第24話 闇の中の思い人
深夜。
順平も、パースケも、皆帰宅してしまった。今、働いているのは、社内を回るパトロールロボットのみ。
今日はたまった仕事をかたづけるからと言う名目で的射は、産業医室に残っている。ロドリゲスはスリープモードで目を開けたまま、ピクリともせずに立っていた。
反応はしないが、開けた目から逐一情報は入っているので的射が何か命令すればすぐさま動き出すはずだ。
的射は先ほどから何か忙しそうにコンピューターを操作している。それもやっと一息ついたのか、的射は背を反らして大きく伸びをした。
そして立ち上がってロドリゲスの前に立つと部屋の灯りを消した。ロドリゲスの全身が出すかすかな光だけが闇の中に浮かび上がる。
「この部屋は、安全衛生委員会でも使う部屋です。外部と遮断されているのも再確認しました、ここでの情報が外に漏れることはありません」
的射はじっとロドリゲスを見つめた。だがロドリゲスはピクリとも動かない。
彼女は口を尖らせて、小鼻を膨らませた。
「もうかくれんぼはいい加減に終わりませんか、北村先生」
的射の唇がゆっくりと動く。
トランスポゾンを起動する、二人だけの呪文。
「
ロボットが呼応するかのように青く輝いた。
「さすが僕の見込んだ天才少女、的射君だ。僕の目に狂いはなかった」
言葉とともにロボットの表面に背の高い細面の青年の姿が現われた。
「久しぶりだね、元気そうで何よりだ」
闇の中に浮かび上がる、柔らかいウェーブのかかった光沢のある銀髪、鋭いが優しいまなざしの緑の目とすらりとした鼻筋。控えめな薄い唇。
細いシルエット、のはずだが、的射の目にあふれた涙で、青年の輪郭が大きくゆがんだ。
迎え入れるように、そっと広げられた腕。
胸に飛び込んだ的射は、もう逃がさないとばかりに背中に手を回してしがみつく。
「会いたかった。会いたかったです、北村先生――」
埋めた頭から、静かな嗚咽が漏れる。
宙に泳いだ腕はしばらくためらっていたが、そっと的射を抱き寄せた。
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