◆カメラオタクおじさん

「学校は楽しいよ。特に自由研究が楽しみ! でも……」


 シンは楽しそうに言ったが、すぐに眉をひそめて困り顔になった。


「今、国語の勉強で詰んでる。

施設は窮屈だからつまらない。じっとしてないといけないし」

「……その気持ち、わかるよ」

「えっ?」

「俺だって、本当は自由になりたい。監視されるとか、窮屈にちぢこまるのは嫌だよ」


 おじさんはシンに理解を示し、共感してくれた。


「そもそも生き物ってのは、活発に動くように身体ができてるから、狭いところでじっと動かないでいるのは苦手なんだ」


 シンがおじさんのカメラ好きを理解しているように、おじさんもまた、シンの科学好きを理解していた。


「えっそうなの、だからおじさんも自由が好きなんだ」

「ああ。誰だって得意なことがあれば、当然苦手なこともあるもんだ。

どうしても苦手なことがあるのは、恥ずかしいことじゃない。自分に合ってないだけなんだ」


 おじさんの話を聞いて、心のモヤモヤが少し収まり、シンに笑顔が戻った。


「そうか、気持ちが楽になったよ。お話聞かせてくれてありがとう」

「んで、他に用は?」

「あぁ忘れてた、カメラを貸して欲しいんだ。休みの間の自由研究で写真を撮るの。遠くの景色を撮るから、できれば高性能のものが良い」


 おじさんは壁棚からカメラを一つ下ろし、シンに手渡す。

持ちやすい、ちょうど良い重さだった。

なんとそれは、最新型の超高性能カメラで、遠くまではっきりきれいに写るらしい。


「えっこんな高級品、もらっちゃっていいの?」

「いいんだよ、友達同士だから。

カメラに慣れていない一般の人でも、安心して簡単に使えるよ。

ただ、落とさないようにだけは気をつけて」

「うん、貸してくれてありがとう。それじゃあ……」


 シンはお礼を言い、家を後にしようとした。


「遠くを撮るってことは、どこか旅行にでも行くのか?」


 いきなりおじさんに呼び止められて、シンは一瞬ドキッとした。


「ううん、空を撮るんだよ! ……海の上のじゃなくて、家の周りの、空を!」


 自由研究__シンの場合は危険な計画がばれないように、必死で誤魔化す。


「何だそうか、あんまり危険なことはするなよ。迷惑がかかるから」

「……わかった。じゃ、そろそろまたね」


 シンはおじさんに手を振り、施設へ帰っていった。

おじさんには、何とかばれずに済んだみたいだ。

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