第33話 低重力バレー


「低重力バレーって久しぶりっ」


 アンダはふわりと飛び上がるとコートに立つ細いポールを掴むと高所から鋭角にアタックを打った。けっこうなスピードだが、それを難なく受けた順平はうまく勢いを殺して的射にトスを上げる。的射はアタックを打つふりをして、順平にさらに高いボールを返す。的射の頭より高く飛び上がった順平の手が見えないほど早く一閃して、弾丸となったボールがパースケを襲った。


「ふぎゃああああ」


 ボールとともに背後の壁に激突するパースケ。


「順平、2回目ですよ。なんか僕に恨みでもあるんですかっ」

「職場巡視の時に要らないことを言ってくれたお返しだ」


 順平がマスクの下で鼻をうごめかす。

 二人の会話に的射が大きな笑い声を上げた。


「せんせー、運動神経がいいですね、そしてさすがの頭脳プレー」

「こんなに自由に身体を動かすのは本当に久しぶり。低重力バレーってほんとに面白いわね。みんなとやると、とっても楽しいわ」


 息を弾ませて的射は弾けるような笑みを浮かべる。


「良かった。ゲームセンターにしようか、バレー用ドームにしようか迷ったんですが。以前お知り合いに低重力バレーを勧められたって聞いていたから」


 順平はチラリと向かい側のコートのパースケを見る。


「それにゲームセンターだと、一人勝ちしそうなのが居るし」


 順平の視線を知ってか知らずか、パースケが手を振って叫ぶ。


「もう1本アタックしてみてください。次こそは、受けてやりますからね。順平」

「スポ根アニメの見過ぎだよ、パースケ君。実力差は非情なのだ。これが最後のお返しにしてやる」


 的射がトスを上げて、パースケを鋭いアタックが襲う。


「ぷぎゃあああ」といいながらパースケはコートの外に転がっていく。「無理でした~、私が悪うございました、順平様っ」

「手加減していると言っても、セミプロ級の球に反応できるって、なんだかんだ言ってあいつも相当運動神経がいいよな」


 首をひねりながら太一がつぶやいた。


「変わったSEだぜ」横に座った零介が頭をひねる。「お前も大概ヘンな奴だと思ったけどな、太一。入った時から尖っていたお前に飲みに連れてってくれと言われたときはびっくりしたよ」

「零介ってなんだか声がかけやすくって。お前のおかげで、俺変わってきてる気がする」

「俺の懐は中身はないが、深さだけは自慢だからな。俺だってお前がいつも付き合ってくれるから、アフターファイブの遊びが充実してるんだ。お前は真面目で、我慢強くて凄い奴だよ。半蔵さんが入院しても、お前が居たら穴埋めできるだろう。でもいいか、無理して絶対に身体壊すなよ」

「大丈夫だ、俺は強いから」

「これからもよろしくな、相棒」


 二人はがっちりと握手をした。

 コートではまだ順平とパースケ、ロドリゲスが輪になって今度はボールを上に打ち合って落としたほうが負け、ゲームに興じている。高々と上がるボールはなかなか落ちてこず、忘れたころに落ちてきて、順平ですらタイミングがずれてレシーブし損ねることがあって何度も歓声が上がる。


「結構遊んだけど、お金は大丈夫なの? アンダ」


 的射がアンダにささやく。


「ええ、一昨日出張に行く前に社長が、的射先生のためにって出資してくれたのよ」

「お礼に行っとかないとね」


 的射は不気味だけど優しいスケルトン仕様の社長の顔を思い浮かべた。

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