第28話

 温暖な季節になってきては、放牧している家畜たちが若芽を探しては、もっそもっそと食事をしている風景を、 荷物を積んでは街道を歩く牛車うしぐるまの上から眺め見ている。



 "のどか"という言葉が一番シックリきている風景なのだが、時折風にのって流れくる"肥料の臭い"が無ければという条件を付けたくもなる。


 なにせ、離れていく街の城壁周辺では、例年の"豊穣祈願祭"という名の"肥料祭り"が開催されているのが見えているからだ。



 ……ま、あれがあるからこそ、旨い飯が食えるともいうから、非難できるわけはないが



 そうして陸路をゆっくりと牛車ぎゅうしゃの荷台に乗かっては移動している状況である。



「ドワーフのおっちゃんよ、タダで本当にいいのか?」

「……かまわんよ。載せてもらった分はしっかりと働くさ」

「魔獣除けはあるが獣除けはあんまり効果がないの、ほんと何とかならんかねぇ」

「……それは、そうだな」



 ワシ考案・ワシ作成の"魔物除け"を世にロハ状態で放った。

 その"魔物除け"は、例えば荷車にお香としてぶら下げておけば効果を発揮し、魔物は寄ってこなくはなるのだが、動物というか獣の類はそのお香でも関係なく襲ってきていた。


 獣対策で喧しいやかましい音を出したりという手もあるが、それに怯まない獣もいるし、そういう音に興味をもって集まってくる野盗もいるので、痛しかゆしといったところでもある。



 ……というか、魔物にとっては、今みたいに漂ってくる"コノ臭い"みたいに感じてるのかね



 鼻孔をくすぐる風にのって、何とも言えないシモの臭いを感じ取っていた。





   *   *   *


 夕刻


 牛車は宿場町へと到着する。

 そうして、さっそくとばかりに宿をとっては併設されている酒場へと乗り込む。


 こういう酒場には、土地柄の何かしら特徴的な代物を楽しめる場でもある。


 ここでは、春の山菜のフライ、しかも天ぷら風の物が出てくるのである。



 ……ま、天ぷらはワシが教えたんだがな



 当時、春の山菜が食いたくなっては山に登っては採取し、厨房を借りて天ぷらをこさえて食べていたら、店の店主に頼まれては教え、今ではこの季節のこの宿場町の看板メニューとなりはてた。


 サクッサクッと音を立てては食べれるほどに、表面はカリッと中はフワッと仕上がってるそれを旨いものだと舌鼓をうつ。


 外の出店でも似たようなものを串に刺して出してはいるが、やはり店の中での物が最高である。


 もちろん、これ"も"目当てで来たともいえるが……



「……大将、例の奴を」

「はいよ」



 そして出されるのは、透き通った水の様な……酒



……これよ!これ!



 清酒に近い米酒という奴である。

 といっても昔懐かしの故郷の記憶の奴に似てはいるが、そこまでは似ていない。

 米といっても、細長い奴を使った代物でもあるからだ。


 だが、その旨味というか甘味のなかにサラッとくる風味が、口の中の油っこさを正常な状態へと回復してくれる。



 ……むむむ?今年のはさらに清酒になってないか?



 今年の出来に感心しながらも、天ぷらをかっ喰らって酒を流し込む。

 この味わいといったら、得も言われぬ極上の代物。


 この酒を買い取りたいと言ったら、この宿場町で少量作られている為、泊りに来た客の、更に裏メニューを知っている者にしか出さないという。


 そんな限定品の時期に出会ったり出会わなかったりするのだが、今回はうまく出会えることになったのだが、運が悪ければ完売御礼で無かったりするのだ。ただ……



「本当に美味しいですよねぇ、病みつきになるほどに」

「……なんでお前がココにいるんだよ」



 ハゲ頭のオーク神官が、普通に対面に座っては天ぷらをかっ込み、酒を楽しんでいることを考慮すると、いままで出会えなかった時がある理由が、もしかしたらコイツにあったんじゃないかとさえ思える。


 何しろ、空の樽がその隣に鎮座しているのだから。



「えぇ?ココにいる理由ですかぁ?それは、主の導きなのですよぉ」

「……どうだか。というか出来上がってねぇか?」

「毎春ん、かかさず巡礼してますからねぇ、えぇえぇえぇ、たいしょーオカワリ」

「へーい!」



 一瞬、脳裏に"きちがい水"という名称を思い出した。

 目の前の存在が、まさにそうなろうとしていたのだから仕方ないだろう。



 目の前の呂律が上手く回ってきていない酔っ払い神官が垂れ流す話を聞けば、ここにいる理由は、近くの山が修行僧の修練場として教会関係者ご用達の巡礼路になっているとのこと。


 その修練の指導員として呼ばれているとの事で、さっさとその用事を終わらせては野山を走りぬけて、この宿場町まで来ているとの事だった。



 ……そういや、毎年この時分前後は、不在になってたな。



 出かける際に清掃依頼の話をしようと教会に出向いた際、見知らぬ"とてつもない別嬪な修道女"が代わりに出てきては"大師父はお出かけになられております"と言われてたのを思い出す。


