八分咲き ―春休み8日目―
今日は朝から塾に拘束される模試の日だった。前までの自分なら嫌としか思わなかっただろう。でも、志望校の枠がが希望で埋められる今、少しだけ嫌じゃなくなった気がする。でも、陽向に会えないのは少し寂しい。昨日このこと改めて言ったら、私なんかよりもすごく残念そうにしていた。終わったら絶対テレビ電話しようと約束したら、なんとか納得してくれたけど。そういえば、前日はいつもと違って勉強しないでゆっくり寝たからか、なんか体も脳も調子がいい。スラスラ解ける。こんなの久しぶりじゃない?まあ、まだ二教科目だけど、頑張れそう。
― 桜花に会いたい。いつからだっただろうか、明日が待ち遠しくなったのは。彼女が自分の中で特別になったのは。一緒に夜空を見上げたときか、プリクラで手を繋いだ時にはもう、いや違う会ったときから惹かれていたのだろう。「契約恋愛」なんて理由をこじつけて彼女に近づいたけど、完全にしてやられた。音楽以外のことでこんなに頭を使ったのは久しぶりだ。
それに桜花は僕に気づかせてくれたのだ。初めて会ったときは、泣いてた桜花を見て、いつもみたいに幸せをおすそ分けしてあげたいって思った。でも、音楽を愛して将来を真剣に悩んでいる彼女は僕よりも強かった。そんな彼女を見ていたから再び気づけたのだ。僕がアイドルをする理由。ずっとキラキラ輝く太陽でいるのは大変だ、月みたいにみんなを優しく照らす存在にもなってみたいって思ってたこと。でも世間が求めるのは太陽になっている僕で、月になった僕には誰も見向きはしなかったと、決めつけていたこと。けど桜花は僕が放った月のような優しい光も太陽のような輝きもどっちも好きだと言ってくれた。偉そうに自分で言っておいて忘れていた、自分の幸せとは何か思い出せた。
桜花の言った「月の光でも虹は架けられる」という言葉の意図、心の中を整理した今なら分かる。月虹を借りて今の僕の思いを歌にしよう。ウサギのぬいぐるみを抱きながら、鉛筆を動かしはじめる。
歌が形になった頃にはもう夜だった。携帯を確認するがまだ電話は来ていなかった。
やっと、電話だ。―
ワンコールで出たからびっくりした。もしや電話の前で待ち構えてたのか。「もしもし」って言ったらおおきい声で遅いと言われた。帰って、ご飯を食べてからすぐに電話をかけたのに。まあ、でも帰り道気分が上がって、自販機で買ったご褒美のココアを飲みながら、鼻歌を歌って帰ってたからな。にしても、昨日のウサギのぬいぐるみを抱きながらずっと電話の前で待っていたなんて、かわいいすぎる。そんな陽向はぬいぐるみをさらにぎゅっとして、小さな声で「보고싶었어(ポゴシポッソ)」と呟いた。なんで韓国語?もしや、直接言うのが恥ずかしいのか。でも残念、私韓国語少し分かるから(韓国ドラマの見すぎ)。私も「나도 보고 싶었어(ナド ポゴシポッソ)」って答えたら、驚いた顔をしていた。ちなみにポゴシッポソっていうのは会いたかったっていう意味。素直にそう言えばいいのに。でもドラマっぽくていいかも。月を見ていたら早く会いたくなったって話をしたら顔を赤くしていた。初めて見た表情だった。仲良くなれた証拠かもしれない。
そのあとは今日の模試の話とか、明日の遊園地楽しみだねとか、そんな話を小一時間していた。明日も会うわけだし、もうすぐ寝たいから切ろうって言ったのに、全然切ってくれなかった。最終的に私がブチッと強引に切ったけど、まだ何か言いたそうな顔をしていた。それが、お風呂に入っている時も、気になってしまった。寝る前にもう一度スマホを開けたら、言い忘れてた、おやすみ、とメッセージがきていた。なんだ、そういうことか。なぜか陽向の行動一つ一つが気になる。何でだろう。それが何にしろ陽向と過ごせるのは残り2日だから、目一杯楽しまないと。
陽向にスタンプを送り。寝室に向かった。
おやすみ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます