第26話
冬の季節も過去り、春の陽気がさしかかろうとしている時期。
この街でも、農耕に精を出す人たちの活気があふれだす時分の昼間から、昼飯と安酒を求めて定位置にて陣取っている。
いつもの薬品と魔物除けのお香の補充をしては、併設されてる店で昼飯を食いきり、その食後にボケーっとしながら安酒をチビリチビリと飲む。
……そいうのを横目に昼から酒を飲んでいるワシ。うむ贅沢だな。
という、しょうもない愉悦感に浸りながら、オカワリの酒を頼もうと思ったとき、うっすらと人影が自分に掛かった。
なんだ?とその陰を落とす方へと首を向ければ、昨年に結婚しては一旦前線を退いた元受付の女性が立っていた。
「この方が、試験官役になっていただけるツヴォルグさんです。覚えておいて下さい」
「は、はい」「わかりました!先輩!!」
そう言っては、数人の新人を研修のごとく引き連れていた。
「……っというかちょっとまて、いつから試験官役になってんだ?」
「いつも春先にてお手伝いして頂いてますよね?ツヴォルグさん?」
"ね?"という部分に威圧のある睨みというか、凄みを感じる視線に、頭の中では"逆らってはいけない"という警鐘が大音量で鳴り響いた。
「……お、おう、そ、そうだな」
「今回も数人ほど試験をしてもらいますので、よろしくお願いしますね?まっ昼からお酒を飲んでるツヴォルグさん?」
最後の名前の箇所で、再び脳内に"逆らうな、従っておけ"という警報音が鳴り響き「……わ、わかった」という言葉を絞り出すしかできなかった。
……というか、受付は引退してたんじゃなかったのかよ
そう思いながら事務所の入り口に視線をやると、その仕切り向こうには久方ぶりに見える
……あとで秘蔵の酒を絶対に奪っておいてやる。
* * *
「なんだ?こんな薄汚いドワーフのおっさんが試験官なのか?」
「ちっせw」
「試験って聞いてたけど、コレ楽勝じゃね?」
「ほんと、それなwww」
毎年、毎年、なんつーか、クソ生意気なガキが相手になるのはどういう事なんだろうか。
口減らし組の威勢のいい奴等の鼻っ柱を折るのがワシの仕事なのかと思えてしまう。
「……誰からいくんだ?」
「俺様からいくぜw」
粋のよさそうなガキ大将みたいなのが名乗り出てきた。
周りのギャラリーからは、「どっちが勝つか賭けるか?」「んな分かり切った事に賭けれるかよ」「だよなぁ」と、冷やかし半分、暇つぶし半分というところである。
当の本人は、聞こえているのか聞こえてないのか、木剣を取りに行っては戻ってきた。
「俺様は剣術を習ってるからな、薄汚いおっさんに一泡ふかせてやるぜ!」
「……そうかそうか、じゃ頑張ってくれよな。いつでもいいぞ」
そういって、構えるガキ大将。
その姿は、確かに様になっており、剣術を習っていたと自負するだけあるというのが分かるぐらいの立ち姿でいた。
そしてその姿をみた野次馬はといえば「お、なんかやりそうだな、じゃ何合にする?」「おれ10合未満」「じゃ3合きっかり」と、別の賭け事が始まっていた。
……なんつー賭けなんだか
「よそ見してんじゃねぇよ!!」
と、鋭い袈裟切りをかましてくるガキ大将。
剣術を習っていたという通りに、その剣筋は鋭かった。
いや、鋭いというか鋭すぎるというか愚直というか、その素直すぎる剣筋の為に予測がたてやすい。
その予測先に、そっと横から棒を当てては剣筋をずらすと、振り下ろした勢いを殺せれる訳もなく、地面へと木剣をぶち当てていた。
「……どこ狙ってんだ」
「くっ、おるぁぁ!」
返す刃で、横薙ぎをしてはくるが、半歩下がればその範囲からは逃れられる。
そうして通り過ぎたあたりで、バランスを崩せれる箇所に棒を突き当てる。
「ぐっぁ」
こちらの予想外にも、盛大にバランスを崩して倒れ込むガキ大将。
そんな状況に、「まじめにやれー」「そーだそーだ!!」と、外野ギャラリーからの罵声が聞こえてきたが、「……うるせぇ!」で一蹴しておく。
「……ほら、どうした?最初の威勢はどこいった?」
「ぐっ、まだまだぁ!!」
生意気なのには理由があるのか、気骨があるのかはわからないが、今度は突き技を披露してくる。
だが、悪手だ。
体幹が崩れてる状況とでもいうか、最初の剣術の型なぞどこ吹く風に、がむしゃらに行動しているのが目に見えて分かる。
これでは相手が人であろうが、魔物であろうが、獣であろうが、どれが相手だろうと素人でないなら脅威でも何でもない。
……こりゃぁ、習ってはいたが、途中でサボったか何かだな
そうして、突きだされる木剣を棒で絡めるように突き上げては、相手から木剣を弾き飛ばす。
が、相手はその木剣を手放してはいるものの、そのまま此方に殴りかかってこようとしていた。
……ほぅ、気骨はあるが、それだけだな。
体格さがある点を利用しようとしているのは分かるし、思い切りもいいのだが、いかんせん無謀とでもいうか、何も考えてないとでもいうか、勢い任せというか……
そんな相手に、こちらは持っている得物で足を払いのけては転倒させ、その首筋に棒を押し当てる。
それでも立ち上がろうとするときには、わざと棒を喉に押し当てては制止させたりもする。
「……終わりだ」
「ぐっ」
「はい、終了です。では、次の方~」
新人受付のマイペースな言葉で、次の試験が事務的にすすめられてはいったが、先ほどのガキ大将ほどの気骨もなく、ほんの二、三合ほどでそれぞれ終わりを告げられていた。
「こんな強い
「そうだそうだ!!」
「やり直しさせろ!!!」
「そうは言いますが、ツヴォルグさん、
「えっ?」
「嘘だろ……」
「
「本職はもっと強い……?」
ここまであからさまに実践経験が無い奴等だと、本職というか、失恋魔族のいるパーティの奴等でも、難なく対処できそうであるだろうなと、状況が思い浮かべれる。
「……ま、そうだな」という言葉をこぼせば、信じられないという目で此方を見てくるが、あとの事は知った事じゃねぇからな。
「……ま、お前らも地力を鍛えてからでも遅くはないだろう。んじゃ、ワシは行くから、あとはヨロシク」
「はい、承りました」
元受付嬢にそう伝えては去る間際、振り返れば鼻っ柱をおられたガキどもが、何かしら説教を始めた元受付嬢につかみかかろうとしては……
……綺麗に投げられたな
つーか、あの元受付嬢、何気に柔術使いなんだよな。
というか、元
ので、わかってる
……そもそも新人研修も兼ねてたハズだろうに、何やってんだか
そんな事をしている元受付嬢をしり目に、賭け事で勝った奴が”ドワーフのおっちゃんのおかげで儲かったぜ!!"と言いながらも、酒を一杯おごってくれるという。
もちろん、御相伴にあずかっては再び定位置に赴き、忙しそうにしている
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