 だが、そもそもコイツが"そういう職務"をまともに全うする事があるのだろうか?という疑問も浮かんでもいたが……



「ここのぉ、この清い水ぅは、やはりぃ、」



 もう、何を言っているのかわからない、しかも軽く船を漕いでるんじゃね?というレベルにもなってきている。



「きいてますかぁ?」

「……あぁ、聞いてる、聞いてる」



……というか、酔いの回りがひどすぎやしないか?絡みがひどすぎる



 いつも飲んでる果実酒程度では、ここまで酷くならんぞ?と普段との比較をしていた矢先に、店の入口が騒がしくなっていた。


 何事か?と思っていたら



「魔物の群れがこちらに向かってきている!戦えない奴は一応避難所に避難していろ!」



 と、大声を上げては去っていった。

 何やら慌ただしい事が起きているようだ。


 スタンピードでもなさそうだが、群れが現れているということは、春先でおきる一時的なものだろうか?



 ……仕方ねぇ、この酒と天ぷらに被害が及ぶのは吝かじゃねぇ



 とりあえず、協力してみるかと席をたとうとした矢先、何かにヒョイと首根っこを掴まれては持ち上げられた。



「……なっ?!」

「何しているんですか?すぐにいきますよ?この清いお酒が生き残れるかどうかの問題ですからね!」

「……ちょっまて!ワシの得物を」

「獲物なら外ですよ?」



 そうして、とてつもない速度で移動したかとおもえば、気が付けば門の外に飛び出ていた。



……まぁ、実際に防壁を大ジャンプで飛び越していたのだが



 そうして、見える範囲で確認すれば、迫り来るのは虫・蟲・ムシの群れ。



 ……あれか、春先で羽化したりして、たまたま急激に増えた奴等っぽいな



 ごくまれに、周期的になるのか、そういう増え方をするケースがある。

 ただ、生まれたてであろうが、害虫ではあるが相手は魔物、それなりに訓練された奴等なら、対応はできるだ……



 ……って、ベアハントも混じってやがる。こりゃぁ、ちぃとやっかいになるか?



 熟練の奴でないと、危険度が高い魔物が視界に入り、こりゃぁ、気を引き締めていかなければと、気を張っていると


 

「さて、大事な物を背中に背負いましたので、少々本気でヤらせていただきます」

「……は?」



 その言葉を放った存在をみれば、その視線が相手を確実に殺すレベルの視線に変わったのに気づいた。そして"これは何を言っても、もう変わらん"と。



「……はぁ、好きにしろや」

「ええ、では」



 そこらに落ちてたちょうどいい具合の木の棒を拾っては、ハゲ頭の神官が突っ込んでいくのを眺め見る。



「ウハハハハハハハ!今宵の月は綺麗ですねぇ!!気分爽快です!!」



 月光に照らされる頭の輝きぐらい、その体術で魔物をワンパンで仕留めていく。

 その顔は、どちらが悪人なのかわからないぐらいの異形と化していた。


 ただ、その姿をどう表現すればと思い、脳裏によぎったのは



 ……鬼だ、悪鬼羅刹の修羅がおる



 素の時でもやっかいな徒手空拳がさらに凶暴さを増し、凶悪な笑顔をしながら魔物を屠っていく存在。


 飛んでる相手は捕まえてはちぎって投げ、向かってくる甲虫をその拳の一撃で粉砕、こちらに流れてくる相手がいれば気弾みたいなのを飛ばしては射殺いころす。


 そんな事をしているハゲ神官といえば



「ハーハハハハハハ!良い気分です!!」



 まさに修羅といえる形相なのに、気持ちいいほどの清々しい大声で笑っていたりするという。どうみても狂人にしか見えない。


 そんな折、ようやくやって来た自警団なのか警邏の兵士なのか、そんな奴等が来ては



「な、なぁ、アレはいったい何なんだ?」

「味方で、いいんだよな?」

「もう、アイツ一人でいいんじゃないか?」

「……とりあえず、漏れた奴だけは警戒しておけよ?その必要もなさそうだけどな」

「あ、あぁ、そうする」

「ヒャッァハァァァァ!!」



 そんな言葉を交わしては、世紀末の雑魚キャラクターが叫びそうな奇声をBGMに、ただただ茫然と眺めていた。


 そうして一刻ぐらい過去った時だろうか?魔物の亡骸の山を築き上げた修羅は、気分爽快という表情をして戻ってきた。



「ふぅ、いい運動でした。ただ、酔いが冷めましたのでもう一杯飲みにいきましょう。さぁ戻りましょう!すぐ戻りましょう!!」

「……ぉ」



 後始末をしようとしている奴らを尻目に、こちらが返事をする前に再び首根っこをつかまれては早足で連れ返される最中に思った。




 ……酒がすぐ無くなってる理由、やっぱコイツのせいでは?




 運ばれながらも、そう確信にめいた結論を付けた。



 なにせ、樽であった清酒を飲み尽くしてしまった際には、残しておけばよかったと膝をつき、ひどく落ち込んでは嘆いていた泣いた鬼がそこにいたりしたが、それはきっと些細な事なのだろう。



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