺にも害成す要因が浮遊してましたからね、解毒も含ませる為ですよ?あ、このチョコレートを溶かして飲むのも良いですね」



 それはココアだというツッコミは置いておいて、此方としては残念美人に借りを作りたくないと思ったわけで……


 そもそも、こういう位が異なる相手には、借りを一切作らないのがうまくやっていくコツでもある。


 そうでないと、感性が違うのか突拍子もない事を言い出しそうで、逆にストレスがマッハになる未来しか見え……



「となると貴方を救済すれば、おいしいお菓子がもっと手に入る訳ですね」

「……だから、そういう考えをやめろや」



 ……ほらな?



 やはり残念美人の思考は斜め下にぶっ飛んでるというか、何というか……と、再認識せざるえない内容をぶっこんできやがる。


 一応、そういう事はするなと、念入りに強く釘を刺しておいたが、その内容は言う必要もないだろう。


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