第13話

 春から夏になる前、この街ではある特定の行事が行われる。


 行事というか何というか、ほぼ祭りに近い。

 いうなれば、祈願祭という奴であり、農耕がその年うまくいきますようにという願掛けの類である。


 この地においては、大河沿いのためにか、川が氾濫したりして災害による収穫が目減りなど、そういった天災問題がおきていた過去がある。


 今じゃぁ治水事業もしっかり執り行われており、そういったことが起こる事も少ない。

 少なくなったが、定期的に氾濫したおかげで肥沃な土地にもなっていたわけで……

 不作となった時期も出たりしたという。


 そこから河川氾濫の代わりに、入れ知恵か何かで肥料というものが作られては大成功し、農耕能力に拍車がかかってしまったという歴史もある。


 まぁ、そういったことで、大昔の天災やら人災による不作ではなく、豊作を祈願するという事での祭りが始まりなのだが……



「……くせぇ」



 いつしか、祈願する際に奉納されるのが肥料となった。

 肥料の原材料は、そのアレだ。人や家畜から作られるという奴だ。


 肥料屋も、この時ばかりと自分の作った肥料を猛烈にアピールする。


 やれ、高貴なところから手に入れたやら、やれ富裕層のやらと、どこのものかとは言及はしないが、そういったところから手に入れた物でコサエた代物をアピールしては、農業従事者に販売しようとしてる、一大肥料祭りが街の城壁の外で執り行われている。


 いるのだが、たまに風に乗ってくる臭いというものは、いかんともしがたく……


 そのため、この祭り時は外での人影が極端に少なくなる、一般的な祭りと違って逆転現象が発生しているという。


 しかも、前年度の結果による、肥料コンクールまで行われるという始末である。



「ほんと、この時期になると客が少なくなって嫌になる」

「……だが、あのお陰でお前さんの店が成り立ってるんだ、不満を言えはせんだろ?」

「そこなんだよな……で、おっちゃんが教えてくれて作った新作の総菜パンだ」



 店は開けてないと食ってけない商店としては、この時期の客の目減りは痛いとの事で、そのため、何かしら印象的な美味い物は何かないかと相談をうけては、こういう総菜パンというのを過去に提案してみた。


 今年も、何か無いかと相談を受けてはみたものの、いっそのこと何か別の料理をはさんでみたらどうだという事で、炒めた麺と野菜を濃いソースで挟み込んだ代物である。


 いうなれば、クリームパスタパン。


 炭水化物に炭水化物、さらに炭水化物のソースという、最悪の組み合わせともいえるが、クリームソースとパンは定番であり、さらにそれがパンにある程度に味がしみ込んでいるというのが、これまた悪くない。



「……お、言った手前もあったが、意外といけるじゃねぇか」

「だろ?ホワイトソースを少し変えてみたんだ」

「……そういや、ワシが教えた生クリーム使う方法、悪かねぇだろ?」

「あれすげぇな、ああいうのがあるとは知らなかった」



 玉軸受けが出来た時、試作で作って品評会へと送り出された生クリームが、酪農家と水車屋が作る製品となった。


 というか、あのモノクル代官野郎が、事業として乗り出してきては、冬場暇だったドワーフ工房の親方たちを巻き込んで一大事業にしやがった。


 今では、庶民でも手の届く範囲で手に入る代物にまで大量生産できる形にもなっている。


 そうして、料理というか菓子の種類が増えて、アイツがまぁた偉くなったりしたのは気に入らんが……不労所得が増えたのでそれ以上は言うまい。



 とりあえず、いただいた総菜パンに関しての味は良かった、味は。

 ただ、問題が発覚する。



「……ソースが垂れるのがいただけねぇか」

「そこを、どうするか何だよなぁ……」

「……固めちまうなりはどうなんだ?」

「そうすると、こんどは小麦臭さが出てきたんだよ」

「……なんだ、もう試しやってたのか」



 総菜として手渡されるものの、受け取ったときはよかったが、食べ始めたら堤防が決壊するかのごとく、ソースがしたたり落ちていた。



「……こぼさずに食うのは、こりゃぁ至難だぞ?」

「そこなんだよなぁ」



 ほかに何かないかと思って試案する。

 紙で包装する?コストがかかる。

 なら、使い捨ての器にする?それも結局金がかかる。


 こういうので、金を掛けずに、こぼさないようにする……うーむ



「……いっそのこと、クリームソースを全部包み込ませるか?」

「お、なるほど、包んでおいたらこぼれない訳か……それいいな、やってみるか」



 そうして、クリームソースを揚げ衣に包み、パンで挟んだ代物が完成する。





 これはあれだな。

 炭水化物の塊とでもいう代物が出来上がっちまったのは、想像に難くないだろう。


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