五分咲目 ―春休み5日目―

よし、このワンピースにこの靴をあわせたら完璧。そしてメイクも。やっと使えるこの新しいバッグ。友達と遊びに行くときに使おうと思って、奮発してかったのに、誰も遊んでくれなかったから。ちょうどいい。ちょっと気合い入れすぎたかな?でも世界的アイドルの横に並ぶにはちょうどいい、というか足りないくらいだと思うことにしておこう。午前9時、今日はいつもの丘じゃなくて、駅に集合だ。いつもと違う背景で、いつもと違う時間の陽向はどんな感じだろうか。って遅刻する!結局、自転車で爆走するはめになった。髪の毛頑張ってセットしたのに…。

よかった間に合った。えっと、陽向は。 「おはよ、おうか」後ろから声をかけられた。あ、ちゃんと呼び捨てだ。振り向いたら陽向は、私を見て一瞬はっとした表情をした。え、私そんなにひどい顔?いやまぁ、自転車爆走強風オールバックだけれども。「かわいい」小さい声で言ったのを私は聞き逃さなかった。「ん?なんて?」お願いもう一回言って!「いや、頭ボサボサじゃんって言っただけ。」陽向は私の髪をわしゃわしゃってした。「せっかくセットしたのに。」もう。でも今日の陽向いつもと雰囲気違ってカッコイイ。黒のセットアップも似合っている。


それから、たわいもない会話をして、電車に揺られること30分。着いたのは校外にある大型ショッピングモール施設。私が行きたいとこはもう決まってる。CDショップだ。迷わずCDショップへ向かう。「見てあれ、HI:LIGHTのCD!」特設コーナーが作られていて、音楽が聴けるようにヘッドホンが置いてあった。たしか大ヒットしてた、JAPAN 1st single『dazzling』だ。「この曲私聞いたことないかも。」って言ったら、陽向が「この曲、僕がはじめて作った曲なのに?めっちゃいいから聞いてみて」ってヘッドホンを持って後ろから私の頭につけてくれた。このシチュエーション、ドキドキ。「どう?」って聞かれて、振り向いたら陽向が私を囲うように机に手を置いていたから腕にすっぽりと収まる形になってしまった。前から思ってたけど、距離感バグってない?アイドルってみんなこうなの?当の本人は全く気にしてないらしく、私からの感想を待っている。「こ、この曲好きかも。CD買おうかな~。」って言ったらやっと離れてくれた。もうちょっと離れようと隣の棚へ行く。「あ、これほしかったCDだ!こっちにしようかな。」って好きな他のアイドルのCDを手に取って見てたら、陽向に取り上げられた。

「僕の買うんじゃなかったっけ?浮気?ふーん。」って、HI:LIGHTのCD買うまで睨まれ続けた。情けないな、嫉妬って…。でも一回口ぷくってしてたの不本意にも可愛かったけど。

それからいろんな店を見歩いてたら、お腹がすいてきた。よく見たらもう12時だ。「お腹すいたね」って言ったら、クレープが食べたいってリクエストされたのでフードコートへ。買ってきてあげるよって言われたから、待ってたら、クリームもりもりでとてつもなく甘そうなのを二つ持ってきた。服装とのアンバランス感…。「あ、ありがとう」崩れないようにどうにか受け取る。目の前には美味しそうにもりもりクレープを食べる陽向。私もクレープに口をつける。あ、いちごが入ってる。「私、いちご好きなんだよね。」なんていいながらもう一口、美味しい、すごく甘いけど。何を血迷ったか、私はクリームをわざと鼻につくように食べた。陽向が取ってくれるんじゃ、って思っちゃって。陽向は笑って隣の席に来てクリームを拭き取ってくれた。こうなるって分かってつけたのに、こっちの顔が赤くなる。甘すぎる、クレープをなんとか食べ終わった。

次はプリクラだ!ってお前はJKかって。というか、写真は撮ったらだめなのにプリクラはいいんだ。つられるがままにプリクラに入る。ポーズも陽向がリードする。それ、ちょっと古いから。もしかして夜な夜な考えたとか?まさかね?最後の一枚の時、陽向が手を私に向かって差し出した。「ん?」って不思議がる私の手に陽向が自分の手をからめて、カメラによくうつるように顔の横へ持っていく。これって、もしかして恋人つなぎ!手をつながれたまま落書きブースに連れられる。落書きに集中できない…。さすがにそのあとすぐはなしてもらったけど。


帰り際に、駅で待ちながら飲もうと、コーヒーショップでホットラテを買うことにした。クレープは陽向が選んで買ってくれたので、ドリンクは私がオススメを買っていってあげる。お会計を済まして陽向のもとへ向かう。「キャラメルかチョコ、どっちがいい?」ものすごく悩んでる。チョコ美味しいしオススメ、って私が言ったら、最終的に私がキャラメルを、陽向がチョコを飲むことになった。ホットラテのカップを手に、駅へ向かう。こんな瞬間も、楽しいなんて。久しぶりだ。


帰りの電車で、私は疲れて寝てしまった。一駅前で起きたのだが、起きたのはスマホのカメラのシャッター音が聞こえた気がしたから。私に気づいて陽向がなぜか焦ってスマホを隠している。撮ったのこいつだな。「写真、撮らないって約束じゃなかったっけ?」っていいながら電車を降りて、駅から出たところで私は陽向が撮った写真を消すため、スマホを奪おうと手を伸ばす。私より遙かに身長の高い陽向はそれをさらりとかわして、高いところにスマホを掲げ、「とれるなら、とりな!」って、私をからかう。これにのったら、なんか負ける泣きがして、今回は諦めてやった。「そういえば、明日は図書館デートだよね?」「うん」って会話しながら帰り道をたどる。

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