第12話

 今日も今日とて、酒場で管を巻く。

 納品やること終わらせて手持無沙汰になっていれば、おのずとそういう形になる。


 何することもなく、ボケーっと酒を飲みながら組合ギルドの受付が賑わっているのを、ただただ眺めている。


 組合ギルドの受付が賑わっている理由というのが、だいたい予想はつく。

 春の陽気になってくると、ここぞとばかりに組合ギルドに新人が現れる。


 みすぼらしい恰好のガキみたいなのから、それなりに整っている格好の奴で、他だと一応は心得をもっていそうな装備をしてる奴と、種々様々な出で立ちの者がごった返している。


 この街では食い扶持減らしというのは、まず起きないというか、あちらこちらで人手が足りないぐらい働き口が多い。


 基本は農業であるが、林業に酪農、それらを原料とした生産工業、それらを流通させるための運送業、つまりは、それら業界に付随するかのように芋づる式ってので働き口がありすぎるのである。



 まぁ、狩人組みたいな、害獣ともいえる魔物やらを討伐する組みもいる。



 それなりの装備を持っている奴は狩人組だろうとわかるし、それなりに整っている物は、商業系の働き口を探しというところで、みすぼらしいガキは……



 近隣の農村からの食い扶持減らしといったところだな。



 あくまでも、この街の近郊は農耕がうまくいっていたが、そこから離れてしまえば、まぁ、土地としては枯れた土地という所が多い。

 この街が奇跡というか、運なども絡み合って存在しているともいえる。


 そんな辺境の村々か村落か、そこでは食い扶持減らしを兼ねての働きに出てくるというのは、毎年の事ながらの慣例といったところか。


 夏になると移動も大変になるし、かといって秋口では越冬するための資金稼ぎが足りなくもなる。


 そのため、だいたい春ごろになると、働き口が確保できるこの街にやってくるのは自然の理というわけである。




「ツヴォルグさん、ちょっといいですか?」


 そういう観察をしていたら、受付の嬢ちゃんが窓口から離れてわざわざこちらの席にまでやってきた。


「……あん?なんだ?」

「すいません、重々承知な話なんですが、今回も・・・手伝っていただけることは可能でしょうか?色は付けさせてもらいますので」



 話を聞けば、"みすぼらしいガキどもの面倒をみてくれないか?"と。

 技術もなければ経験もない、身に纏った衣類となけなしの旅銀でやってきたこいつらを、と。


 この街で働くにしろ何にしろ、現実や常識みたいなもんが欠落してるので、そいつらを叩き込んでくれという事でもある。


 まぁ、暇を持て余してるのは確かでもあるし……



「こんな薄汚いドワーフのおっさんが、何ができるってんだよ」

「……ほぅ?」



 言った矢先に、足を引っかけて盛大にすっころばせておく



「いってぇ、なにしやがる!!」

「……少なくとも、喧嘩はできるぞ?」

「はい、そこまでです。貴方も、教えを乞う相手には、敬意を払うようにしてください。この街で生き残りたい・・・・・・のなら、ね?」

「……なんだそりゃ、大げさだな」

「大げさでもないですが」

「……まぁいいさ、生意気な口を吐く奴だ、しっかりと教育をしてやるわ」

「ほどほどにしておいてくださいね?」



 そんなことは知らん。






 そうしてガキども数人を預かり、とりあえず何をしたいのかを聞いてみたら、そのほとんどが狩人になりたいと抜かした。


 まぁ、ああいう肉体労働の花形というか英雄的な話もあるし、デカブツを狩れたなら給金も悪いくない。


 むしろ一発がデカすぎる部類もあるから、そういうのにあこがれを持っていたりするのはわからんでもないが……そういうのが、まだまだガキなんだよなと。


 現実を見えていないガキどもの実力をはかるため、組合ギルドの練兵場にて対面しているのだが、最初は誰だ?と聞いたら、さっきの突っかかってきたガキは威勢よく乗り出してきた。



「……ほら、かかってこい」

「さっきはよくもやりやがったな!!おるぁぁ」

「……隙だらけだ。お前、死にたいのか?」



 さっき突っかかってきたガキは、直情的かつ正直すぎる軌道で木剣を振ってきた。

 ただ、こんな剣筋では魔獣とか人が相手では、まったく役に立たない。


 ここらへんの剣術は、キチンと教えを受けているか、我流でも経験を多大につまないといけない部類。

 このガキは、そこが大きく欠落している。


 そんな木剣を、杖でいなしては胸元を軽く押し当てる。



「ぐっぉ」

「……そうやって止まってると死ぬぞ?」」



 そして、わざと木剣をはじき落とす。



「……悶えてる時点で次のが来ると思え」

「くそっ」

「……威勢だけはいいが、現実なんてこんなもんだ。地力がなきゃ何もできん」



 強く弾き飛ばしたのか、利き腕をさすっているが……大丈夫だよな?


 あと、他の奴らも、唖然としている様子だが、危機感がないというか、何というか……



 ならばと"ヤ"る感じでガキどもを威圧してみると、全員が全員、その場にへたり込みやがった。


「……こりゃ駄目だわ」


 というか、組合ギルドの方からも何事かと数人が飛び出してきたので、"ちょいとお灸をすえてみた"と謝っておいた。



「……という事で、この程度でへたり込んで駄目になるなら狩人は無理だな、簡単に死んじまう」

「けど、オレはそうでもしないと……」

「……この街にゃぁ狩人にならなくても食ってける仕事がゴロゴロある。まずはそっちからやってみればいい。それでも狩人が諦められないなら、ある程度、稼いで身なり整えてからでも遅くねぇよ」



 そういって、手を差し出しては立たせてやる。

 まぁ、表情からするに微妙に納得はしてなさそうではあるが、理解はしめしている感じである。

 多少は、ここがどういう世界かってのが少しでもわかってくれればいいが……



「悪かった。あんたみたいな凄腕の組合ギルド員が言うなら、そうなんだろうな」

「……ん?ワシは組合ギルド員じゃねぇぞ?なんつーか、職人って奴だな」

「へっ?」「えっ?」「職人って、あんななの?」



 というところで、やってきた受付嬢とバトンタッチである。


 ま、やる事といえば、ガキどもの狩人に対する夢を壊して現実みせる役割ってやつである。

 毎度毎度、なんでワシがやるんだか。



「そうそうツヴォルグさんは、この街では色々な・・・実力者ですよ?特級クラスの」

「「「「えっ?」」」」

「……なんだそれ、ワシ聞いたことないぞ?」

「なのでツヴォルグさんも、そろそろ組合ギルド員になっていただけないでしょうか?」

「……断る」

「今なら、好待遇で迎え入れる準備が」

「……話、聞けや」




 執拗なスカウトが行われたこと以外は、まぁ、いつも通りの春先の、いつも通りの行事である。


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