第15話

 この世界には、魔法っつーものがあるというか、魔法……魔術、魔呪、陣、呪術、法術、精霊術、etc、エトセトラ……


 とまぁ、言い方はいろいろ違うが、まぁ、ひっくるめて魔法でいいだろう。

 使うもとは同じだしな。


 使う素というのは、元素みたいなものというか、なんだっけか……

 あーあれだ、燃素フロギストンみたいなモンと思えばいい。


 そういうモノが到る処いたるところに存在している。


 そういったモノを原料にしては現象を起こしているから、燃料に近いともいえるから燃素フロギストンという表現でも、まぁ、あながち間違いでもないだろう。


 んでまぁ、魔法っつーのは、これらを身体に取り込んで変換して現象を起こす場合もあれば、そのまま外にあるがまま操って変換しては発動する場合もある。


 他にも、何かしらの術式が記載されている回路を通して変換するものもあれば、燃素の結晶的なものから抽出して使うって感じなのもある。


 で、一般的なものとしては、この燃素の結晶というか、いうなれば電池とでもいうものと、回路的なもので生活が便利にする道具というものが多々ある。


 便所に台所周りに照明器具に暖房器具などなど、まぁ色々とだ。



 逆に言えば、それらが使えなくなると、途端に不便なるともいえる訳で。



「……湯が出ねぇ」



 風呂に入ろうと湯を出そうとしたら、水しか出てこないありさまに遭遇。

 早い話、湯沸かしを行っている装置、まぁ、給湯器が故障していた。


 今までも似たことはあったりはしたが、応急処置的に直してダマシダマシで使っていたのだが、とうとうそれすらも対応できない状況になっていた。


 なにせ、修理できないかとバラシて状況をみてみれば、結晶電池といえる場所の近辺が老朽化というか経年劣化しており、十全な機能を発揮できないとでもいうか、そういう回路が一切ダメになっていた。


 経年劣化ともなれば、交換部品を手に入れればと思ったが、年季の入っているこういった製品には、そういうもはとうにない。


 昔の奴は、異様に頑丈に作ってあったりするしで、無茶な使い方しても何とかなっていたのだが……それもとうとうダメになったかと。




「……仕方ねぇ、買い替え時か」



 

 長年(20年近く)使っていたら、そりゃぁもう無理かと諦めとともに、買い替える算段をしては家を出た。





   *   *   *



「師匠!今日はどの様な物をお持ち込みで!何か、新しい物でもできましたかな?さささ、どうぞどうぞ、遠慮なくお入りください」


 やってきたのは、ドワーフのオヤッさんたちの工房……の隣の魔具店なのだが、いきなり代表のオヤッさんが出てくるのはどういう了見なのだろうか。


「……給湯器が壊れてな、そろそろ買い替えようかと」

「おお、そうでしたか。では、私が腕によりを込めてお創りしましょう!」

「おいおい、貴様ではなくワシだろ?魔道具ならばワシだ」

「いんや、お前さんは下手な機能つける癖があるだろうが。こういうのは単純で質実剛健なものがよいのだからワシに任されよ」

「お前は時代おくれ野郎だ。今は、結晶石の消耗品度を下げる方向だ!!」

「それで性能が落ちてるなら、元も子もないだろうが!!」


 わらわらと集まってきたオッサン'sたちのアッピルから、「てめぇのじゃ、時代おくれなんだよ!」「そっちこそ、性能を犠牲にしやがって!」と、なぜか殴り合いの喧嘩にまで発展していた。


 そして、纏め役ともいえる代表のオヤッさんといえば「しばらくお待ちください、決着をつけてきますので」と言っては、「てめぇらは何もわかっちゃいねぇ!両方充実させなきゃ意味ねぇだろうが!!」と、取っ組み合いの殴り合いに参加していった。



 これ、どうしろと?



「あの、おじぃ達が、本当すいません」


 ぼんやりと事の状況を眺めていたら、となりから一杯のお茶をもってきてくれたのは、玉軸受けを考案したお嬢さんだった。


「……いや、まぁ、技術の優劣を競うのは、わからんでもないが。あそこまで熱くなるってのがなぁ」

「みんな、モノづくりとなると、子供になりますから」

「……あー、なるほどなぁ」


 確かに夢中になると子供になるってのは、わからんでもない。

 それだけ夢中になれると熱くなれるもんでもある。

 それが、ちょっとした"くだらない事"でも。


「それで、今回はどのようなご用件で?」

「……ん?ああ、給湯器がとうとう寿命になっちまってな、交換品を探しに来たんだ」

「給湯器、ですか……」

「……まぁ、給湯部分の効率を考えるなら、常に全力でつかうんじゃなくて、先だって小さな出力の状態で温めたお湯をタンクなりに貯めときゃいいんだがな」



 そう、常に加熱して行う急騰方式にするよりも、高温にしておいた物を一度蓄え、そこから使った分を補充する方式にした方が、効率が今のよりも良くなる。


 なんなら他の熱源、例えば太陽熱をつかったりで補ってやれば、さらに燃素結晶の消耗節約にもつながる。


 と、そう説明をしておく。



「けれど、お湯をタンクで貯めるなんてしたら、すぐ冷めませんか?」

「……そんなもん、熱を伝える物を無くしちまえば、冷めにくくなるだけだ」

「はい?熱を伝える物を、無くす?」

「……簡単にいえばだ」


 地面に簡単な絵を描く。

 Uの字の枠を書いて、それを外側と内側に空間が隔てている感じとし


「……例えば、こういう金属板を二つつくって、その間に隙間を作る。そして、熱を伝える空気を無くしたり、熱の移動ができない物をぶちこんだりだな」

「空気を無くすとは?」

「……空気ってのは、熱を伝えたりするからな、熱風とかあるだろ?」

「あ、確かに、熱い空気がありますね」

「……その空気すらなくしてしまえば、熱は伝わらんって訳だ。ほかにも、熱を遮断するものを間にいれたりとかな」

「ほほぅ、そんな方法が」

「なるほど、さすがは師匠ですな」

「熱を伝えない物質もありか、魔獣の素材にそんなのがあったな」

「こうしちゃおれん、さっそく取り掛からねば!いくぞ!師匠の提案品だ、おめぇらぬかるんじゃねぇぞ!」

「おうさ!」「当たり前だろうが!!」「やったるぜぇ!!」「まかせろや」



 いつの間にかギャラリーになっていたオヤッさん'sが、蜘蛛の子を散らすように消え去った。



「……なんなんだ、ありゃぁ」

「ほんと、子供ですから……」



 残ったのは、あきらめの表情で争い後の後片付けを始める玉軸受けの子と、ただただ茫然を見送るしかない自分が取り残されるだけだった






 なお、後日には保温タンク付きの給湯器(補助的に太陽熱湯沸かし付き)が工房のふろ場に設置される事となった。


 ただ、やり切った感の表情でドワーフのオッサン’sに試運転といって初風呂をとられ、なおかつ成功の祝いといって貯蔵酒を飲まれまくったのは納得がいかないのだが……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る