第16話
雨季
雨の季節
そんな雨の日というのは、街の中の活気というのが小さくなるものである。
ただ、街の外というとそうでもなく、農業にいそしんでいる者たちにとっては、恵みの雨ともいえるし、水分が多すぎたら農作物がダメになるために、田畑に赴いてはせっせと作業をしていたりする。
で、そういう自分はといえば……
外に出るのもメンドクサイ、という訳でもなく、定期的な納品物を持っては組合へと足を向けていた。
傘なんてもんもないので、合羽での移動でもあるが、こうも雨脚が強くなってくると、外を出歩く住民は少なくなる中、溝から雨水があふれ出しては、臭いにおいをまき散らしている程度である。
やむ気配にはならなさそうだなと思ったぐらいに、目的地へと到着する。
「……いつものだ」
「はい、確認します」
いつもの手続きを行ってみるも、雨脚が強いにもかかわらず、やけに静かである。
いつもなら、雨のせいでにぎわっているはずの酒場ですら人が、まばらにしか人がいない。
「……今日は何かあったのか?」
「え?ええ、何時ものが出てきたので、対応に出てもらっています」
「……あー、もうそんな時期か」
「ですね」
何時ものというか、はっきりいえば、でっかいカエル。
しかも、異様に育ち切っているので、モノがでかくて人すら飲み込むことすらある。
まぁ、飲み込まれて死ぬ奴も、例年数名はいるが、そうなる前に狩人組以外も参加して組合員が処理しに赴く奴である。
対処方法が確立しているので、あとは人手と、度胸ある奴と、処理する奴がいれば何とでもなる相手である。
動きは鈍重、飛んでくる舌さえ気を付けておけば、難なく対処できる。
難なく対処できるし、その肉はちょっと美味いときている。
小遣い稼ぎに出っ張らうのは、まぁ、そういう事だ。
「はい、確認できました。では、何時もの口座に入金しておきます」
「……おう、それで頼むわ」
やる事も終わったし、酒をしんみり飲む気にもならいし、ちょっくら覗きに行ってみようかね。
* * *
街の中に流れている河川、街の中へは魔獣除けやらごみ除けの柵があるために、そこから入ってくることはまずないので、その上流側と下流側につながっている。
で、小雨に変わってが雨がパラつく中、上流側のほうへと暇つぶしで見に行く。
……おお、やっとるやっとる。
一人がおびき出し、二人係で左右から足止めし、本命の一撃持ちが仕留める。
もう、作業というレベルであるが、複数のカエルをひっぱりだしたらちょっと厄介になる程度であり、釣り師の腕が一番重要なのである。
そのため、こういう相手で練習する輩もいるので、まぁ、それはそれで特訓にもなっているだろう
その傍らの土手の上では、仕留めた相手をすぐに〆ては、解体までしていっている。
解体屋、というか肉屋も常駐しており、その肉を焼いて販売しているところすらある。
それに伴って、温かいスープを売ってるところがあったりと、いうなれば、ちょっとしたお祭り屋台が出来ている状態である。
で、ここに来た理由の一つとしては……
「……お、良さげなガマの油あるじゃねーか、これいくらだ?」
「おっちゃんか、新鮮な状態で封をしたからな、一瓶2400でどうだ?」
「……いつも贔屓にして買ってるだろ、1500」
「ここに出っ張ってる屋台と作業賃もあるんだよ、2200」
「……なら、4つほどみてやっから、ひとつ1600」
「それなら、2000」
「……1750、それで8つ」
「よし、売った!」
とまぁ、出張素材屋から、安価で素材が手に入りやすいのである。
軟膏の素材として、十二分に役に立つ品で、今ではこういう時でないと手に入れるのが難しい代物である。
まぁ、鮮度の良い状態で特殊な封をしてるとなると、ちょっとお高めでもあるが、まぁ、そこは業者の取り合いになるのに参入するよりかはマシだろう。
空いた背負子に荷物を詰めては、他に何かないかと肉串をつまみながら散策しては、ゆっくりと時間を過ごした。
そうして、軽く腹も膨らせつつ、ちょっとした素材も手に入れ、街道から外れては土手沿いに野草を探しながら帰路についていたら、遠くから悲鳴とも怒声とも聞こえる声が耳に入ってきた。
何事か?と、音が聞こえ来たほうを"覗き筒"で見てみると
「……ありゃぁ、王級がおったか」
カエルの親玉というか、さらにでっかいカエルという代物。
いままでのが、アオガエルみたいなのだったが、でてきたのはウシガエルとでもいうか、重低音の泣き声がするやつで、見えている範囲でも、その舌で組合員をひとのみしては、上半身を覗かせている状態であった。
「……あわただしくなってきたな」
あれぐらいだと、たしかに厄介きわまりないが、不意を突かれたか何かしないと丸のみにはならんだろうが……
対応しようとしている狩人組をみてみれば、中堅クラスになったかどうかの若い四人衆だった。
……上級たちは、下流側の方にでっぱってたか?
仕方ないかと、背負子の隅に入れ込んでいた自作の
そうして、一緒に持って来ている矢の中から、特殊な弾頭矢を取り出す。
目標となる相手は、かなりの長距離となるが、獲物を口にしている王級は、まず動かないので狙いやすい。
……距離が距離だ、所作を極めねぇとマズそうか、
そうして、力いっぱい
呼吸を止め、矢の曲がりを考慮し
…
……
………
ゆっくりとだが確実に、目標と己の世界だけとなる感覚に囚われる。
己と目標以外には何もいない、何も感じない、何も存在しない世界になった時、
限界に近い張力でひっぱられていた弦は滑車にかかっていた分も加味し、その解放された特殊な弾頭矢は予想以上の勢いで飛び出していった。
世界が戻った時、それは風切り音と共に目標へと飛んで行き、落雷音と爆発音が混ざり合った。
ただ、それよりも
「……いてて」
髭が予想外な絡まり方をした。
……滑車の軸中に入るとか、どういう方向で絡まったのやら、何かしまらないままに所作がおわった感じが否めねえ
とりあえず絡まったのは放置して、外した"覗き筒"で放った先を確認すれば、王級の脳天をふっとばして、あたり一面をグロテスクな様相を作っていた。
……威力やべえな。お試しで作った小型榴弾がここまでとは
狩人組は何事が起きたのかと思っていたが、捕食されかけていた組合員を早々に救助していたのを確認取れた。
……まぁ、何が起きたか分らんとは思うが、こんな危なっかしいもんはバレなきゃいいだろ、バレなきゃ
バレたくもないので、さっさと
絡まった髭は泣く泣く切り落としたが……
その後、落雷によって助かったというその組合員は「召雷」とか「食われ稲妻」という、かっこいいのか、かっこわるいのか、よくわからん異名がついたらしいが、ワシの知ったことではない。
そう、ワシは知らないのである。
「どうしたんだドワーフのおっさん、その髭」
「……ほっとけ、ジメジメしてたから、いめちぇんてやつだよ」
「わかります。こう雨が続くと、気分を変えたくなるものです」
「似合ってねぇ、くっそ面白、いっそのこと全部剃っちまえ」
「……うっせぇわ」
そして、
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