◆太陽が見える場所

「……夢か」


 シンは何か夢を見た気がしたが、忘れてしまった。

目が覚めると、目の前には生まれてはじめて見る景色が__光のある朝の空だ。

そして、リーダーに率いられて謎の人々が次々姿を現す。


「助けてくださってありがとうございます。あなたたちは誰ですか?」


 謎の人々に、シンは感謝を述べるとともに尋ねた。

リーダーは、最初は穏やかな様子でシンに告げた。


「私たちは海の神々。遥かな昔から現在に至るまで、侵略者からこの星を守ってきました。しかしながら……」


 途中からリーダーは、険しい顔つきになった。


「約一万年前。私たちは別の侵略者に負け、この惑星を乗っ取られました。

その侵略者とは、正真正銘の__あなたたち人間です」


 シンは動揺した。とても信じがたい、と思った。


「人間は侵略者でありながら、己が侵略者であることすら忘れ、この海の自然と生き物を傷つけて来ました」


 自分たち人間の愚かさに、シンは無意識に憤りを感じた。


「それは……酷い」

「本来人間は、私たち神々の愛する子供ではなく、憎むべき侵略者です。

だから、私たちは人間を滅ぼそうと、二度大地震を起こしました」


 リーダーは続ける。


「今後も、人間が自らを省みないのならば……今度こそ、最終手段を行使することも考えています」


 そんな……と、シンは不安になった。


「ですが……人間がしっかり反省して学んで成長するならば、私たちも考えます……百年間だけ、時間を与えましょう」


 リーダーは、最初と同じ穏やかな表情に戻った。


「最後にもう一つ、約束があります」


 そういうとリーダーは、空に向かって魔法の青い光を放った。


「あなたが乗っていた潜水戦艦は、使い方を一歩誤れば、この惑星に重大な危険が及ぶでしょう」


 魔法の光は潜水戦艦へ落ちた。

すると突然、潜水戦艦の全体が真っ白に光り出し、氷の中に閉じ込められた。


「この極寒の地上で、永遠に眠らせておきましょう。いつか再び、危機が訪れるときまで……」


 リーダーが顔を上げると、空はピンク色から水色へと変化していた。


「……バリアの魔法が切れるまでもう時間がないようですね。案内をつけるので、急いで帰りなさい」


 のぼる太陽を背に、リーダーと海の神々はシンを見送った。


「神さま、ありがとう! さようならーー!」


 シンは元気よくお別れのあいさつをして、海深くへ潜っていく。


 朝の明るい海には、色鮮やかな魚の群が泳いでいた。

群の中には、あの泳げない魚も紛れていた。

シンと同じように彼も泡に包まれていた。その影響なのか、限られた時間だけではあるものの特別に泳げるようになっていた。


 彼はシンに気づくと、素早くシンの元へ近寄り、嬉しそうに踊り回る。

シンの方も彼を抱きしめるように、楽しく踊る。

潜れば潜るほど、周囲の景色は深く暗くなっていく。

小さな魚に導かれ、シンは深い海の底へ帰って行ったのだった。



ーおわりー

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泳げない魚と謎の潜水艦 アムールハート @amourheart

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