七分咲き ―春休み7日目―

昨日の夜、陽向に言われたことを思い出して、勉強もせずいろいろな大学のホームページを見まくっていた。前までは私の方向性と違うと見向きもしていなかった大学に、キラキラとした魅力を感じた。昨日は久々にぐっすり眠れた。

さあ、今日は桜祭りだ。近くの河川敷で行われる。桜はまだ満開じゃないけど、屋台がいっぱい出ていて、毎年とても賑やかだ。去年は行けなかったけど今年は楽しめる気がする。それに、高校生になって新しく買ったのに一度も着られていなかった浴衣の出番だ。ここの桜祭りは浴衣で来る人も大勢いて、駅から降りてくる人々の半分は浴衣を着ている。陽向も浴衣を着てくるらしいけど、普段韓国アイドルをしている人のの浴衣姿なんて簡単には想像できない。

そんなことを考えていたら、後ろから肩をたたかれた。振り向くと、陽向の人差し指がぷに、って私のほっぺたに当たった。なんかこのやりとり、ドラマで見たな。「待った?」「ん、今来たとこ」って横を見たら、かっこよすぎて、陽向に後光が差しているではないか。いや、逆光なだけだ。でも、太陽光まで味方につけるかっこよさだった。歩く偶像アイドル。って、こんなにオーラ出てたら見つかるんじゃ。「ひなた、そんなに顔出してたらファンに見つからない?」って聞くけど「人多いし、大丈夫でしょ」としか言わない。そんなこんなで人の多い屋台ゾーンに突入したとき、HI:LIGHTのうちわを浴衣の帯に差した中学生二人組を見つけた。「やばいよ、ひなた。ファンいるよ。」って言ったら、「よそ見してたら、はぐれるよ。」って手をつながれた。週刊誌に撮られたらおしまいだー。あ、中学生こっちみた。まさか、気づかれたか。何か言ってる、あの人かっこいいね~、ってよかった気づかれてない。ドキドキした。肝心の陽向は気づいてないようだ。ドキドキしただけ損かよ。にしても、IN:LIGHTって身近にけっこういるのかも。IN:LIGHTっていうのはHI:LIGHTのファンのことで、HI:LIGHTがファンの日常を明るく照らすよ、っていう意味らしい。人気者だ、サンアは。

で、私たちはどこへ向かっているのかって?私も分からない。ただ今、陽向に連れられている真っ最中だ。そのとき急に陽向が止まったので、私は陽向の背中に激突した。痛いな、もう。「どうしたの?」って聞くと、「いちご飴。有名ないちご飴の店が来てるって知って、売り切れる前に買ってあげたくて。いちご好きって言ってたから。」って。あの時ぼそっと呟いたくらいだったのに、覚えてくれてたんだ。うれしい。「けっこう歩かせちゃったよね、ここ座ってて。」ってベンチに座らしてくれた。気遣いまでできるのがすごいところ。同じ人類として尊敬する。

買ってくれたいちご飴を食べながら陽向にお礼を言う。「ありがとう。あと、いちご好きって言ったの覚えてくれてたのうれしかった。」「喜んでくれたならよかった。」って自分用に買っていたチョコのかかった超甘そうないちご飴を頬張っている。やっぱり甘党なのかな?

お祭りの定番屋台ゲームと言ったら、やっぱり射的でしょ。陽向に言ったら金魚すくいでしょ、って返されたけど、射的の屋台に連れてきた。「あのウサギのぬいぐるみ、おうかに似てる!」っていわれたのでどっちがそれをとれるか対決することにした。陽向はなぜか渋ってたけど。最初の陽向のターンでその理由が分かった。射的が壊滅的に下手だ。「こういう系のゲームは昔から苦手だから。」って、陽向は意外なことが苦手だ。打って変わって私はどうでもいいようなことが得意だったりする。陽向が全球使ってもとれなかったぬいぐるみをいともたやすくとってしまった。残った球は隣のちびっ子にプレゼントした。ぬいぐるみは陽向に渡す。「はい、ぬいぐるみ。私だと思って大切にしてね。」って言ったらウサギのぬいぐるみをぎゅっと抱く陽向。この構図案外かわいいね。

その後も食べ歩き、遊び歩いた。午後6時くらいになると日が沈み出して、桜のライトアップがはじまる。今日はお祭りだから帰る時間は少し遅くなると家には伝えてあるから、ゆっくりとライトアップを楽しめる。けっこう暗くなってきて、ライトアップされた桜が際立つ。「きれいだよね!」って少しテンションも上がる。再び屋台からは少し離れたベンチに座って、桜を見上げる。私の肩に陽向がもたれかかってきた。「少しだけ、こうしてていい?」陽向の桜色の髪が近づく。陽向の匂いだ。香水だろうか。陽向は「桜も綺麗だけど、今日の月、いつもより綺麗」って、月に手を伸ばしている。「月…。」そういえば、HI:LIGHTのグループロゴも漢字の月をイメージしてるっていってたし、月好きなのかな?「月は世界中誰でも自由に見れるものの中で一番綺麗なものだと思ってる。」そうかも。「練習で疲れるとよく月を見て、ファンと繋がってるって感じて頑張ってた。最近は月を見る時間もろくに無かったな。」って寂しそうに言う。「私も月好きだよ。太陽ばっかり注目されるけど、眩しく照らしてくれる太陽も、優しく照らしてくれる月もどっちも好き。例えば、『MOON』は月みたいに優しく背中を押してくれる感じ、『dazzling』はキラキラしてて勇気をくれる曲みたいな?」私はそういえばと思い出して続ける。「いいこと教えてあげる!太陽光だけじゃなくてね、月の光でも虹って架けられるんだって!奇跡みたいな確率らしいけど…。」

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