九分咲き ―春休み9日目―

「わーい!遊園地だー!」地元にある遊園地、千葉にある某ネズミリゾートには及ばないが自然も多くて広いし、レトロで一日中楽しめるのだ。それに私にとっては数年ぶりの遊園地楽しみすぎる。しかも、隣には陽向がいる。

「子供かよ。」「そんなこと言って、ひなたも楽しみなんでしょ?」って言って、陽向の手を引いて中に入っていく。

「まずは、カチューシャでしょ!」私はお店に入るやいなや、カチューシャコーナーに一直線。陽向に似合いそうなねこ耳のカチューシャを手に取る。そんな可愛いの自分に似合わない、って言ってだけど、付けてあげるって言ったら大人しくなった。私が付けやすいように陽向がかがんでくれた。陽向の頭にねこ耳のカチューシャを付ける。に、似合う…。かわいい~!そしてこっちを向いて「にゃん」って。自分の魅力を分かっていらっしゃる、あざとかわいい。私は色違いのカチューシャを購入した。私の手からカチューシャを取り、付けてくれる。似合ってるって!嬉しすぎる!そのままお買いあげだ。

「ねぇねぇ、お化け屋敷入ろうよ!」って私が誘ったら、なんか乗り気じゃなさそうだ。

あ、「もしかして、怖いの~?」目をそらした。図星だな。「別に」って強がってるけどバレバレだ。私がニヤニヤしていたら「そっちこそ、怖くなったら腕につかまってもいいけど」とかなんとか呟く陽向に連れて行かれた。入ってそうそう叫び声がお化け屋敷響く。私の声じゃないよ。私の横の人の声だ。「まだ何も出てきてないけど」って言っていたら、最初の仕掛けが作動した。壁からから何人もの手がわーっと出てくる。こんなことで怖がるとでも?なんて思っていたら、「無理かも」隣にいる陽向が腕を組んで身を寄せてきた。そういうのは可愛い女の子がやってこそ成立するのだ。足がすくんで動けないといったような陽向を引きずりながら早々と出口に向かった。そうでもしていなければ陽向は気を失っていただろう。「た、楽しかったけど」とかなんとか横で呟いているがお化け屋敷での様子は一生忘れないだろう。サンア推しのクラスメイトに言ってやろうか、ほんとは大の怖がりですって!

気分を変えようとしたのか「次は何乗る??」と聞いてきた。えー、なにがいいかな?「メリーゴーランドと、ジェットコースター。でもやっぱり一番はゴーカートでしょ!」なぜゴーカートが一番かと言うとHI:LIGHTのJAPAN 1st single『dazzling』のミュージックビデオでメンバーが車を運転しているシーンがあるからだ。ショッピングデートの時に買ったCDでまんまと『dazzling』にハマってしまった。ミュージックビデオも何回も見たので覚えている。助手席目線のシーンもあるのだ。まあサンアは免許を持っていないからCG合成だとDISC2のDVDに収録されていたミュージックビデオのメイキング映像で言っていたけど。あのシーンが隣で再現されると思うとサンアのファン(新規)としてワクワクが止まらない。順番が来てゴーカートに乗り込む、もちろん私は助手席に。カメラを構えたいところだが、撮影禁止の約束なので仕方ない。陽向がアクセルを踏むとゴーカートが走り出した。ここの遊園地のゴーカートは全長1.4キロメートルと長く地形を活かしたコースが楽しいと人気なのだ。陽向は意外なことに運転が上手い。急な坂道のコースも颯爽と通り抜ける。急斜面につい目を瞑ってしまった。目を開けると、風にゆれた陽向の桜色の綺麗な髪が視界に入る。ふと横に目を向ける。しっかりとハンドルを握り、真剣な眼差しで前を見つめる陽向の横顔。かっこいい。ミュージックビデオの何倍も。

ゴーカートから降りて、ベンチに座る。陽向がポップコーンを買ってきて渡してくれた。無意識に手が動きポップコーンを口に運んでいるが私は上の空だ。さっきの横顔が頭から離れない。無心に手を動かしていると、その手をぱっとつかまれた。「僕にもちょうだい!」陽向はそう言って私のポップコーンを持つ手を自分の口元へ持って行く。「うん、おいしい。独り占めしないでよ。」さ、さっきのは何??私は咄嗟に手を引っ込めた。不本意にもドキドキしたじゃないか。「自分で食べれるでしょ!」そう言ってポップコーンの箱を陽向に押しつけた。心の声漏れてないよね…。

そのあとは考える間を自分に与えないように、いろんなアトラクションに乗りまくった。でも、メリーゴーランドから降りるとき手を差し伸べてくれたし。ジェットコースターに乗ってはしゃぐ姿も、頭から離れなかった。

日が沈みはじめるだろうという時間。陽向が最後に乗りたいものがあるらしい。でも、ほとんど全部乗った気がするんだけど?「これ、乗ろ。」そう言って連れてこられたのは観覧車!?言われるがままに連れて行かれる。楽しそうな陽向とは反対に私の周りにはどんよりのオーラが。何でかって?私、実は、高所恐怖症なのだ。観覧車なんてもっての外。ドラマでよくあるような出来事は一生経験できないだろう。でも陽向楽しそうだし、言えないよね。目瞑ってたら大丈夫なはず!そう信じて観覧車に乗り込む。陽向は横に座ろうとしてきたけど、傾くから、無理やり正面に座らせた。前で「隣がいいんだけど」とぼやいている。観覧車がどんどん上昇する。最初はよかった、四分の一ほど来たところでもう限界だ。目も瞑っていたら陽向が「大丈夫?もしかして高いところ苦手だった?」と聞いてきた。「そっち行くから、待ってて」と立ち上がろうとする。「ゆれるから、動かないで…。」瞬発的に言ってしまった。陽向が心配しているのを感じる。申し訳ない。そのまま頂上まで来たところで陽向が言った。「夕焼け、綺麗。」高いところは怖いけど、一目見てみたくなった。うっすらと目を開けると見えたのは、海に沈んでいく夕日とそれに迫る深い青の空。ブルーアワーだ。「綺麗。」見とれてしまった。怖くなかったのは綺麗な景色のおかげだけでなく、ぎゅっとにぎられた手の温かさのせいでもあるだろう。はじめて観覧車が楽しめた。

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